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669.氷竜14

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誠一はマリアンヌによって与えられた回復薬や
気付け薬により意識を取り戻した。

誠一は氷竜の背を殴るアミラ目を凝らして見た。
少し遠いこともあり、誠一の目にはぼんやりとしか
その姿が映らなかった。しかしその姿に違和感があった。
誠一は鑑定眼をもってアミラを観察した。

アミラが『竜人(極)』の称号を得たことを知った。
誠一は、改めてぼんやりとだが、アミラの顔を見た。
もしキャロリーヌやシエンナが突然、あの様に
なったとして、ヴェルのように振舞えるだろうか、
誠一は戦場であったにも関わらず場違いなことに
思いを巡らせてしまった。

その答えを誠一は知りたくなかった。

その答えを考えるまでもなく誠一は分かっていた。
自分より全然、人生の経験が少ない青年の持つ心の在り様に
誠一は初めて嫉妬、憎悪を感じてしまった。
アミラがあの姿のままで、いつまであの男が
彼女の思いへ応えられるかと底意地の悪いことを
考えてしまった。
自分には到底、持ちえない強い意志を目の当りにして、
誠一は暗い気持ちに支配されていた。
そしてそのことを恥じる誠一であった。

「アルフレート、君は今、悪いことを考えているな。
あれ程、自分の気持ちに素直な少年は眩しいな。
眩し過ぎて、見ているこっちが恥ずかしくなるよな。
若い頃は誰もが持っていたが大人になるにつれて、
どこかに落としてしまうものだ。
さて、このままあの成り行きをみるかい?」

誠一は首を横に振った。
心に芽生える闇の気持ちを抑えつけて、震えながら答えた。

「何とか出来るなら、2人を何とかお願いします」

「良いだろう。あれだけ傷ついた古竜だ。
私と剣豪殿が参戦すれば、降参するか逃げ出すだろうな。
そうだろう剣豪殿」

いつ近づいたのか誠一は全くその気配を感じなかったが、
近くで剣豪は既に抜刀していた。
「ふむ、その通りですな。
ちょちょいと屈服させてくるでござる。
あのままでは拙者の好む幕切れにはなりませぬので。
キャロリーヌ殿、ここは任せるでござる」

誠一は氷竜の方へ目を向けた。
サリナやロジェは氷竜の注意を二人から逸らせようと
しきりに牽制していた。
シエンナは様々な魔術を駆使して氷竜を牽制していた。
足元でちょろちょろする人間と背中に突き刺さる竜人の拳に
不快感を露わにする氷竜だった。
しかし氷竜は纏わりつく者たちに集中することができなかった。
強大な二つの力を感じているためであった。

ちょこまかと纏わりつく人間どもは
最終的に屠る自信は氷竜にはあった。
人の身にしてはよくやったと殺した後に嘆息して、
その内、忘れ去るだろうと氷竜は思っていた。

だが、あの二人は別であった。
今の傷ついた状態では、生き残れる可能性は
五分五分といったところであった。
死の可能性を本能で感じた時、
氷竜は戸惑い、恐れ、怒り、様々な感情が
入り混じり、自ら混乱に陥った。
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