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第4章

第63話

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“ズズズ……”

「壁が……」

 巨大な岩石は落ちてこないが、小さくても強力な威力をした岩石が、火山の東側の広範囲に落下してくる。
 ケイたちがいる洞窟付近にも次々と落ちてくる。
 その落石から洞窟内に避難しているみんなを守るため、ケイは懸命に魔力障壁を張って守り続けている。
 そんな中、ケセランパサランという魔物で、ケイの従魔のマル、ガン、ドンの3匹が、岩石が降り注ぐ中をケイの指示を聞かずに障壁から出て行ってしまった。
 同じくケイの従魔のキュウが念話で言うには、こちらへ向かって来る溶岩流を止めに、この危険な中を3匹で向かったとのことだった。
 障壁から出て行って数分が経つと、マルたちが向かった方角から大きな音が響いてきた。
 そちらに目を向けると、大きな半円型の壁が沸き上がって来た。
 反応を見る限り、どうやら誰かが土魔法を発動したようだ。

「……マルたちがやったのか?」

「……とりあえずこれで防壁だけに専念できる」

 折角作った西の畑も、溶岩に飲み込まれてしまっているだろう。
 西側の島とこちらの東側の島には渓谷があるが、たいして幅は広くない。
 溶岩流の勢いからすると、時間稼ぎにもならないはずだ。
 それが、突如出現した半円型の壁によって溶岩流が二手に分かれ、そのまま南北に向かい、海へと流れ落ちていくようになった。
 レイナルドが言うように、方角的にマルたちがやったに違いない。
 これなら溶岩の接近に悩む必要がなくなった。
 あとはこのまま噴火が沈静化するまで障壁を張り続けるだけだ。
 


「……マルたちはなんで帰って来ないんだろ?」

 溶岩流の流れを変えた壁ができてから数分が経った。
 距離的には数キロなので、壁を作ったであろうマルたちがもう戻ってきてもいい時間だ。
 そのことに気付いたレイナルドは、不思議に思いケイに尋ねた。

「……もしかして?」

 キュウと同様に、マルたちも魔法特化だが戦闘力は上がっている。
 雨のように降り注ぐ岩石をくぐり抜けて壁を作り、ここに戻ってくることはできるはずだ。
 それが戻ってこないということは、何かしらのアクシデントがあったのかもしれない。
 レイナルドに問いかけられたケイは、嫌な予感が沸き上がって来た。

「…………レイ! 美花を呼んで来てくれ」

「母さんを?」

 ケイの妻である美花は、普通の人族であるため、ケイたちほどの魔力は扱えない。
 噴火当初はケイとレイナルド、そしてキュウたち従魔で抑えきれると思っていたため、他のみんな同様に洞窟内に避難してもらった。
 それなのに、その美花を呼び寄せる意味が分からず、レイナルドは反射的にケイに理由を求めた。

「少しの間だけ障壁役を代わってもらう」

「父さん、もしかして……」

 その一言でレイナルドは理由を理解した。
 レイナルドから障壁の役を代わって、たいした時間は経っていない。
 ケイの魔力量からしたら、まだまだ障壁を代わる時間ではない。
 今ケイがこの役を変わってもらうとすれば、考えられるのは一つだけだ。

「マルたちを迎えに行く」

 そのためには、障壁を張る代わりの人間が欲しい。
 レイナルドとキュウは、まだ魔力の回復ができていない。
 そうなると、次に魔力があるのはケイのもう一人の息子であるカルロスになるのだが、結婚間近の今、危険な目に遭わせるのは、ケイにはどうしてもできない。
 だが、そんなことを言っている場合ではないし、マルたちにもしものことが起きているのなら、助けに行きたい。
 悩んでケイが出した答えは、妻の美花だった。
 普通の人族と言っても、刀を使った戦闘技術はこの島でピカ1。
 魔力量もエルフのケイに比べるのがおかしいのであって、十分多い部類に入る。
 それでも今回障壁の役から外したのは、ケイが美花が大切な人だからだ。
 そんな美花を出してでも、ケイはマルたちを迎えに行きたい。

「でも……」

「分かってる。普通なら戻ってきてもいい時間だ。なのに帰って来ないんだから……」

 これだけ時間が経っても戻ってこないのだから、最悪な状況は予想できる。
 マルたちのことは、レイナルドも子供の頃から一緒に生きてきたので家族だと思っているが、今更迎えに行ったところで無駄な可能性が高い。
 レイナルドは遠回しにケイを止めようとするが、ケイはそれでも行くことを告げた。

「…………分かった。母さんを呼んで来る」

「いいわよ! ……というか、こんな状況ならもっと早く呼びなさいよ!」

 ケイの意思が固いことを悟ったレイナルドは、洞窟内に避難している母を呼びに行こうとした。
 だが、レイナルドが洞窟の方へ振り向くと、そこにはもう美花が立っていた。
 しかも、話を聞いていたらしく、説明する必要なく答えを返してきた。

「美花!?」「か、母さん!?」

 ケイとレイナルドは切羽詰まっていたのか、2人とも美花の存在に気が付かず驚きの声を出した。

「ほら! マルちゃんたちに何かあったんでしょ? 早くいってきなさい!」

「わ、分かった! すぐに行って来る」

 尻を叩かれたケイは、障壁を美花に任せ、言われた通りにマルたちが向かった方角へ走り出した。
 こういった時でも肝っ玉が据わっているのは、やっぱり男性よりも女性なのだと思い知ったケイだった。
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