隣の旦那が私の子供を妊娠した日


「南さん……念のため、もう一度言いますね」

医師はカルテから目を上げ、言葉を選ぶように一拍置いた。

「妊娠しているのは、あなたではありません」

南 恵子は、一瞬、自分の名前を呼ばれた理由がわからなくなった。
ここは産婦人科で、診察室で、白いカーテンの向こうにはエコー機器がある。

なのに。

「……隣の、西野さんです」

医師の視線が、ドアの方へ向く。

そこに座っていたのは、
隣の家の旦那――西野ゆうじ、三十五歳。

顔色は悪く、両手で腹部を押さえ、浅い呼吸を繰り返している。
汗で濡れた額が、蛍光灯の光を反射していた。

「冗談、ですよね……?」

恵子の声は、情けないほど震えていた。

男性が妊娠する。
そんな話、聞いたこともない。
SFか、悪趣味な都市伝説の類だ。

けれど、エコー画面には、確かに“何か”が映っていた。

「週数的には、六週前後です」

医師は淡々と告げる。

六週前。
恵子の脳裏に、はっきりとした日付が浮かんだ。

雷が鳴った夜。
停電。
夫は出張中。

そして――
玄関先で、ゆうじと二人きりになった、あの夜。

「……嘘」

恵子は、思わず隣の男を見る。

ゆうじは目を閉じたまま、かすれた声で呟いた。

「やっぱり……そう、なったか」

その言葉が、何よりも恐ろしかった。

否定しない。
驚かない。
まるで、予想していたかのような口ぶり。

恵子は自分の腹ではなく、
彼の腹部から、目が離せなくなっていた。

――この中にいる“何か”は、
一体、誰のものなのか。
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