11 / 20
10 覚悟-Side 雄大
しおりを挟む
優実の家の近くのコインパーキングに車を停めて、徒歩で彼女の家に一緒に向かった。
彼女が住んでいたのは2階建ての小さなアパートの2階の角部屋で、オートロックなどもなく、こんなに可愛い優実が一人で住むにはストーカー対策とか大丈夫なんだろうかと、途端にセキュリティが心配になってしまった。聞いたら大学時代から住んでいるとかで、今まで何事もなかったんだろうから考えすぎか。勿論、自分が口を出すことではないのはよく分かっている。
こじんまりとした1LDKのアパートだが、整理整頓がされていて、掃除もよく行き届いていた。居間は木目調の家具が基調で、ところどころに観葉植物がおかれているのが優実のイメージにぴったりだった。奥にある扉の先がベッドルームなのだろう。
「準備するから、座って待っててくれる?」
木目の色が綺麗なローテーブルと白のソファの間にあぐらをかくと、とりあえず麦茶でいいかな?と冷たいお茶の入ったガラスコップを差し出されたので、ありがたく頂く。
「今日はもともと、肉じゃがにしようかと思ってたんだけど、それでいい?」
「肉じゃがは好きだ」
「よかった。出来るまでテレビ好きなように見てていいよ」
言われるがまま、テレビをつけて、適当なチャンネルに合わせる。
優実はてきぱきと料理を作り始め、その様子を後ろから眺めていると、その手慣れた様子から普段から自炊をしていることが分かった。仕事の時と同じ、無駄がなく見ているのが心地よい。ふと昨日会ったあの男も、大学時代の…彼氏なら、きっとこの部屋に来たんだろうな…という考えが頭をかすめた。こうやって座って、優実が料理をするのを眺めていたんだろうか。彼氏なら楽しく会話しながら隣に立って優美が作るのを眺めていたのかも。時々気持ちが昂ぶったら、彼女を抱き寄せたのかも。むくむくと嫉妬心が湧いて、そしてそんな資格が自分にないことが辛すぎる。
(…俺、本当に好きなんだな、田中のこと)
分かってはいたことだが、こうして休日を一緒に過ごして思いはますます強くなった。問題は、恋愛初心者の自分がどうやってそれを彼女に伝えるか、だ。
(突然好きだと言って怯えさせるのがオチかも…)
ありえそうな未来に暗澹たる気持ちになり、頭をぐしゃぐしゃにかきまわした。
(でも素直に言うしかない…)
今まで十分悩むだけ悩んで、結局不確定な未来に勝手に怖気づいて何一つ言い出せなかったのだから、これ以上どう考えても堂々めぐりするだけだ。同期で、隣の席で、もしフラれたら彼女を諦めるまでの長い間、相当キツイ思いをするのは目に見えているが、でもきっと自分が好きになった優実は、雄大が必要以上に気を遣わないように心を配ってくれる気がしている。そしてそんな人だから好きになったんだ。
心が決まると、今まで荒れ狂っていた胸の内があっという間に収まり、麦茶を一口ごくりと飲んだ。
☆
優実が 1時間もしないうちに、肉じゃが、小松菜のおひたし、空芯菜とツナのサラダ、豆腐とわかめの味噌汁、きゅうりと大根の浅漬けに、炊き立てのご飯を食卓代わりのローテーブルに並べてくれて、あまりの手際の良さに感激した。
「すごいな、魔法みたいだ」
思ったままを言っただけだが、優実はちょっと顔を赤らめて
「肉じゃがと味噌汁以外は常備菜だから…」
とあくまでもたいしたことをないように装うが、自分も小さい頃から家事をしないといけない環境だったため、大変さは少しは分かるつもりだ。両手を合わせて感謝した後、一口味噌汁をまず啜ると、自分が作るのとは違う優しい味がした。お世辞でもなんでもなく美味い。
「美味い」
「いやいや…普通だよ」
「本当に」
思わず、続けてしまった。
「人が作ったものを食べるのが、…ほとんどなかったから」
