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682.氷竜27

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「ごめんごめん、ヴェル。氷の雫ありがとう。
それよりスケードはどうするの?」

ヴェルは大きく息をして冷たい空気を
肺に取り込むとどうやら落ち着いたようだった。
「ふう、すまん。アル、少し動揺しちまったよ。
氷竜のスケードは俺らについて来るそうだ。
まじで古竜ってすげーよ。流石に驚いたわ」

誠一は周囲を見渡すが、巨大な体躯の氷竜が
見当たらないことに気付いた。
「その当事者の氷竜は、餌でも取りに行っているのかな」

「ちゃうわい。あそこに居るわ。
サリナの隣に見知らぬ奴がいるだろ」
誠一はサリナの方へ目を向けると、
そこには初老の老紳士が立っていた。
その男は、背筋をピシッと伸ばし、立派な口髭を蓄え、
お洒落な燕尾服に黒色のシックなマントを身に纏っていた。
右手には杖の代わりのつもりか長い木の枝を持ち、
ぴしぴしと動かして、サリナへしきりに指示を出していた。

「まさかあの執事のような方がそうなの?」

誠一の驚きに何故かヴェルが偉そうに答えた。
「そうだろう。まあ、始めて見ると信じられないだろうな。
そうだな、アル、君の驚きも分からんではないが、あれが事実だ」
 
誠一の能面のような表情を見て、ヴェルは慌てて、言葉を重ねた。
「アル、アレは竜族の独自の魔術だそうだ。
人身の魔術って言うらしいぞ。
シエンナも始めて聞いたって言ってた。
まあ、アミラが教えてくれたんだけど」

「もしかして金色の竜も人化できるとか」

ヴェルは驚きの声を上げた。
「うおいぅ、アル、何で分かるんだよ。
あの黒衣の宰相、好々爺のようなじいさんと呑んだじゃん。
絶対に言うなよ、あの爺さんがそうらしい」

「そうです、絶対に秘密です。
広めたら、もれなく暗殺者が竜公国より送られてくるです。
スケードに金色の竜が人化して、
人と交わっていると説明したら、
負けん気を起こして、ああなったです」
機嫌を直したアミラが口を挟んできた。
恐らく誠一とヴェルの会話が弾んでいるために
混ざりたくなったのだろう。

「傷は癒えてないから、暫くは大して動けないです。
取り敢えず同行するです。
あの姿なら人と同じ食事量でいいみたいです」

一体、どういう原理だろうと誠一は考えたが、
魔法や魔術に科学のような原理原則を求めるのも
野暮かなと思い、考えることをやめて、
あるがままを受け入れることにした。
「それでなぜ、サリナがあれこれ指示を受けて
行動しているんだい」

「あーそれはな。アル、まあ、サリナが一番、
真面目で素直だからかな。
シエンナは、珍しい素材を見れば、興奮して作業が止まるし。
俺はまあ、飽きポイし、アミラには、何故か指示しないしな」

あーこいつ、この期に及んで嘘をついてやがる。

誠一は二人の作業が止まるのは、
いちゃついているためだと思った。
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