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674.氷竜19

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「と言われてもどうしたらいいんだ、アル」
ヴェルに妙案はなく、どうしたものかなと思い、
誠一に問うた。

誠一は過度な身体能力の向上の反動で深い眠りについていた。

「アルは、起きないわよ。
ちょっと、ヴェル、その手に持つ千晴様より
下賜された強烈気付け薬をどうするつもり?
まさかアルに振りかけるつもりじゃないわよね」

シエンナがヴェルの往く手を阻んだ。

「じゃあ、どうすんだよ。この地に居て貰うのか?
それとも俺らの冒険に付き合って貰うのか?」

「うっそれはその」
ヴェルの勢いに押されるシエンナであった。
ぷくーとシエンナの頬が一瞬、膨らむと
逆に今度はシエンナの勢いがヴェルを押し返した。

「何よ、何でもアル、アルって!まずは、当事者でしょ。
まず当事者がどうしたいかを確認するのがまず最初でしょうに。
アルが決めれば、当の本人がそれを受け入れる訳?違うでしょ」

「ぐっ。そう言えばそうだな。
まず氷竜に尋ねるのが筋だな。
それとアミラの気持ちか。
シエンナ、お前、最初から意見がはっきりしているなら、
いきり立つ前に言えよな」

「なっ」
神経を逆撫でされたシエンナが
反論しようとした矢先、アミラに遮られた。

「二人ともいい加減にするです。
アルフレートは、お休み中ですから、
まずスケードに聞くべきです」

一旦、2人の舌戦は休止となったようだった。

遠目に二人のS級の冒険者がそれを眺めていた。
「おいおい、剣豪殿。
まさか氷竜を仲間にするなど前代未聞のことだぞ。
竜騎士自体が稀有な存在なのにあの氷竜に
騎乗するとかあり得ないだろ」

ぶるぶると震える剣豪は腰袋より袷羽織を
取り出すと羽織った。
「そんなことはどうでもいいこと。
サッサっとどうするか決めて、街に戻るでござる」
左程の寒さでもないにも関わらず、
様になる姿でぶるぶると震える剣豪をマリアンヌは皮肉った。

「心頭滅却すれば火もまた涼しとは、
貴殿の国の言葉では無かったか」

「熱いものはどうやっても熱いし、
寒いものはどうやっても寒いでござる。
心の持ちようで凌げるなどと考えるのは馬鹿らしい。
熱に中てられて倒れるか寒さに凍えて凍傷になるのが
関の山でござる」

「なるほど、確かにその通りだ。
いや違う違う、そんな話をしていたのではない。
年長者として然るべき助言を伝えるべきではないのか?」
ペースを完全に乱されたマリアンヌが
強引に話を氷竜の件に引き戻した。

「ふむ、それこそ、今の格言をヴェルとシエンナに
送ってやるべきではないのかな」

「そうだその通りなのだが、いや待て。
何かが違う。確かに違う筈だ。
もうよい、剣豪殿はそこで震えていろ、ちょっと行ってくる」
何かが違うと連呼しながら、マリアンヌは
ヴェルたちの集まる方へ向かった。

「ふむ、マリアンヌ殿もまだまだ、お若い。
どうやら経験すべきことが多々あるようでなにより」

剣豪は笑みを浮かべながら、楽しそうに彼等を眺めていた。
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