エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第10章

第234話

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「おらっ!!」

「チッ!」

 敵である剣術部隊の者たちを相手にしていたケイ。
 色々な方向から迫り来る敵に、対処するのも一苦労だが、銃撃によって敵を近付かせない。
 魔法で対処すれば攻撃を受けないかもしれないが、数が数だけに、それでは魔力の消耗が激しく最後まで持たないかもしれない。
 なので、魔力を省エネで敵を倒すなら、やはり銃撃しかない。
 しかし、銃口の向いた先にしか攻撃が来ないという銃撃の特徴を理解し、躱し始める者も出て来て、とうとう接近戦に持ち込んでくる者までチラホラと現れた。 
 接近できたとして、ケイが魔法で対処してくるということを思わないのだろうか。

「我ら日向の剣士は、愚直に前に進むのが武士道だ!」

「なるほど……」

 顔に出ていたのだろうか。
 聞いてもいないのに、その剣氏はケイの疑問に答えてくれた。
 たしかに巨大蛇を相手にした時、八坂や美稲の剣士たちは馬鹿の一つ覚えのように、接近して斬りかかっていた。
 それが武士道とか言われても、どう答えていいか分からない。
 とりあえず、ケイはこの斬りかかってきた男の脳天に風穴を開けといた。

「うぐっ!!」

「げはっ!!」

 1人の相手をすれば、その分銃弾が飛んでこないため、敵には接近する時間ができる。
 接近した2人に対し、1人は蹴りで足をへし折り、もう1人は肘で鳩尾を打って動けなくする。
 そして、ケイはその間に敵の少ない方向へと移動して距離を取ろうとする。

「っ!?」

“ズドンッ!!”

「ぐっ!!」

 ケイが敵から距離を取ったのを待っていたのか、そこへ向かって大砲の球が飛んできた。
 それに気付いたケイは、慌てて土魔法を使って厚い壁を作って直撃を回避する。
 しかし、大砲の威力におよって壁は破壊され、その壁の破片がケイにぶつかる。
 運悪く、右手の小指に当たって骨が折れた。

「チッ!」

 折れて少し歪んだ指をすぐに元の場所に戻し、回復魔法をして回復しようとする。

「させるか!」

「痛っ!」

 回復に注意を向けたその瞬間に、そうはさせまいと攻撃をしてきた。
 ケイは、それを咄嗟に避けるが、躱しきれずに僅かに肩口から血が出た。
 しかし、この程度なら回復するのは後回し、ケイは先に小指の骨折を治した。

「痛いが握れればいい……」

 治したと言っても、とりあえず骨をくっ付けただけ、内出血したことによる腫れや痛みは置いておく。
 小指が折れたままでも銃は持てるし、戦える。
 しかし、握っている感覚がないと狙いがズレる。
 なので、最小限の回復で十分だ。

「休む暇も与えないって言いたいのか?」

 敵と距離を取り過ぎれば大砲の球が飛んで来る。
 かと言って、接近戦となると数が多くてケイでもしんどい。
 これでは全然休む暇がない。
 敵ながらいい連携攻撃をしてくるものだと、ケイは内心感心する。

「……蛇?」

 敵に迫られ、離れを繰り返しているうちに、ケイはいつの間にか蛇の死体の所まで移動していた。

「んっ? これは丁度いいかも……」

 ここなら大砲が飛んで来ても、蛇の死体が壁になってくれるので、強力な障壁を張る必要がなくなる。
 頭の部分の近くだと、美稲の剣士の遺体が転がっているので戦いにくいが、ケイが今いる尻尾の方はそれもない。
 これで多少だが、大砲の攻撃に気を取られないで済む。

「こいつを食らえ!!」

 巨大蛇の側には鱗も落ちていた。
 これは使えると、ケイは思いっきり敵の集団に向かって鱗を蹴っ飛ばす。

「うごっ!!」「へぶっ!!」「がっ!!」

 効果はあり、1つの鱗で3人くらいがいっぺんに潰れる。

「オラオラオラッ!!」

 調子に乗ったケイは、落ちてる鱗を見つけて蹴り飛ばす。
 そのたびに2、3人に怪我を負わせて動きを鈍らせたり、行動不能に追い込む。

「この野郎!!」

「おわっ!?」

 鱗を蹴り飛ばしていたケイに、いつの間にか回り込んで来た者たちがいた
 それにすぐに気づいたので、ケイは攻撃を躱したが、服が少し斬られてしまった。

「このっ!!」

“パンッ!!”

「どこを狙って……がっ!?」

 腹いせ交じりに発砲したケイ。
 撃った方向は、敵からかなり逸れている。
 それを見て、敵はただの威嚇に撃ったのかと思ったが、それは違った。
 蛇の鱗はかなり堅い。
 それを利用して跳弾させ、敵が刀を持っている手に弾が当たる。

「ぶっ!?」

 片手で持っていたのが良くなかった。
 手に銃弾を食らい、男は刀を落としてしまう。
 それを慌てて拾いに動いたが、前かがみになった男の顔面をケイは思いっきり蹴っ飛ばした。

「くそっ! なかなか減らねえな……」

 迫り来る敵を何人も何人も倒しているが、減っている気がしない。
 それに気付いて、ケイは思わず呟いた。





「すごいな……」

 剣術部隊とは言っても若手の隊員の相手をしていた八坂は、ケイの戦いぶりに驚いていた。
 こちらへ来ている若手たちとは違い、あっちは経験豊富な者たちばかりの隊員が、たった1人に返り討ちに遭っている。
 パッと見た感じ、倒した数がもうすぐ3桁に至りそうだ。
 とても自分にはできない戦いぶりに、感心するばかりだった。
 しかし、それと同時に恐ろしさも感じる。
 あれほどの実力の者が、もしも敵に回っていたらということを考えると、こちらへ誘い込んで正解だった。

【ハッ!!】

“ボッ!!”

「…………」

 恐ろしいと言えば、このケセランパサランも恐ろしい。
 主人であるケイがどう育てたのか、弱小魔物のはずのケセランパサランが、強力な魔法を放って敵を痛めつけている。
 敵の攻撃が届かないように、上空へ浮かびながら戦うなんて何だかずるい気もするが、それも弱小魔物が生き残るための策だと思うと、八坂は何とも思わなくなる。
 今も火球を飛ばして敵1人に大火傷を負わせた。
 全身火だるまになり、しばらく悶えた後、敵の一人は動かなくなって最終的には黒ずみになった。
 こんなことをあっさり行う容赦のなさに、八坂は思わず言葉が出なかった。

「……今は目の前の敵に集中しなければ!」

 ケイと子のキュウという名のケセランパサランを見ていると、遠距離の攻撃がないのはたしかに無謀なのではないかと思えてくるが、今はそれよりも敵を1人でも倒すことを考えなければならない。
 そう考えた八坂は、苦戦している味方の援護に向かうべく、移動を開始したのだった。

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