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668.氷竜13

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アミラの目は竜尾が僅かに早く、
ヴェルの技が発動するより彼を捉えることを見定めた。
アルフレート・フォン・エスターライヒのように
強力な防具を身に付けていないヴェルが
その攻撃をまともに受ければ即死することは
火を見るよりも明らかであった。

アミラの心と身体にヴェルを失う恐怖が襲った。

そして、全身の隅々までそれを『嫌だ』と拒否した。

しかし、今のアミラにはヴェルを護る術はなかった。

スローモーションのように竜尾がヴェルに
近づくのを見送るしかなかった。

『ヴェルを助ける。ヴェルを助ける。ヴェルを助ける。彼を失わない』

この刹那の刻に一体、何度、全身隅々までこのことを
訴えただろうか、アミラには全く分からなかった。

自然、彼女の身体が動いた。

少しでも攻撃の衝撃を和らげようとして、
ヴェルと竜尾の間に割って入った。

「がああっ」

アミラは何かを言ったつもりだったが、
それは言葉にならない叫び声だった。
表現するならば、氷竜の咆哮に近かった。
アミラは身体中に破裂しそうなほどの力の解放を感じた。
竜の尾を受け止めても微動だにしなかった。

『ヴェル、今です。思い切って、放って』

アミラは思いの丈を叫んだが、言葉にならかった。
先ほどと同じような叫びが響いただけだった。

「がああっあー」

ヴェルは竜尾にハルバートの穂先を突き刺した。
ハルバートの穂先は爆発して、竜の鱗と肉を弾き飛ばした。

氷竜は嗜虐的な目でヴェルとアミラを見下ろした。
『竜を模した出来損ないがそこまでの力を持つとは。
だがその姿、人の世で生きていけるのか。
そして身を挺して貴様が守った男がその姿を
受け入れられるか見ものだな。良き良き余興だ』

『貴様には関係ない。ヴェルが生きていれば、それでいい』

アミラは身体の変化に気づいていた。
そして、何よりヴェルの無事な姿を見て、
ホッと心を撫でおろした。
そして、決してあの姿を忘れぬように
心へ焼き付ける様に食い入るように見つめた。

「アミラ」

ヴェルが振り返ろうとした瞬間、
アミラは極度に飛躍した身体能力を駆使して、
竜の背を一気に駆け上がった。

駆け上がるアミラの姿をヴェルの遠見の目が捉えていた。
その姿は父カスペール・グロウと同じ姿であった。
竜の顔、竜の腕、竜の足、肌は竜鱗に覆われていた。
グロウ以上にアミラは、竜に近し姿となっていた。

「馬鹿野郎、お前、俺の眼の良さをしっているだろ。
お前が俺からどんなに離れていようとも
どこにいようともアミラ、お前の姿は俺の瞳に映るだろ。
俺の瞳はお前を捉えて離さないだろ」
ヴェルは絶叫した。

ヴェルの背中にはその叫びに呼応したかのように
蒼白い炎が広がった。
それは、まるで大きな二つの羽根の如くゆらゆらと
揺れていた。
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