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一章 赤鬼の酒まんじゅう
赤鬼の酒まんじゅう-7
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お鈴は犬飼家で暮らした部屋を片付けて、正座をしていた。
赤い風車を包んだ風呂敷が部屋の片隅に追いやられている。お鈴にはそれが怖ろしく、見たくもなかった。
今日、伊丹屋のお銀がお鈴を迎えに来ることになっていた。
父が火罪となり、お鈴はお銀に引き取られることになったのだ。
(でも、私は伊丹屋に帰っちゃいけない……)
あの夜の赤鬼を思い出し、お鈴は震える。ギュッと自分自身を抱きしめて目を瞑る。
あの日、お鈴は父から貰った酒まんじゅうを胸に抱き、祖父母のあいだで眠りについた。
父が勘当されてから初めて貰った物だった。
夕餉のあとにきっと食べろと言われていたが、食べてしまうのが惜しかったのだ。
(おじじさまも、おばばさまも、おとっさんの酒を受け取ってくれた。これでみんな仲直りできる)
お鈴はそう喜び、眠りについたのだ。
しかし、そうはならなかった。
人の気配を感じ、お鈴が目を開けると、龕灯が照らす薄暗闇の中に、鱗文様の手ぬぐいをかぶった男がいた。
せっせと風呂敷になにかを詰め込んでいる。酒に酔っているのか、見える首筋が赤い。昼間見た着物の柄から父だとわかる。
「……おとっさん? なにしてるの……」
お鈴は聞いた。
振り向いた男の顔は、龕灯を持っているせいでよく見えない。
「なんで、てめぇは寝てねぇんだよ」
地をはうような低い声は父のものだった。
お鈴は驚き息を呑んだ。
「本当に、どこまでも俺の足を引っ張りやがって」
龕灯の灯の向こう、暗闇の中の男は吐き捨てるように言った。
そうして、床の間に供えられていた人魚のヒレ酒を、伊丹屋主人の布団に零した。
行灯皿をひっつかむと、お鈴に向かって投げつけた。
お鈴は慌てて顔を庇う。左腕に皿が当たって跳ね返る。
鉄吉は灯明皿に火を付けて、お鈴に投げた。
お鈴の着物と鉄吉の袖に灯明皿の火が付いた。お鈴は慌てて火を払う。
鉄吉はチラリとお鈴を見たが、そのまま見捨て障子を開けた。そのせいで、障子にまで火が移った。
転がった灯明皿が、どんどん火を広げていく。
「おじじさま、おばばさま!! 起きて! 火事だよ!!」
ふたりを起こそうと、必死で揺らす。しかし、この騒ぎでも目を覚まさない。
「おとっさん! 助けて! おねがい! 助けて!」
お鈴が父を呼び止める。
鉄吉は笑った。鱗文様の帯留めが火に照らされてもがいているように見えた。
「馬鹿だな、みんな死ねばいいんだよ」
赤い炎に照らされた部屋の中、そこには父はいなかった。真っ赤な顔の鬼が呟いて、ピシャリと障子を閉めた。
(鬼だ。あれは、おとっさんなんかじゃない……。赤鬼だ)
お鈴は絶望した。
ジリと髪が焼ける。ふたりは目を覚まさない。
(このままじゃみんな死んじゃう! おばさんも、金太も)
お鈴は唇を噛みしめて立ち上がった。火のついた障子とは反対側のふすまを開ける。少し離れたお銀の部屋へと走る。
「火事だ! 火事だよ! みんなおきて!!」
必死に声を上げてお銀の部屋へ向かった。
お銀は騒ぎで目を覚ましていた。お鈴を見ると血相を変え、布団で火のついたお鈴を包み込む。
着物の火を消し、金太を抱き上げ、お鈴の手を引いた。
「頑張ったよ、お鈴。もう少し頑張るよ!」
お銀は気丈にそう言って、お鈴を連れて逃げ出したのだった。
そうして、お鈴は生き残った。
