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第4章
第64話
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少しの間落石から守るための障壁を美花に任せたケイは、レイナルドのキュウを渡し、急いで西へと足を進めた。
当然ケイに向かって大小の落石が落ちて来るが、今は自分の身さえ守れば良いので、わざわざ受け止めることなく、ただ躱して先へと進む。
「っ!?」
進んでいると、黒い物が岩の下敷きになっているのがケイの目に入った。
そのためケイは足を止めて、ゆっくりとそこに近付いて行った。
「…………ガン?」
近付いて確信した。
マルの子供であるガンだった。
「くっ……!!」
体の一部が岩に押しつぶされ、内臓が飛び出ている。
その姿を見たケイは、慌てて口に手を当ててみる。
だが、やはり呼吸をしていない。
いくらこの世界に魔法がある言っても、死んだ生物を生き返らせることは不可能。
ガンの亡骸を前に、悲しみと苦しみが込み上げてきたケイは、歯を強く噛みしめるしかなかった
「くそっ!!」
このまま連れて帰るのは、他のみんな(特に子供たち)の心理的にも良くない。
息を引き取っているのは分かっていても、見た目だけでも治してあげようと、ケイは上に乗っている岩をどかして、治療魔法でガンの体を治した。
「ここに入ってろよ……」
そう言って、ケイはガンを胸のポケットの中にいれた。
返事がないのは分かっている。
しかし、それでも声をかけないといられなかった。
まだマルとドンを見つけないといけない。
なので、ケイはそのまま先に進むことにした。
「なっ!?」
また少し行くと、またも黒い物体が落ちていた。
「…………ドン? お前も……」
キュウの子供であるドンだった。
口から流れた血だまりに浸かりながら、やはり動かなくなっている。
近くに岩が落ちている所から見て、防ぎきれずに直撃したのかもしれない。
触った感触からいって、内臓が破裂したのだろう。
「…………お前はこっちな……」
ガンの時と同様に、せめて見た目だけでも治してあげようと回復魔法をかけ、もう一つの胸ポケットの中にいれてあげた。
ケイの従魔であるキュウたちケセランパサランは、ケイのポケットがお気に入りの場所だった。
一番多く入っているのはやはりキュウだが、他の子たちも入りたがる。
子供が出来てガンやドンは入る機会は少なくなったが、やはり甘えたいときはポケットに入って来ていた。
今は両方とも空いているので、中でゆっくりしていて欲しい。
そんな思いをしながら、ケイは残りの従魔のマルを探しに、気分的に重くなった足を動かした。
「くっ…………!」
ケイがマルを探してずっと西へ向かって行くと、溶岩の流れを二手に分けた壁の近くにまでたどり着いた。
溶岩からは離れているとはいっても、ここまで来ると強烈な熱風がケイに押し寄せてくる。
魔闘術で熱の耐性も上がっているのにもかかわらず、汗が噴き出してきた。
「………………マル?」
熱に耐えながら少しずつ壁に近付いていくと、全身の毛が焼けたマルが動かなくなっていた。
「マル!! マル!!」
急いでマルを拾い上げたケイは、この熱風地帯から離れた。
マルまでも死んでしまっていることを受け止めきれないのか、ケイは懸命に声をかける。
「マル…………」
いくら呼んでも、マルはケイの言葉に反応しない。
壁の近くにいたということは、壁を作るのに全力を尽くし、魔力切れをしたのかもしれない。
魔力切れで気を失って、そのままあの熱に晒されたのでは、どんな生物でもひとたまりないだろう。
「…………みんなの所に帰ろうな……」
回復魔法をかけて元のマルの姿に戻してあげると、目を瞑るマルを手に乗せたまま、ケイはみんなのいる洞窟の方へ向かって走り出した。
せめて1匹だけでも生きていて欲しいと期待を持って来たというのに、3匹とも死んでしまっていたことで、ケイは深い悲しみに包まれたのだった。
◆◆◆◆◆
「いい大人の男がいつまでも下を向いてるんじゃないわよ!」
みんながいる洞窟にたどり着くと、ケイはみんなにマルたちの亡骸を渡して外へ出てきた。
帰って来た時のケイの様子から、美花とレイナルドもなんとなく察してはいた。
マルたちと一番長く一緒にいたケイが落ち込むのは分かる。
しかし、今は状況的にケイに落ち込んでいられては困る。
「落ち込むのはこの危機が去ってからにしなさい!」
「……………………」
「…………あぁ!」
強い口調で叱咤する美花だが、うっすらと涙が浮かんでいるように見える。
それが分かっているのか、レイナルドは無言で美花を見つめていた。
美花のいうことはもっとも、そもそもマルたちはみんなのために命を張ったのだ。
それに気付いたケイは、うつむいた表情をやめて顔を上げた。
「レイ! キュウと休んで魔力の回復に専念しろ!」
「あ、あぁ……」
大きな噴石はなくなりつつあるが、まだ予断は許さない。
なので、障壁を張る役割を長時間任せられるのはレイナルドとキュウだ。
少しでも早く魔力を回復させてほしい。
「美花はもしもの時のためにこのまま近くにいてくれ」
キュウがやったように、大きな噴石がまた落ちてくるかもしれない。
その時のためには2人態勢の方が良いだろう。
美花ならその役割をこなすことができるはずだ。
だから、もういてもらうことにした。
「障壁は俺が代わる」
「分かったわ!」
魔力量ではまだ障壁を張っていられるだろうが、美花には緊急対応の方に気を付けてもらいたい。
