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第5章
第75話
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「どうした? 休んでないでかかってこい」
「ハァ、ハァ、くそっ!」
ファウストたちが国に戻ってからもうすぐ2週間になる。
人族側から船が来る気配はまだない。
今日も訓練がてら海岸で木刀を片手に、ケイはカルロスの相手をしている。
単純に、ケイ相手にしてカルロスが勝てるわけがない。
何度も攻撃を繰り出すが、カルロスの木刀はケイに当たらず、空振りを繰り返して息切れする。
そんなカルロスに、ケイは煽るような言葉を投げかける。
「ハッ!!」
「うわっ!?」
息を整えようとしているカルロスに、ケイは一気に近付く。
そして、いつの間にか木刀から稽古用の槍に変えていた。
ファウストがおこなっていた技術を、ケイが真似したのだ。
棒の先に布を巻きつけた槍が、カルロスの顔面目掛けて放たれる。
それを慌てるように後ろに下がり、カルロスは何とか躱す。
「はい! 終わり」
「くっ……」
躱したカルロスを追いかけるように踏み込み、ケイはまた獲物を木刀に変え、カルロスの頭の上で止めた。
これで勝負ありとなり、ケイはカルロスとの手合わせを終えた。
「もうちょい手加減してくれよ」
「今度は剣で勝つんだろ?」
負けたことが悔しかったのか、カルロスは拗ねたように口を尖らせる。
しかし、カルロスがファウストと再戦の約束をしているのを知っているので、ケイとしては息子の成長の手伝いをしているだけだ。
「父さん相手じゃ自信がなくなるよ」
ファウストの戦い方を真似てくれて確かに練習にはなるが、それ以外が違い過ぎる。
一撃の威力も速度も、ファウストよりも一段上で向かって来る。
全然攻撃が通じないので、カルロスは成長しているのか分からなくなる時がある。
「俺に攻撃を当てられれば、勝てるだろ?」
「無茶苦茶な……」
ファウストより上の実力の相手と戦っていれば、次は勝てるはずだ。
そんな思いから、ケイは相手していたのだが、カルロスには不評のようだ。
「魔法の指輪で武器を変えるタイミングを見極めることが重要だな」
「ムズイって……」
ファウストがやる武器をコロコロ変えている種明かしは、魔法の指輪である。
魔法の指輪は、装着者の魔力に反応して物を出し入れできる。
収納したものを出す時、自分の周囲になら出現場所をある程度自由にできる。
それらの機能を利用して、急に武器を変えて相手に動揺を与える戦法を取っているのだ。
「もしかしたら、次戦う時は両手にしてるかもしれないな……」
「両手に注意しなければならないってこと?」
ケイがファウストと戦った時、結構早い段階でこの戦法を使っているということに気が付いた。
魔力の扱いが最強の武器というエルフにとって、敵が魔力を使ったことを察知するのは難しいことではない。
獣人は魔力が少ないが、魔力が無いわけではない。
魔力を使って戦うのが苦手なので使わないが、魔法の指輪を使う時の魔力程度なら問題なく使える。
色んな武器を使いこなせる器用なファウストなら、練習次第で使いこなせるようになるのは当然だろう。
しかも、ファウストは手袋をして、指輪をしていることも悟られないようにしていた。
ケイが感じた感覚からいうと、恐らく右手にしかしていない様子だった。
カルロスもその技術を分かっていた。
その上で負け越したのだが、次戦う時はファウストも対策を練ってくるはずだ。
片手に気を使って戦うだけでは、また負ける可能性がある。
それを告げると、カルロスは困った顔をした。
「そんなんなったらどうすりゃいいんだよ!」
「何言ってんだよ。数が増えても手は2本だけだ。得物をしっかり見定めて、対処するしかないな……」
カルロスは泣き言のように呟く。
半分とは言え、エルフである自分の血を引くのだから、カルロスも探知は得意なはずだ。
どちらの手、もしくは両手で魔法の指輪を使っても、探知して対処するしかない。
それだけのことだ。
「二刀流みたいなこと?」
「そうだな。そう思えばちょっとは楽かもな」
ケイのアドバイスに、カルロスはなんとなく思いついたことを聞いた。
所詮指輪を両手に着けようと、更に言うなら何個付けようと、出した武器を使うのは2本の手。
カルロスが言うように、2つの武器を使うのだと考えればいいかもしれない。
「今日はこれくらいにして、食材確保に行くぞ」
「見栄はって食料提供なんかするからだよ!」
国に戻るファウストたちに食料提供したが、噴火で食料の備蓄は多くなかった。
なのに提供してしまったので、備蓄分はもうあまりない。
また噴火が起きない限り問題ないが、やはり余裕があった方がみんな安心できるはず。
「ファウスト殿はまた来るのが濃厚だ。その時にも食事くらい出さないとな」
国として認められて同盟を結ぶにしても、少人数のこちらがどうしたって下になり、王への謁見をしなければならなくなるだろう。
その時は、ケイと美花が代表で行くことになっている。
数十年ぶりに島から出て行かなければならないため、残していくみんなには不安を残したくない。
今のうちにできる限り食料を確保しておきたい。
そう思って、ケイはカルロスを連れて釣りに向かった。
