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2.婚約回避のための偽装を頑張ります

2-19.

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 メイク用品の開発は少しずつではあるが進んでいた。
 マスカラもどきは前世のものには遠く及ばないが商品化が進んでいる。あの形にするのはなかなか難しいので小さな容器に入れたものと専用のコームをセットにして売り出すことにした。

 今日は試作品の確認だ。お母様はこの試作品をとても楽しみにしている。
 わたしも商品化に向けてしっかり確認しないと。

「ねぇ、このコームにまんべんなく乗せるためのへらが欲しいわ」
「たしかにこのコームで直接取って塗るのは難しいですね。へらを用意してもらいましょう」
「あと、このコームの目はなるべく細かい方が良いわ」

 わたしはリネットに要望を伝えていく。お母様は疑問を投げかけてきた。

「どうしてかしら?」
「マスカラがダマになってしまわないようにです。ダマになると美しくないでしょう? 目が細かい方がダマになりません。塗る前に先にコームでまつげをとかすといいですよ。塗り終わった後もコームでとかします」
「なるほどね。たしかにまつげにダマが乗っていては美しくないわ。色味はどうなっているかしら?」

 この状態のお母様と話すときはつい子供らしさを失ってしまうけど、お母様は気にしていないようだ。それだけ化粧品に夢中なのかもしれない。

「今回は黒色で三種類用意しております。茶色は一種類です」
「黒でも色味が違うわね。どれが良いかしら……」
「人によって似合う色が違うと思いますよ。髪の色も瞳の色も違いますから。あとはメイクによっても変えた方が良いですし」
「それもそうね。……とりあえずは無難にこの黒とこの茶色があると良いのではないかしら」
「そうですね。茶色はあったほうが良いと思います。黒は試作品の中ではわたしもお母様と同じ意見です。これにしましょう。紺や緑などいろんな色があってもいいですが様子を見てですね。一度には作れないでしょうから」
「えぇ。色を増やすのも良いけど、ほかのものも増やしたいわ」
「では、色は反応を見て増やしていくことにしましょう。次はアイラッシュカーラーです」
「これよ。楽しみにしていたんだから」

 お母様の声が弾んでいる。

「レティシア様の図案を元に試作していただきました。どうでしょうか?」
「すごい。イメージ通り! 使ってみても良い?」
「ぜひお試しください」
「どうやって使うのか見せてちょうだい」

 わたしの絵をしっかり再現してくれている。すごい。ちゃんとできている。あまり難しく考えなくてもできるものなのかしら。物語の中の世界だし……。
 この世界には金属もゴムも普通にある。機械はないけれど、それに代わる便利アイテムはある。まぁ、小説や乙女ゲームの中でエネルギーがどうとか原理がどうとか言い始めたら興ざめだしね。
 わたしは気を取り直して鏡を手にして、アイラッシュカーラーでまつげを上げていく。
 おぉ、ちゃんと上がる。改良したいところもあるけどまずまずの出来ではないかしら。

「まぁ。まつげが上がっているわ。目が大きく見えるわね」
「先にまつげをあげてからマスカラを塗ると良い感じになるはずです。お母様もやってみますか?」
「えぇ、やりたいわ」

 お母様はわたしがやっていたのをまねしてまつげを上げていく。

「難しいわね」
「まつげの根元を挟んで少しそのままにしてください。毛先にむかって少しずつアイラッシュカーラーをずらすと良いですよ。挟んだらその状態を少しキープして、少しアイラッシュカーラーをまた移動させて……の繰り返しです」
「こうかしら?」

 最初は戸惑っていたお母様だがすぐにコツを掴んだようだ。

「すごいです。お母様。これにマスカラを塗ってみてください」
「やってみるわ」

 お母様が手を震わせながら塗っていく。やっぱり器用だわ。

「どうかしら?」
「すごいです」
「お似合いです。奥様」
「はぁ……。本当にすごいわ。なぜ今までこれがなかったのかしら」

 お母様にはご満足いただけたようだ。

「アイラッシュカーラーはだいたいこれで良いと思うんだけど、ここのカーブの深さが違うものをいくつか作ってくれないかしら?」
「どうしてかしら? とても良いものだと思うのだけど」
「人によって合うカーブが違うんです。もしかしたらお母様にももっと良いものが作れるかもしれません」
「かしこまりました。これを基準にカーブの浅いもの、深いものを何種類か作ってもらいます」

 わたしとしてはシミを作るシートの開発を優先させたかったが、お母様の期待にこちらを優先せざるを得なかった。
 この世界の便利グッズもいろいろと調べたかったんだけどなぁ。変装グッズとかもあるみたいだし。
 でも、これでしばらくは殿下のお茶会の準備に集中できそうだ。
 
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