しかし、その夜のことは誰にも話せないと思った。
火付けは重罪だ。父が火を付けたと話したら、自分が父を殺すことになる。
それに、そのきっかけを作ったのは紛れもない自分だった。
(私のせいで伊丹屋が火事になったんだ。私が帰って良い場所じゃない……)
お鈴は小さな拳を強く握りしめた。
・・・・・
伊丹屋のお銀がお鈴を迎えにやってきた。
「お鈴、入るぜ」
誠吾は声をかけ、障子を開けた。
お鈴は座布団の上に正座をしていた。お銀に気がつくと、顔をこわばらせ俯いた。
お銀はその様子に傷ついたような顔をして、取り繕った笑顔を張り付ける。
(さすが商売人だ)
誠吾は思った。
「……お鈴ちゃん……。お鈴ちゃんは思い出せないかもしれないけどね、私はあんたの伯母さんなのよ。これからは私と一緒に暮らしましょう?」
お鈴はカチンと体をこわばらせたまま、動かなかった。膝の上に作った拳をジッと見つめている。
部屋の隅にたたまれた布団の脇には、お銀が買ってやった赤本が置かれていた。繰り返し読んだことがわかるほど、膨らんでいる。
「まぁまぁ、お銀、とりあえず座りねぇ」
誠吾は座布団を指し示し、お銀を促す。
「やだ、私、すいません」
お銀は照れたように笑い座布団へ座った。
「そういうことでお鈴。おまえはこれからお銀さんのところへ行くんだよ」
誠吾が言えば、お鈴は土下座した。
「すいません。許してください。ごめんなさい。私、伊丹屋には帰れません」
お鈴はかすれた声で謝った。
誠吾は慌て、お銀は呆気にとられた。
「お鈴、おまえ、話せるのか? 記憶は戻ったのか?」
「なにを言ってるの、お鈴。なんで伊丹屋に帰れないの?」
誠吾とお銀が同時に尋ね、お鈴はさらに身を縮める。
「伊丹屋に帰れない、帰っちゃいけないんです……」
震えながら答えるお鈴の背中を、お銀がさする。
「お鈴、おまえ、見たんだな? 赤鬼を覚えてた、違うか?」
誠吾の問いにお鈴はヒクと喉を鳴らした。
「でも大丈夫だ。赤鬼は捕まえた。伊丹屋に怖いものなんかいねぇ」
誠吾の言葉に、お鈴は顔を上げた。
誠吾はお鈴の目を見て、安心させるように大きく頷いた。
お鈴は堰を切ったように泣き出した。
「私がいけないんです。私が全部いけないんです。おとっさんは悪くない、私が女だったから――」
「どういう意味だい」
「私が女だったからおとっさんは伊丹屋を追い出されたんだ。私が息子だったなら、勘当されなかったはずだって。だから、家に戻れるようにおまえがつとめろって」
「なにを馬鹿なことを!!」
お銀はお鈴をギュッと抱きしめた。
「あの夜、私が塀の近くに足場を置いたんです。おとっさんが帰れるように。酒を渡したのも私です。酒なんか飲まなかったらおじじさまもおばばさまも死ななかった。私があのとき目を覚まさなかったら、おとっさんは火を付けなかった。おとっさんの言うこと聞かないで、酒まんじゅう食べなかったから……おばさんもおじじさまもいつも言ってた。おとっさんには会っちゃいけないって、それなのに私、言うこと聞かなくて。私が、おじじさまとおばばさまを殺したんだ」
慟哭しながらお鈴は懺悔する。今まで話せなかったものがあふれでるようだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。店が焼けたのは私のせいです。おとっさんを火付けにしたのも私です。私は疫病神だ。伊丹屋には帰れません。どうか、どうか、どこかへやってください。お願いします――」
お鈴は土下座して泣き崩れる。
お銀も一緒に涙を流す。
「お鈴は悪くないんだよ。お鈴は悪くない。あたしたちが悪かったよ、あんたにいろいろ押っつけて」
お鈴はブンブンと頭を振った。
「おじじさまはね、あの日喜んでたんだ。お鈴があいだを繋いでくれたから、もう一度兄さんと話ができるかもしれないって。お鈴のおかげだって言ってたよ」
「でも……そのせいで……」
「お鈴が火事を教えてくれたんじゃないか。着物に火が付いたままで私たちを助けに来てくれた。あんたは私と金太の命の恩人だよ」
「でも、火事にならなきゃ……」
「悪いのは兄さんだ。お鈴じゃない、お鈴じゃないんだよ。あんたは良い子だ、良い子だよ」
お銀とお鈴のやりとりから誠吾は目を逸らした。
キュッと唇を噛む。
なにもかも鉄吉が悪い。それでも、自分の父が火付けをして、祖父母を殺したとなれば肩身は狭いだろう。
お銀や徳次はそんなことでお鈴を責めたりはしないはずだ。
だがしかし、お鈴自身が自分を許すかと言えば別の話だった。
伊丹屋に戻れば、否が応でも火事のことを思い出される。四六時中、罪の意識に苛まされることになるのだ。
「……お願いします。私をどこか奉公へだしてください」
お鈴は泣きながら訴えた。考えて考えて、それが一番良い方法だと思ったのだ。
七つになれば奉公に出る子どももいる。おかしな話ではなかった。
「……お鈴……なんで……」
お銀は言葉を失った。
「どうぞ、どうぞ、お願いします」
お鈴はかたくなに頭をさげつづけた。
誠吾は大きく息を吐き出した。
「……わかった。今日のところは伊丹屋さんに一旦帰ってもらおうか。お鈴。お銀さんも少し待っておくれ。悪いようにはしないから」
お銀はお鈴をギュウと抱きしめてから、誠吾を見た。
お銀は、泣きはらした目でペコリとお辞儀する。
「はい……お鈴に無理させるつもりはないんで」
お銀はそう答えると、もう一度ギュウとお鈴を抱きしめた。
「お鈴、お鈴、お鈴……」
お銀の背中は震えている。お鈴の腕は所在なさげにダラリと落ちていた。
赤い風車を包んだ風呂敷が部屋の片隅に追いやられている。お鈴にはそれが怖ろしく、見たくもなかった。
今日、伊丹屋のお銀がお鈴を迎えに来ることになっていた。
父が火罪となり、お鈴はお銀に引き取られることになったのだ。
(でも、私は伊丹屋に帰っちゃいけない……)
あの夜の赤鬼を思い出し、お鈴は震える。ギュッと自分自身を抱きしめて目を瞑る。
あの日、お鈴は父から貰った酒まんじゅうを胸に抱き、祖父母のあいだで眠りについた。
父が勘当されてから初めて貰った物だった。
夕餉のあとにきっと食べろと言われていたが、食べてしまうのが惜しかったのだ。
(おじじさまも、おばばさまも、おとっさんの酒を受け取ってくれた。これでみんな仲直りできる)
お鈴はそう喜び、眠りについたのだ。
しかし、そうはならなかった。
人の気配を感じ、お鈴が目を開けると、龕灯が照らす薄暗闇の中に、鱗文様の手ぬぐいをかぶった男がいた。
せっせと風呂敷になにかを詰め込んでいる。酒に酔っているのか、見える首筋が赤い。昼間見た着物の柄から父だとわかる。
「……おとっさん? なにしてるの……」
お鈴は聞いた。
振り向いた男の顔は、龕灯を持っているせいでよく見えない。
「なんで、てめぇは寝てねぇんだよ」
地をはうような低い声は父のものだった。
お鈴は驚き息を呑んだ。
「本当に、どこまでも俺の足を引っ張りやがって」
龕灯の灯の向こう、暗闇の中の男は吐き捨てるように言った。
そうして、床の間に供えられていた人魚のヒレ酒を、伊丹屋主人の布団に零した。
行灯皿をひっつかむと、お鈴に向かって投げつけた。
お鈴は慌てて顔を庇う。左腕に皿が当たって跳ね返る。