その2日後、以前と同じ船が獣人大陸のある西の方角から近付いてくるのが見えたのだった。
「ハァ、ハァ、くそっ!」
ファウストたちが国に戻ってからもうすぐ2週間になる。
人族側から船が来る気配はまだない。
今日も訓練がてら海岸で木刀を片手に、ケイはカルロスの相手をしている。
単純に、ケイ相手にしてカルロスが勝てるわけがない。
何度も攻撃を繰り出すが、カルロスの木刀はケイに当たらず、空振りを繰り返して息切れする。
そんなカルロスに、ケイは煽るような言葉を投げかける。
「ハッ!!」
「うわっ!?」
息を整えようとしているカルロスに、ケイは一気に近付く。
そして、いつの間にか木刀から稽古用の槍に変えていた。
ファウストがおこなっていた技術を、ケイが真似したのだ。
棒の先に布を巻きつけた槍が、カルロスの顔面目掛けて放たれる。
それを慌てるように後ろに下がり、カルロスは何とか躱す。
「はい! 終わり」
「くっ……」
躱したカルロスを追いかけるように踏み込み、ケイはまた獲物を木刀に変え、カルロスの頭の上で止めた。
これで勝負ありとなり、ケイはカルロスとの手合わせを終えた。
「もうちょい手加減してくれよ」
「今度は剣で勝つんだろ?」
負けたことが悔しかったのか、カルロスは拗ねたように口を尖らせる。
しかし、カルロスがファウストと再戦の約束をしているのを知っているので、ケイとしては息子の成長の手伝いをしているだけだ。
「父さん相手じゃ自信がなくなるよ」
ファウストの戦い方を真似てくれて確かに練習にはなるが、それ以外が違い過ぎる。
一撃の威力も速度も、ファウストよりも一段上で向かって来る。
全然攻撃が通じないので、カルロスは成長しているのか分からなくなる時がある。
「俺に攻撃を当てられれば、勝てるだろ?」
「無茶苦茶な……」
ファウストより上の実力の相手と戦っていれば、次は勝てるはずだ。
そんな思いから、ケイは相手していたのだが、カルロスには不評のようだ。
「魔法の指輪で武器を変えるタイミングを見極めることが重要だな」
「ムズイって……」
ファウストがやる武器をコロコロ変えている種明かしは、魔法の指輪である。
魔法の指輪は、装着者の魔力に反応して物を出し入れできる。
収納したものを出す時、自分の周囲になら出現場所をある程度自由にできる。
それらの機能を利用して、急に武器を変えて相手に動揺を与える戦法を取っているのだ。
「もしかしたら、次戦う時は両手にしてるかもしれないな……」
「両手に注意しなければならないってこと?」
ケイがファウストと戦った時、結構早い段階でこの戦法を使っているということに気が付いた。
魔力の扱いが最強の武器というエルフにとって、敵が魔力を使ったことを察知するのは難しいことではない。
獣人は魔力が少ないが、魔力が無いわけではない。
魔力を使って戦うのが苦手なので使わないが、魔法の指輪を使う時の魔力程度なら問題なく使える。
色んな武器を使いこなせる器用なファウストなら、練習次第で使いこなせるようになるのは当然だろう。
しかも、ファウストは手袋をして、指輪をしていることも悟られないようにしていた。
ケイが感じた感覚からいうと、恐らく右手にしかしていない様子だった。
カルロスもその技術を分かっていた。
その上で負け越したのだが、次戦う時はファウストも対策を練ってくるはずだ。
片手に気を使って戦うだけでは、また負ける可能性がある。
それを告げると、カルロスは困った顔をした。
「そんなんなったらどうすりゃいいんだよ!」
「何言ってんだよ。数が増えても手は2本だけだ。得物をしっかり見定めて、対処するしかないな……」
カルロスは泣き言のように呟く。
半分とは言え、エルフである自分の血を引くのだから、カルロスも探知は得意なはずだ。
どちらの手、もしくは両手で魔法の指輪を使っても、探知して対処するしかない。
それだけのことだ。
「二刀流みたいなこと?」
「そうだな。そう思えばちょっとは楽かもな」
ケイのアドバイスに、カルロスはなんとなく思いついたことを聞いた。
所詮指輪を両手に着けようと、更に言うなら何個付けようと、出した武器を使うのは2本の手。
カルロスが言うように、2つの武器を使うのだと考えればいいかもしれない。
「今日はこれくらいにして、食材確保に行くぞ」
「見栄はって食料提供なんかするからだよ!」
国に戻るファウストたちに食料提供したが、噴火で食料の備蓄は多くなかった。
なのに提供してしまったので、備蓄分はもうあまりない。
また噴火が起きない限り問題ないが、やはり余裕があった方がみんな安心できるはず。
「ファウスト殿はまた来るのが濃厚だ。その時にも食事くらい出さないとな」
国として認められて同盟を結ぶにしても、少人数のこちらがどうしたって下になり、王への謁見をしなければならなくなるだろう。
その時は、ケイと美花が代表で行くことになっている。
数十年ぶりに島から出て行かなければならないため、残していくみんなには不安を残したくない。
今のうちにできる限り食料を確保しておきたい。
そう思って、ケイはカルロスを連れて釣りに向かった。
その2日後、以前と同じ船が獣人大陸のある西の方角から近付いてくるのが見えたのだった。
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