なので、障壁はケイが張ることにした。
何も考えずにそうしている方が、今のケイには気が楽でいられたのだった。
当然ケイに向かって大小の落石が落ちて来るが、今は自分の身さえ守れば良いので、わざわざ受け止めることなく、ただ躱して先へと進む。
「っ!?」
進んでいると、黒い物が岩の下敷きになっているのがケイの目に入った。
そのためケイは足を止めて、ゆっくりとそこに近付いて行った。
「…………ガン?」
近付いて確信した。
マルの子供であるガンだった。
「くっ……!!」
体の一部が岩に押しつぶされ、内臓が飛び出ている。
その姿を見たケイは、慌てて口に手を当ててみる。
だが、やはり呼吸をしていない。
いくらこの世界に魔法がある言っても、死んだ生物を生き返らせることは不可能。
ガンの亡骸を前に、悲しみと苦しみが込み上げてきたケイは、歯を強く噛みしめるしかなかった
「くそっ!!」
このまま連れて帰るのは、他のみんな(特に子供たち)の心理的にも良くない。
息を引き取っているのは分かっていても、見た目だけでも治してあげようと、ケイは上に乗っている岩をどかして、治療魔法でガンの体を治した。
「ここに入ってろよ……」
そう言って、ケイはガンを胸のポケットの中にいれた。
返事がないのは分かっている。
しかし、それでも声をかけないといられなかった。
まだマルとドンを見つけないといけない。
なので、ケイはそのまま先に進むことにした。
「なっ!?」
また少し行くと、またも黒い物体が落ちていた。
「…………ドン? お前も……」
キュウの子供であるドンだった。
口から流れた血だまりに浸かりながら、やはり動かなくなっている。
近くに岩が落ちている所から見て、防ぎきれずに直撃したのかもしれない。
触った感触からいって、内臓が破裂したのだろう。
「…………お前はこっちな……」
ガンの時と同様に、せめて見た目だけでも治してあげようと回復魔法をかけ、もう一つの胸ポケットの中にいれてあげた。
ケイの従魔であるキュウたちケセランパサランは、ケイのポケットがお気に入りの場所だった。
一番多く入っているのはやはりキュウだが、他の子たちも入りたがる。
子供が出来てガンやドンは入る機会は少なくなったが、やはり甘えたいときはポケットに入って来ていた。
今は両方とも空いているので、中でゆっくりしていて欲しい。
そんな思いをしながら、ケイは残りの従魔のマルを探しに、気分的に重くなった足を動かした。
「くっ…………!」
ケイがマルを探してずっと西へ向かって行くと、溶岩の流れを二手に分けた壁の近くにまでたどり着いた。
溶岩からは離れているとはいっても、ここまで来ると強烈な熱風がケイに押し寄せてくる。
魔闘術で熱の耐性も上がっているのにもかかわらず、汗が噴き出してきた。
「………………マル?」
熱に耐えながら少しずつ壁に近付いていくと、全身の毛が焼けたマルが動かなくなっていた。
「マル!! マル!!」
急いでマルを拾い上げたケイは、この熱風地帯から離れた。
マルまでも死んでしまっていることを受け止めきれないのか、ケイは懸命に声をかける。
「マル…………」
いくら呼んでも、マルはケイの言葉に反応しない。
壁の近くにいたということは、壁を作るのに全力を尽くし、魔力切れをしたのかもしれない。
魔力切れで気を失って、そのままあの熱に晒されたのでは、どんな生物でもひとたまりないだろう。
「…………みんなの所に帰ろうな……」
回復魔法をかけて元のマルの姿に戻してあげると、目を瞑るマルを手に乗せたまま、ケイはみんなのいる洞窟の方へ向かって走り出した。
せめて1匹だけでも生きていて欲しいと期待を持って来たというのに、3匹とも死んでしまっていたことで、ケイは深い悲しみに包まれたのだった。
◆◆◆◆◆
「いい大人の男がいつまでも下を向いてるんじゃないわよ!」
みんながいる洞窟にたどり着くと、ケイはみんなにマルたちの亡骸を渡して外へ出てきた。
帰って来た時のケイの様子から、美花とレイナルドもなんとなく察してはいた。
マルたちと一番長く一緒にいたケイが落ち込むのは分かる。
しかし、今は状況的にケイに落ち込んでいられては困る。
「落ち込むのはこの危機が去ってからにしなさい!」
「……………………」
「…………あぁ!」
強い口調で叱咤する美花だが、うっすらと涙が浮かんでいるように見える。
それが分かっているのか、レイナルドは無言で美花を見つめていた。
美花のいうことはもっとも、そもそもマルたちはみんなのために命を張ったのだ。
それに気付いたケイは、うつむいた表情をやめて顔を上げた。
「レイ! キュウと休んで魔力の回復に専念しろ!」
「あ、あぁ……」
大きな噴石はなくなりつつあるが、まだ予断は許さない。
なので、障壁を張る役割を長時間任せられるのはレイナルドとキュウだ。
少しでも早く魔力を回復させてほしい。
「美花はもしもの時のためにこのまま近くにいてくれ」
キュウがやったように、大きな噴石がまた落ちてくるかもしれない。
その時のためには2人態勢の方が良いだろう。
美花ならその役割をこなすことができるはずだ。
だから、もういてもらうことにした。
「障壁は俺が代わる」
「分かったわ!」
魔力量ではまだ障壁を張っていられるだろうが、美花には緊急対応の方に気を付けてもらいたい。
なので、障壁はケイが張ることにした。
何も考えずにそうしている方が、今のケイには気が楽でいられたのだった。
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