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ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね

キャ、キャンプ仲間としてですよっ

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 車が着くと、庭にいた藤崎のお父さんが出てきて、野菜と果物をふたりにくれた。

 総司とともに礼を言って去る。

 だが、少し走ったあと、住宅街の道から大通りに出る手前で、総司はいきなり車を避けてとめた。

「よく考えたら、なんでお前、後ろに乗ってんだ。
 前に来い」
と萌子を振り向き、言ってくる。

 え? は? と訊き返すと、
「俺がお前の運転手みたいだろ」
と総司は言ってきた。

「あっ、はっ、はいっ。
 そうですよねっ。

 すみませんっ」
と言いながら、萌子は慌てて助手席に移動する。

 侯爵様に、近こう寄れ、とか言われると、緊張するんですけどねーと思いながら。




 広い道に出て、少し走ったところで総司が前を見たまま言ってきた。

「もう夕方だな」
「はい」

「晩ご飯はどうするんだ?」
「えーと、カップ麺かコンビニ弁当ですかね?」

「そうか。
 帰って作るのめんどくさいよな。

 俺もだ。
 もう料理は堪能したしな。

 食べて帰るなら、おごってやるぞ」

 そう総司は言ってくる。




「えっ? いいですよっ。
 自分で出しますっ」

 食事をおごってやろうと言うと、萌子はそう言ってきた。

 ……自分で出しますって言うということは、行くことには同意したわけだな、と思いながら、総司は、ふと疑問に思う。

 なんで俺はさっき、藤崎がいるときに食事に行こうと言わなかったんだろうな、と。

「花宮、荷物は置いてこなくていいか」
と萌子に訊くと、

「あ、荷物はほとんど車に乗せてるので。
 おにいちゃんが運んでくれるはずです」
と言ったあとで、萌子は何故か照れたような顔をする。

 どうした、と思って見ると、萌子は、

「いや、さっきまで、うちの家族がいたせいか、課長に名前で呼ばれてたので。
 花宮と呼ばれると、日常が返ってきたなって感じがするなと思って」
と言う萌子に、

「ああ、悪かったな。
 勝手に呼んで」
と総司は言ったが、萌子は、

「いえ。
 なんかちょっと嬉しかったです。

 あ、いえ、その嬉しかったって、そのっ。

 キャ、キャンプ仲間として距離が縮まったっていうかっ」
と慌てて付け足してくる。

「そうか。
 じゃあ、キャンプのときは萌子と呼ぼうか」
と言うと、

「あっ、いやっ。
 でもやっぱり、緊張するんでっ」
と真っ赤になって、萌子は言ってきた。

 なにが緊張するんで、だ。

 ……いつも神経太いくせに、なに可愛いこと言ってんだ。
 莫迦じゃないのか。

 可愛い……、

 いや、ウリが憑いてるせいで可愛いく見えるんだな、きっと、
と総司はひとり納得しようとした。



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