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657.氷竜2

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「いや、骨だけですし。
それに糞尿とか腐りきった腐肉しかありませんよ」
誠一がテンションの高い二人に突っ込んだ。

「おいおい、アル。おまえ、節穴か。
もっと解体学を真剣に学べよ」
ヴェルまでもが嬉々として行動に移ろうとしていた。

「アル、よく見てみて。
幼竜やその餌だったのだろうけど、
結構、上位の魔獣や魔物の骨が転がっているわよ」
キャロリーヌの説明で誠一は改めて巣の中を
見回して納得した。
納得はしたが、人骨の転がる中であれらを
採取する気はどうも起きなかった。

剣豪は誠一が何かを言う前に早い者勝ちだとばかりに
巣の中に飛び込み、最も価値のありそうな素材を
収集し始めていた。
後れを取った他のメンバーも慌てて、
収集のために巣に飛び込んだ。
そんな様子を見て、誠一も巣に飛び込んだが、
早い者勝ちでなく集めた素材はクラン管理とすべきではと
喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
 剣豪のあのモチベーションを見るに
今、言うのは得策でなく、ある程度、
収集できたら言うべきだなと誠一は考えた。
今、言えば、途端にやる気を無くす剣豪であることは
目に見えていた。

 粗方、獲り終えた後、誠一が素材について
メンバーの意見を求めた。ほくほく顔の剣豪の顔が曇った。

「それはクランで管理だろう。
換金か素材をメンバーの装備に利用するかは話し合いだな」
ロジェが当たり前のように言うと、
他のメンバーも特に異論を挟まなかった。

しかし、何も言わずに無言を貫いているが、
不満げな表情を隠そうともしない男が一人いた。
誠一は見てみぬふりをして、ロジェの意見を支持した。
一人の男を除いて、当たり前の様に受け入れて、
素材を整理し、次の移動に備え始めた。

不服そうな男が誠一の側に近寄り、耳元に囁いた。
「それでは駄目でござる。
一生懸命頑張った人が損をしますな。
我が故国では2公8民と言ってですな、
2割を国が徴収し、8割を民のものとした英邁な領主が
いました。
かく言うアルフレート様もその英雄の行動を鑑にして、
そうするでござる」

甘言を囁き、誠一を惑わす剣豪であったが、
マリアンヌに片腕を取られて誠一から引き離された。

「何をする!今、英邁な男への成長を促すために
先ほど件の再考を求めていたでござるよ。
邪魔だてするなら、容赦はせぬ」
剣豪の殺気がマリアンヌと誠一を襲った。
周囲のメンバーも剣豪の殺気に中てられて、手を止めしまった。

「いや、それは佞臣の言だろう。
そもそも飲み屋や妓楼での借金の支払いに
難儀しているせいではないのか?
流石にプライベートの事とはいえ、
生徒の前でこれ以上の醜態を晒したいのか」

ピタリと剣豪の殺気が止んだ。

「ここはアルフレート様の顔を立てましょう。
いと仕方なし。しかし忘れてはなりませぬぞ、
搾取は反発を招きます。
生かさず殺さず生殺し程度の割り振りが
よろしいかと覚えておきなさい」
生徒を諭すように纏めた剣豪であったが、
誠一はつい笑ってしまった。

「アルフレート、君も甘言や佞言には毅然とした態度で臨め。
そんな言葉でふらふらされると周囲が混乱するだろう」
誠一は厳しい言葉を投げかけるマリアンヌを見つめて頷いた。
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