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死に方
しおりを挟むオルギアン帝国の牢獄の中。
ここで俺は大人しくしていた。
他の罪人は誰もが恐怖に声を荒らげていて、謝罪の言葉や泣き声なんかも聞こえてくる。だからやたらと煩い。
この場所は色んな効果で罪人を苦しめるようになっているから、看守にはそれらを防ぐように述を付与されたり自身に結界を張ったりしているが、それでも30分程で交代しなければここでは正気でいられない。
そんな中で俺だけが一人静かに座って周りの様子を伺っていた。
「おい、お前……」
「な、なんだっ!」
「鼻血が出てんぞ? 防御の付与、効きにくい体質か?」
「え? あれ、そうなのか?! どうりでさっきから目眩や吐き気が……交代したばっかりなのに……!」
「こんな所で看守なんかさせらて、お前も家族を質に取られたか……産まれたばっかの息子がいんだろ? そりゃ父親は頑張らなきゃなぁ?」
「そうだ、けど……なんで知ってるんだ?!」
「まぁ、俺はある程度の事は分かるんだよ。俺もな? 子供が産まれんだよ。娘なんだ。今から楽しみでな」
「そうなのか? 子供はいいぞ? 親にしてくれた事を感謝してもしたりないくらいだ」
「そうだな。それは俺も今から感じてる。楽しみなんだ。早く会いてぇな」
「けど……お前は……」
「ハハハ、良いよ、気遣うなよ。ほら、体調が良くなってきただろ?」
「え? あ、本当だ。なぜだ?」
「良かったな。奥さん、大事にしてやれよ? 息子……ラウルってんだな? 目元が奥さんに似てて可愛いじゃねぇか。 ラウルは……少し病気がちだから、奥さんいつも心配してんだな。今はお前の事心配してるんだろうけど」
「な……っ!」
「あ、ラウルが具合悪くなんのな? ちょっと魔力が多めなんだよ。症状がそんな感じだからな。まぁ魔力酔いしてるってヤツだな。だから適度に魔力を奪ってやりゃ良いんだけどな? 赤ん坊だから自発的に魔力を放出できねぇから手助けしてやれよ」
「そ、それはどうやって……」
「そうだな。ビックリさせると魔力を放出するんだ。だから突然脅かしてやんな? で、遊べるくらい大きくなったら、高い高いってやって、一緒にジャンプしてやるんだ。嬉しがって勝手に魔力を放出する。三歳位まではそれでいけるかな。それ以降はちゃんと魔力操作を教えてやれよ。早めに教えてやれば、放出させずに魔力を制御出来るようになるからな」
「そうなんだな……けどなんでそんな事が分かるんだ?」
「俺、孤児をいっぱい見てきてるからな。何人も子供達と関わると分かってくるんだ」
「そうか……試してみる」
「けど、まずはこんな事をする奴等をどうにかしねぇとな。人質を取って言うことを聞かすなんて、しかもそれが女子供だとか考えらんねぇな。許せねぇよな……」
バルトロメウス……
俺は何度かヴァルツとして会った事がある。アイツはしたたかで、野心に溢れていて、目的の為なら手段を選ばない。そして、アイツは自分の弟を暗殺している。
優秀だった弟は皇帝候補だった。しかし、継承権を放棄した事で皇帝はジョルディになった。
バルトロメウスは弟のジークフリートを邪魔者として殺害した。ジョルディよりも実はジークフリートの方が皇帝としての資質があったからだ。
皇帝になった事でジョルディには俺がつく。勿論、俺が不在の間は側近としてゴーレムにつかせていたから、滅多なことでジョルディを暗殺する事は出来なかった筈だ。
だから機会を伺いつつ、まずは弟ジークフリートを暗殺したのだ。ジョルディが失脚した場合でも、継承権を放棄したとは言え自分よりジークフリートが皇帝になる可能性が高かったからだ。
弟を殺すとか、俺からしたら考えらんねぇ。まぁ、皇族とかにはよくある話かも知んねぇけど、幼い頃から兄弟として育った肉親を、自分が皇帝になりたいが為だけに殺すとか、全く気持ちが分かんねぇんだよな。
例えば悪政を強いてたとかなら分かる。それなら仕方ねぇ。
けどジョルディは違う。アイツなりに頑張って他国と協調し、広く友好を築こうとしている。それが一番国民の為になると分かっているからだ。
だから俺も積極的に手を貸してきた。ジョルディのする事に間違いはないと思っているからだ。
だけどバルトロメウスが皇帝になったのなら……俺はオルギアン帝国から手を引く。いや、バルトロメウスの力を削ぐ。そうしなければ多くの国民が苦しい思いをするだろうからな。
そんな事を考えていると、何人かの騎士が俺のいる牢獄の前までやって来た。
「おい、お前、出ろ!」
「ほう、出してくれるってんだな?」
「大人しくしておけよ? 何かしたら各国にいる、お前が保護している孤児達の首が飛ぶと思え」
「なんもしねぇよ」
10人程の騎士達に囲まれて、俺は牢獄から連れ出される。
そうか。俺はこれから処刑されるんだな。ってか、早ぇな。普通こういう事はしっかり調べて裁判なんかもして罪状を決めるから、早くても2、3ヶ月はかかるもんなんだけどな。
そんなのを全部すっ飛ばしていきなり処刑にする事が決まったとなれば……城内で反乱軍だかがジョルディを拘束した、か……?
ったく、マジで面倒だよな。殺したけりゃ俺だけ殺しゃ良いじゃねぇか。ジョルディを巻き込む必要ねぇだろ?
いや、違うか。巻き込まれてんのは俺か。
どっちにしろ、ジョルディは何とか助けてやんねぇとな。けどまだ人質は取られたまんまだ。まだ動けねぇ。
後ろ手に手錠をされて胴にもロープでガチガチに拘束されて、更に俺に呪術師や幻術師が述を仕掛けてきていて、魔術師は能力低下なんかをひっきりなしに付与しまくってる。
けど……効かねぇんだよなぁー……
幻術は全然だし、呪術はウルスラが勝手に解いてくれてるし、魔術師の放つ呪文は詠唱される度に無効化されているし、何一つ俺までは届かねぇ。それでも抵抗せずに従ってる俺ってエライよな。
そうやって従って、俺は地下から出て帝城から出て、帝都にある広場まで連れてこられた。
そこには既に観客がいっぱいいて、皆に見えるように簡単な舞台が設置されていた。その周りには騎士達がいて舞台を囲っていてしっかり警戒している。
舞台の上には既に処刑人がいて、俺が来るのを待っている。
いやぁ、短期間でここまですんの、すげぇよな。それは尊敬する。ロヴァダ国じゃこんな事は日常茶飯事で、舞台なんかも設置されてあるからすぐに処刑とか出来るんだろうけど、俺が知ってる限りオルギアン帝国でこんな事は今まで無かったからな。それがこんなに迅速に用意出来るんだな。
ってか、前から用意してたか。俺を殺すように。
けど、皆に見られて、死ぬ事を求められて殺されるって、やっぱ嫌だよな。
こんな死に方、やっぱ嫌だな……
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