彼女が住んでいたのは2階建ての小さなアパートの2階の角部屋で、オートロックなどもなく、こんなに可愛い優実が一人で住むにはストーカー対策とか大丈夫なんだろうかと、途端にセキュリティが心配になってしまった。聞いたら大学時代から住んでいるとかで、今まで何事もなかったんだろうから考えすぎか。勿論、自分が口を出すことではないのはよく分かっている。
こじんまりとした1LDKのアパートだが、整理整頓がされていて、掃除もよく行き届いていた。居間は木目調の家具が基調で、ところどころに観葉植物がおかれているのが優実のイメージにぴったりだった。奥にある扉の先がベッドルームなのだろう。
「準備するから、座って待っててくれる?」
木目の色が綺麗なローテーブルと白のソファの間にあぐらをかくと、とりあえず麦茶でいいかな?と冷たいお茶の入ったガラスコップを差し出されたので、ありがたく頂く。
「今日はもともと、肉じゃがにしようかと思ってたんだけど、それでいい?」
「肉じゃがは好きだ」
「よかった。出来るまでテレビ好きなように見てていいよ」
言われるがまま、テレビをつけて、適当なチャンネルに合わせる。
優実はてきぱきと料理を作り始め、その様子を後ろから眺めていると、その手慣れた様子から普段から自炊をしていることが分かった。仕事の時と同じ、無駄がなく見ているのが心地よい。ふと昨日会ったあの男も、大学時代の…彼氏なら、きっとこの部屋に来たんだろうな…という考えが頭をかすめた。こうやって座って、優実が料理をするのを眺めていたんだろうか。彼氏なら楽しく会話しながら隣に立って優美が作るのを眺めていたのかも。時々気持ちが昂ぶったら、彼女を抱き寄せたのかも。むくむくと嫉妬心が湧いて、そしてそんな資格が自分にないことが辛すぎる。
(…俺、本当に好きなんだな、田中のこと)
分かってはいたことだが、こうして休日を一緒に過ごして思いはますます強くなった。問題は、恋愛初心者の自分がどうやってそれを彼女に伝えるか、だ。
(突然好きだと言って怯えさせるのがオチかも…)
ありえそうな未来に暗澹たる気持ちになり、頭をぐしゃぐしゃにかきまわした。
(でも素直に言うしかない…)
今まで十分悩むだけ悩んで、結局不確定な未来に勝手に怖気づいて何一つ言い出せなかったのだから、これ以上どう考えても堂々めぐりするだけだ。同期で、隣の席で、もしフラれたら彼女を諦めるまでの長い間、相当キツイ思いをするのは目に見えているが、でもきっと自分が好きになった優実は、雄大が必要以上に気を遣わないように心を配ってくれる気がしている。そしてそんな人だから好きになったんだ。
心が決まると、今まで荒れ狂っていた胸の内があっという間に収まり、麦茶を一口ごくりと飲んだ。
☆
優実が 1時間もしないうちに、肉じゃが、小松菜のおひたし、空芯菜とツナのサラダ、豆腐とわかめの味噌汁、きゅうりと大根の浅漬けに、炊き立てのご飯を食卓代わりのローテーブルに並べてくれて、あまりの手際の良さに感激した。
「すごいな、魔法みたいだ」
思ったままを言っただけだが、優実はちょっと顔を赤らめて
「肉じゃがと味噌汁以外は常備菜だから…」
とあくまでもたいしたことをないように装うが、自分も小さい頃から家事をしないといけない環境だったため、大変さは少しは分かるつもりだ。両手を合わせて感謝した後、一口味噌汁をまず啜ると、自分が作るのとは違う優しい味がした。お世辞でもなんでもなく美味い。
「美味い」
「いやいや…普通だよ」
「本当に」
思わず、続けてしまった。
「人が作ったものを食べるのが、…ほとんどなかったから」
34
あなたにおすすめの小説
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる