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王妃の部屋にて

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コンコンッ
「王妃様、大公様と従者ジャックが参りました。」
侍女が母上にそう伝えに来た。
「通しなさい。」
「はい。・・・どうぞ、お入り下さい。」

「失礼します。 王妃様。」
「失礼致します。」
そう言って大公殿・・・僕の叔父上であり義父と義父上ちちうえの従者であり護衛のジャックが入ってきた。

「王妃様。王子様。この度は我が娘が本当に申し訳御座いません。」
「私の不手際です。申し訳御座いません。」
「大公・・・いいえバルト、そしてジャック・・・サーシャは何も悪くありません。勿論ジャック、貴方もです。 わたくしと王子はジャックを処罰しようと思ってここに呼んだわけではありません。故に、謝らないで。 それに、一番悔しいのはバルト、貴方でしょう?わたくし達は家族です。慣例に囚われず悔しくて悲しい事を共有しましょう。」
「義姉上・・・ありがとう・・・ございます・・・」
義父上は母上に跪き、肩を震わせながら礼を尽くした。

「今、王様が全力を尽くして逃げた者を探していますから、時期に見つかるでしょう。そのためにも貴方がたの協力が不可欠です。」
「我が子が危険な目にあったのです。私財を投げ打ってでも、全力を尽くさせていただきます。」
「私も、全力を尽くします。」
「よろしくお願いしますね。 ところで、ジャック。先日も聞きましたが、サーシャがあんな事になっていたのでゆっくりと話を聞く事が出きなかったわね。当日の出来事をもう一度話して頂戴。」
「承知いたしました。」



ジャックは僕たちに詳しく当時の様子を話してくれた。



「・・・なるほど。サーシャのお腹を殴った男はサーシャに『頼まれている』と言ったのね。」
「はい、それと『王子妃様』・・・と。」
「では、サーシャが王子妃と知っていて、なおかつお腹に子がいる事を知っていると言う事ね。」
母上がそう言うと義父上が話し出す。
「娘が王子妃と知っている人間、・・・この国に住んでいる人間はみんな知っているでしょう。」
「そうね、公式行事には必ず参加しているし。」
サーシャは体調を崩しても、公式行事だけは必ず参加していた。
一度だけ、休んではどうか?と提案した時。
わたくしが王子妃だと言う事をキチンと民に知っていて欲しいの。貴方を・・・未来の国王を一番に支える人間がどんな人物であるか、ちゃんと知っていて欲しいから、わたくしは行事に参加します。』
そう言って、青い顔を化粧で隠して民の声を聞いていた。
サーシャ、君があんな目に合うのは到底許される事じゃない。
僕が何としてでも罰して見せる。
グッと手を握り、今後の事を話している3人の声に耳を傾けた。


「サーシャの顔を知っている者は多いけれど、懐妊を知っている人間は限られてくるわ。」
「と、言いますと?」
「バルト、実の父親である貴方にすらまだ伝えて居なかったのですよ。サーシャの懐妊を知っているのは本当にごく限られた人間だけなの。」
母上が人差し指を口元に持っていき、鋭く目を光らせ義父上の事を見る。
「では、その限られた人間とは誰でしょうか?」

「王様・わたくし・クラウス。それからサーシャのお世話をする侍女達。彼女達はわたくしが選りすぐりの者を選んでいるから安心して頂戴。・・・後は、そう。2人」
母上の顔が暗くなる。
「誰です!私に直接尋問をかけさせて頂きたい!!」
声を荒げる義父上に、母上は口を開いた。

「おそらくそれは今の時点では無理です。 何故ならその2人とは、リズとメリル・・・側室だからです。」
「側室・・・何故です・・・何故側室に・・・」
「偶然だったのです。サーシャもみんなも気をつけていたのですが。広い王宮と言えども女とは妙な感が働く生き物なのです。 ですがこれに関してはわたくしの不手際です。本当にごめんなさい。」
母上は椅子から立ち上がり義父上に謝る。
「義姉上、謝らないで下さい。・・・悔しいですが、やはりいずれはバレる事です。 ですが、それではその2人のどちらか、または2人が黒幕では?」
「おそらくそうでしょう。ですがまだなんの証拠もない。・・・動機はありますが。」
「動機とはサーシャの懐妊ですね。」
「ええ、しかもあの2人もサーシャよりは少し遅れましたが懐妊しています。王子妃の懐妊、側室の懐妊。やはり世継ぎの事でしょうね。」

「あの2人も懐妊!? ・・・ぃゃ、大声を出してしまい申し訳ありません。」
義父上はギュッと拳を握る。
その姿を見て、申し訳なさが湧き上がる。

「義父上・・・申し訳ありません」
「何故王子様がお謝りになるのです。王子様は何としてでも世継ぎを作るのもまた使命です。側室もまた、このローズグリーン国の王家の血を絶やさぬ為に設けられた制度。 サーシャが納得しているものを私からとやかく言う事は御座いません。」

そうは言うが、義父上は一度もこちらを見ない。
暫しの沈黙が続いた。

「あの・・・宜しいでしょうか?」
母上と義父上の話が白熱していたので、なかなか話す隙がなかったジャックが、この沈黙を破った。

「どうしたの?ジャック。」
「ありがとうございます。 お話が続いておりましたのでお見せするのが遅くなりましたが。 あの日、王子妃様を馬車迄連れて行った後私は男たちを探す為にもう一度あの場まで戻ったのです。すると、このスカーフが池の側に落ちていました。」
そう言ってポケットから出した青いスカーフを母上に手渡す。

「うーん。特に変わった感じでは無いけれど・・・」
「広げてみてください。」
そう言われ母上はスカーフを広げる

「あら?ここに刺繍が・・・家紋かしら・・・?でも、見たことないわね。」 
「母上、よれば僕に見せてください。」
この国の家紋であれば既に無いものまで幼い頃から勉強してきたから自信がある。
僕は母上からスカーフを受け取り刺繍を確認する。

「これは・・・没落したオーディス家の家紋では?!」
「左様でございます。」
僕がそう言うとジャックはすかさず反応する。
「こちらは100年程前に没落したオーディス公爵家の家紋。100年前に没落した家紋なので、王妃様がご存知なくても不思議ではございません。」
「100年前に没落して王妃様でも知らない家紋を、何故ジャックが知っているんだ?」
僕がジャックに問うと、義父上が口を開いた。
「ジャックはそのオーディス家が没落するまで仕えていた執事の家系なのです。」
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