黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第058話 夜空に紡がれる妹の願い③

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「そうだ。どうやら……ヤツらの狙いは『魔煌石』らしい。おそらくは、この前俺が討伐したナイトオーガの魔煌石だろう。そして、さらに気になるのが……その『魔に喰われた人間』は、一目ではそうとは見えない・・・・・・・・らしい」
「えっ? どういうこと?」
 わずかに訝しんだ表情で聞き返したアリアに、ツグナはその答えを告げる。

「つまり、身体に埋め込まれた魔煌石――魔物の力を、完全に制御できている可能性があるってことだ。もしくは浸食率がまだ低いから……という線も考えられるが、どうにも情報が少ない。だから、現状では制御できている可能性があると想定しておいた方がいいだろう」
「じゃ、じゃあなおさら――」
「だからこそ、『みんなで・・・・』行くべきだろ?」

 早く向かうべきだ、という続くアリアのセリフは、ツグナの言葉に遮られた。焦燥感に駆られるアリアを宥めるように不敵な笑みを浮かべたツグナは、彼女の前に右手首に嵌めた腕輪――星夜せいやの腕輪を見せて告げる。

「お前も知ってるだろ? この腕輪の効果を。ついさっき、この魔道具を通してみんなには念話で既に連絡済みだ。まぁアリアにも同じように念話で伝えようとしたんだが……ちょうどこっちに来るところだったから、直接話した方がいいだろうって思ってさ。とにかく、もうすぐみんなも戻ってくる。だから、今はまず落ち着け。友だちが心配なのは分かるが、焦りは禁物だ。一筋縄じゃいかない相手だろうからな」
「う、うん……そうだね。ごめん、ツグ兄」
 ツグナに諭されたアリアは、わずかに俯いて小さく謝罪する。申し訳なさそうに顔を伏せるアリアの頭を、ツグナは優しく撫でながら声をかけた。

「気にするなって。俺も家族が同じような状況にあるなら、今のアリアのようにすぐにでも助けようとしただろうからな。気持ちは分かるよ」
「うん、うん……」

 アリアは今にも泣き出しそうな顔で何度も頷く。
 ツグナは他の面々が家に戻って来る間、妹の頭を撫でつつ「どうやって現場に向かおうか」と思考を巡らせたのだった――

◆◇◆

 アリアが家に戻って来てから二十分後。残りのメンバーも戻って来たところで、ツグナはアリアに伝えた情報を繰り返し伝えた。

 そして――
「ふむ。それぞれ向かう準備は出来たようだが……実際にどうやって行くというのだ? これだけの人数が一斉に動くともなると、さすがに目立つだろう?」
 一通りの装備を確認し終えたツグナに、リリアが疑問を投げかける。
「あぁ、それは――」
 その問いかけに対し、彼はニヤリと口の端を持ち上げながら左腕から魔書を取り出す。

「今日は幸いなことに新月だ。月が出ないこの夜は、身を隠して移動するには絶好の時間ゴールデンタイムなんだよ。そうだろ? ――コクヨウ」

 彼の呼び声に応じて現れたるは、漆黒の身体を持つ鷹――コクヨウであった。顕現したコクヨウを肩に止め、頭を撫でながらツグナはリリアの発した質問に答える。

「地上を走れば師匠の言う通りそりゃあ目立つだろうな。だったら――こうして上から・・・行けばいい」
「っ――! なるほど。確かに障害物のない空からなら目立つこと無く向かうことができるか」
 ツグナの出した答えに、リリアもまた微笑を湛えながら呟く。

「あぁ。それに……」
 ツグナは徐に肩に止まっていたコクヨウを開けた窓から外へ放つと、彼の持つ「ユニーク魔法」――創造召喚魔法の派生技能である「拡縮自在」を発動させ、その漆黒の身体を何倍も大きくする。

「――呼び出して早々、乗り物扱いして悪いな。しかも、こんな姿に・・・・・なってもらって」

 家の庭先ギリギリに収まるほどのサイズまで拡大したコクヨウの背に乗ったツグナが、その後首を撫でながら小さく謝罪する。
「いえ。主のために仕えるのが従者の役目ですから。それに、楽しみでもあったのです。主が転生を果たす前にいた世界、その空をこの両翼で飛ぶ日を」
「そうかい。なら、無事その願いを叶えてやれてよかったよ。ただ、ガッカリさせるようで悪いが、この世界の空は向こうと比べて快適とは言えないと思うぞ? 車の排気ガスで空が汚れてっからな」
「そのようで。しかしながら、主と共に空を駆けることができるのです。それだけでも良しとするべきでしょう」

 ツグナの愚痴めいたセリフに対し、コクヨウが生真面目な言葉を返す。「律儀なヤツだなぁ……」と口に出すのに代えてその頭を撫でたツグナは、リビングにいる仲間たちの方に顔を向けると、先ほどまでコクヨウの頭を撫でていた手を差し出して呟く。

「それじゃあ――『俺たち・・・』は先に行くとするか。なぁ、アリア」
「えっ? う、うん!」

 一瞬呆けた表情を見せたアリアだったが、すぐに彼が手を差し出したその意図を察すると、破顔一笑して飛びつくようにその手を握った。
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