鉄吉は灯明皿に火を付けて、お鈴に投げた。
お鈴の着物と鉄吉の袖に灯明皿の火が付いた。お鈴は慌てて火を払う。
鉄吉はチラリとお鈴を見たが、そのまま見捨て障子を開けた。そのせいで、障子にまで火が移った。
転がった灯明皿が、どんどん火を広げていく。
「おじじさま、おばばさま!! 起きて! 火事だよ!!」
ふたりを起こそうと、必死で揺らす。しかし、この騒ぎでも目を覚まさない。
「おとっさん! 助けて! おねがい! 助けて!」
お鈴が父を呼び止める。
鉄吉は笑った。鱗文様の帯留めが火に照らされてもがいているように見えた。
「馬鹿だな、みんな死ねばいいんだよ」
赤い炎に照らされた部屋の中、そこには父はいなかった。真っ赤な顔の鬼が呟いて、ピシャリと障子を閉めた。
(鬼だ。あれは、おとっさんなんかじゃない……。赤鬼だ)
お鈴は絶望した。
ジリと髪が焼ける。ふたりは目を覚まさない。
(このままじゃみんな死んじゃう! おばさんも、金太も)
お鈴は唇を噛みしめて立ち上がった。火のついた障子とは反対側のふすまを開ける。少し離れたお銀の部屋へと走る。
「火事だ! 火事だよ! みんなおきて!!」
必死に声を上げてお銀の部屋へ向かった。
お銀は騒ぎで目を覚ましていた。お鈴を見ると血相を変え、布団で火のついたお鈴を包み込む。
着物の火を消し、金太を抱き上げ、お鈴の手を引いた。
「頑張ったよ、お鈴。もう少し頑張るよ!」
お銀は気丈にそう言って、お鈴を連れて逃げ出したのだった。
そうして、お鈴は生き残った。
しかし、その夜のことは誰にも話せないと思った。
火付けは重罪だ。父が火を付けたと話したら、自分が父を殺すことになる。
それに、そのきっかけを作ったのは紛れもない自分だった。
(私のせいで伊丹屋が火事になったんだ。私が帰って良い場所じゃない……)
お鈴は小さな拳を強く握りしめた。
・・・・・
伊丹屋のお銀がお鈴を迎えにやってきた。
「お鈴、入るぜ」
誠吾は声をかけ、障子を開けた。
お鈴は座布団の上に正座をしていた。お銀に気がつくと、顔をこわばらせ俯いた。
お銀はその様子に傷ついたような顔をして、取り繕った笑顔を張り付ける。
(さすが商売人だ)
誠吾は思った。
「……お鈴ちゃん……。お鈴ちゃんは思い出せないかもしれないけどね、私はあんたの伯母さんなのよ。これからは私と一緒に暮らしましょう?」
お鈴はカチンと体をこわばらせたまま、動かなかった。膝の上に作った拳をジッと見つめている。
部屋の隅にたたまれた布団の脇には、お銀が買ってやった赤本が置かれていた。繰り返し読んだことがわかるほど、膨らんでいる。
「まぁまぁ、お銀、とりあえず座りねぇ」
誠吾は座布団を指し示し、お銀を促す。
「やだ、私、すいません」
お銀は照れたように笑い座布団へ座った。
「そういうことでお鈴。おまえはこれからお銀さんのところへ行くんだよ」
誠吾が言えば、お鈴は土下座した。
「すいません。許してください。ごめんなさい。私、伊丹屋には帰れません」
お鈴はかすれた声で謝った。
誠吾は慌て、お銀は呆気にとられた。
「お鈴、おまえ、話せるのか? 記憶は戻ったのか?」
「なにを言ってるの、お鈴。なんで伊丹屋に帰れないの?」
誠吾とお銀が同時に尋ね、お鈴はさらに身を縮める。
「伊丹屋に帰れない、帰っちゃいけないんです……」
震えながら答えるお鈴の背中を、お銀がさする。
「お鈴、おまえ、見たんだな? 赤鬼を覚えてた、違うか?」
誠吾の問いにお鈴はヒクと喉を鳴らした。
「でも大丈夫だ。赤鬼は捕まえた。伊丹屋に怖いものなんかいねぇ」
誠吾の言葉に、お鈴は顔を上げた。
