エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第6章

第126話

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「……今度こそ諦めたか?」

「分からんぞ。捕まえるまで気を抜くな……」

 ケイが魔闘術を解いたことで、諦めたのかと思うライムンドだが、一度同じように思って痛い目になったため、セレドニオは注意を促した。
 警戒を解かないために、魔闘術は発動したままケイに近付いて行った。

「…………思い出した」

「「?」」

 俯いたままで無言でいたケイだったが、2人が近くまで寄ってくると、ボソッと一言呟いた。
 その言葉の意味が分からず、セレドニオたちは首を傾げる。

「……何を考えている?」

“フッ!!”

 様子がおかしいと感じたセレドニオは、近付く足を速めてケイを捕まえようと手を伸ばす。
 しかし、その手はケイに触れることはできなかった。
 手が届く寸前、ケイが姿を消したからだ。

「っ!?」

「どこへ行った!?」

 これには、セレドニオだけでなくライムンドも慌てた。
 ケイが動いたであろうはずなのに、全く反応ができなかったからである。
 周囲を見渡すが、ケイの姿を見つけられない。

「思った通りだ……」

「「っ!?」」

 声がして反応すると、ケイはいつの間にか2人から離れた位置に立っていた。
 見失っていたほんの一時に、そこまで離れられるとは思えない。
 そのため気付くのが遅れたのだが、ケイは笑みを浮かべて2人を眺めている。

「な、何なんだ?」

「奴は何をしたんだ?」

 得体の知れない恐怖が2人に襲い掛かっていた。
 目の前のエルフが何をしたのか分からない。
 ただでさえ手強かったというのに、これ以上何かしてくるということだろうか。

「お前らは知らなくて良いんだよ!」

「っ!?」

 先程までいた場所からまた消えたと思ったら、ケイはいつの間にかセレドニオのすぐ隣に立っていた。

“バキッ!!”

「がっ!?」

 声に驚き顔を向けると、その時にはもうケイの蹴りが迫っていた。
 それに反応することができず、セレドニオは剣を持つ右腕がへし折れ、剣をその場へ落とした。

「セレドニオ!!」

 仲間をやられてようやく動けたライムンドは、セレドニオの側に立つケイに向かって走り出した。

「遅い!」

「っ!?」

 しかし、ケイはいつの間にかライムンドの懐に入っていた。
 ライムンドは目を見開いた。
 またもケイの動きに反応できなかったからだ。
 
“バキッ!!”“ボキッ!!”

「うがっ!?」

 ケイは左足でライムンドの右腕を蹴り、続いて右足で脇腹に蹴りを入れる。
 どちらの攻撃も当たった瞬間に鈍い音が響く。
 それにより、ライムンドは苦悶の表情へと変わる。

「な、何で……?」

 痛みで蹲りながら、ライムンドはこの不可解な現象をケイに問いかけた。
 魔闘術を使っていた時は、このエルフと自分たちはほぼ互角のように戦っていた。
 なのに、魔闘術を解いた今の方が速度も攻撃力も上がっている。
 何故そのようになるのかまるで理解ができない。

「教えるわけないだろ?」

 当然ケイは自分が何をしているのか教えない。
 冥土の土産に教えようなんて気持ちはケイには存在しない。
 ケイ自身、大怪我を負わされたのだ。
 そんな相手に、情報の1つだって教えてやる義理はない。

「この野郎!!」

「っ!?」

 ライムンドに更なる攻撃を加えようとしたケイだったが、そこにセレドニオが落とした剣を左手で拾って突きを放ってきた。
 セレドニオの左手は、ヒビが入っていただけで完全には折れていなかった。
 完全に折れている右手とは違い、痛みを我慢して何とか攻撃してきたのだった。
 これにケイは慌てた。
 新しく思いついた戦闘方法を試して成功したのだが、まだ慣れていないことが仇になった。
 この技術を使うのに、魔力は放出しない状態でいるのが通常だ。
 つまり、探知の魔法も使っていない状態だ。
 そのため、セレドニオの攻撃に反応が遅れた。

「がはっ!?」

 ケイは口から血を吐く。
 セレドニオの攻撃は躱しきれず、剣は腹に突き刺さったためだ。

「ごのっヤロウ!!」

“バキッ!!”

「………………」

 骨にヒビの入った状態だったのがせめてもの救いだったのか、剣先が刺さっただけで済んだ。
 とは言え、大量の血が噴き出る。
 やられた腹いせに、ケイは血が出るのも構わずセレドニオの顔面に蹴りを入れた。
 すると、セレドニオの首の骨が折れたらしく、おかしな方向に顔を向けたまま倒れていった。
 それを見届けると、ケイは出血のし過ぎからか足がふらつき膝をつく。

「セレドニオォォーー!!」

 首が折れたが、セレドニオはまだ辛うじて生きているようで、ピクピクと痙攣している。
 しかし、完全に虫の息。
 早々に回復師に見せる必要がある。
 ライムンドはセレドニオを助けようと駆け寄る。

“バキッ!!” 

「させねえよ!!」
 
 そんなライムンドの顔面へ、ケイは何の遠慮もなく蹴りを入れる。
 それにより、ライムンドもセレドニオと同様に首が折れ、倒れて動かなくなった。

「ハァ、ハァ……、終わったか?」

 一番手強い2人組を倒せて、ホッとしてしまったからか、ケイは目のかすみと共に座り込んだ。

「血が出過ぎた……か?」

 そのまま横に倒れ、ケイはポツリと呟いた。
 体中の怪我に加え、腹からの出血で貧血になったようだ。
 一刻も早く回復したいところだが、体が思うように動かない。
 魔力も上手くコントロールできなくなってきた。

『マズイ……、このままじゃ死ぬ……』

 目は開いているのに、視界に移る物は全て霧がかかったようにぼやけて見える。
 そして、段々と瞼が重くなってくた。
 自分に死が迫ってくるのを感じつつも、段々と体の力が抜けていくのを止められなかった。

“ザッ!! ザッ!! ザッ!!”

 そんな中、ケイの方へと走ってくる足音が聞こえて来たのだった。

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