誠吾はお鈴の目を見て、安心させるように大きく頷いた。
お鈴は堰を切ったように泣き出した。
「私がいけないんです。私が全部いけないんです。おとっさんは悪くない、私が女だったから――」
「どういう意味だい」
「私が女だったからおとっさんは伊丹屋を追い出されたんだ。私が息子だったなら、勘当されなかったはずだって。だから、家に戻れるようにおまえがつとめろって」
「なにを馬鹿なことを!!」
お銀はお鈴をギュッと抱きしめた。
「あの夜、私が塀の近くに足場を置いたんです。おとっさんが帰れるように。酒を渡したのも私です。酒なんか飲まなかったらおじじさまもおばばさまも死ななかった。私があのとき目を覚まさなかったら、おとっさんは火を付けなかった。おとっさんの言うこと聞かないで、酒まんじゅう食べなかったから……おばさんもおじじさまもいつも言ってた。おとっさんには会っちゃいけないって、それなのに私、言うこと聞かなくて。私が、おじじさまとおばばさまを殺したんだ」
慟哭しながらお鈴は懺悔する。今まで話せなかったものがあふれでるようだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。店が焼けたのは私のせいです。おとっさんを火付けにしたのも私です。私は疫病神だ。伊丹屋には帰れません。どうか、どうか、どこかへやってください。お願いします――」
お鈴は土下座して泣き崩れる。
お銀も一緒に涙を流す。
「お鈴は悪くないんだよ。お鈴は悪くない。あたしたちが悪かったよ、あんたにいろいろ押っつけて」
お鈴はブンブンと頭を振った。
「おじじさまはね、あの日喜んでたんだ。お鈴があいだを繋いでくれたから、もう一度兄さんと話ができるかもしれないって。お鈴のおかげだって言ってたよ」
「でも……そのせいで……」
「お鈴が火事を教えてくれたんじゃないか。着物に火が付いたままで私たちを助けに来てくれた。あんたは私と金太の命の恩人だよ」
「でも、火事にならなきゃ……」
「悪いのは兄さんだ。お鈴じゃない、お鈴じゃないんだよ。あんたは良い子だ、良い子だよ」
お銀とお鈴のやりとりから誠吾は目を逸らした。
キュッと唇を噛む。
なにもかも鉄吉が悪い。それでも、自分の父が火付けをして、祖父母を殺したとなれば肩身は狭いだろう。
お銀や徳次はそんなことでお鈴を責めたりはしないはずだ。
だがしかし、お鈴自身が自分を許すかと言えば別の話だった。
伊丹屋に戻れば、否が応でも火事のことを思い出される。四六時中、罪の意識に苛まされることになるのだ。
「……お願いします。私をどこか奉公へだしてください」
お鈴は泣きながら訴えた。考えて考えて、それが一番良い方法だと思ったのだ。
七つになれば奉公に出る子どももいる。おかしな話ではなかった。
「……お鈴……なんで……」
お銀は言葉を失った。
「どうぞ、どうぞ、お願いします」
お鈴はかたくなに頭をさげつづけた。
誠吾は大きく息を吐き出した。
「……わかった。今日のところは伊丹屋さんに一旦帰ってもらおうか。お鈴。お銀さんも少し待っておくれ。悪いようにはしないから」
お銀はお鈴をギュウと抱きしめてから、誠吾を見た。
お銀は、泣きはらした目でペコリとお辞儀する。
「はい……お鈴に無理させるつもりはないんで」
お銀はそう答えると、もう一度ギュウとお鈴を抱きしめた。
「お鈴、お鈴、お鈴……」
お銀の背中は震えている。お鈴の腕は所在なさげにダラリと落ちていた。
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