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7章
信者の布教
ノックもせずに入ってきた濃い褐色肌の女性は、入ってくるなりピシャリと言い放った。
「でもっ!」
「お黙りなさい。どれだけセナ様にご迷惑をおかけするつもりですか? 自分の行動を省みなさい。戻ってきてからお酒を飲んだくれて愚痴っていたという報告を受けています。ひとまず余計なことをしないように拘束します」
ギルマスに似ている女性は、ギルマスをロープでぐるぐると簀巻きにしてソファ横に転がした。
さらに、反論するギルマスに「うるさい」と何かの魔法を使って声を奪っていた。
えっと……誰? サブマスも助けないの?
この状況に理解が追いつかず、私達は顔を見合わせた。
「大変申し訳ございません。私、このギルドの正式なギルドマスターをしております。愚女が大変失礼を致しました」
「あぁ……お母さんですか」
「はい。全ては私の浅慮の致すところでございます」
話が見えないので説明を求めると、今回は試験期間中だったらしい。
母親ギルマスが岩山の定期的な見回りのため、代理としてギルマスに立てたのが娘だったと。何事もなければ、母親ギルマスの代理として正式に昇格するつもりだったらしい。
アーロンさんから聞いた私達の強さを信用せず、勝手な判断で付いてくることを決めた。娘の戦闘能力はDランクとEランクの間しかなく、私達が宿に戻ったあとサブマスに巣に案内したらすぐに街に戻れと厳命されていたんだそう。
そもそも上位種がいると報告を受けていたけど、オークキングと勝手に判断したのは娘。
私達……主に私が自分より強いことが納得できず、強制送還させた私達に怒っていたらしい。
ご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでしたと謝られた。
なんか……暴走する人多くない? ミカニアの街の領主の使用人とかさ、娘も最初は普通だったのに……
目の前で戦ってたのに、強さを信用できないってどうしようもないと思うんだよね。
そして母親ギルマスが遅れてきたのは、山奥でお昼すぎに強い気配を感じて確認しに行っていたらしい。
場所を聞いてみると、グレン達がブチ切れたときに放った威圧だったことがわかった。
手間を取らせて申し訳ない。
「そもそもセナ様とは違い、上に立つ器量も心構えもないように見受けられますが」
「私も痛感致しました。申し訳ございません」
ジルさんや。私もそんなもの持ち合わせていませんよ。
口を挟んじゃいけない気がして言えないけど。
「それで、ギルドの責任はどうするおつもりですか? 規模の誤認に虚偽の申告。あの大量のオークを討伐しているときに、サブギルドマスターは隠れて見ておられましたよね?」
「あぁ」
「そちらの方がセナ様の邪魔をしていたことは一目瞭然だったと思いますが、なぜ放置していたのですか?」
またもジルの口撃が始まってしまった。
サブマスは娘の方の監視を目的に付いてきてたけど、自分が出たら私達の邪魔になると出てこなかったらしい。
正直、娘を回収してくれた方がありがたかったよ……
ジルの理詰めは止まらず、母親ギルマスとサブマスは謝るばかり。話が全然進まない。
「ジル、ちょっと落ち着こ? はい、果実水」
〈セナ、我も〉
グレンは渡した果実水を娘に見せつけるように飲み、そんなグレンをギリギリと娘は睨みつけている。
「もぅ! グレンは煽らないの」
〈フンッ。我は最初から気に食わん〉
「話が進まないでしょ? ほら、パンあげるから」
〈仕方ない。パンに免じてジルベルトに任せよう〉
「ジルも頷かないの。報告しちゃおうよ」
「では……」
前置きをしてから、ジルがオークの大量討伐からダンジョンの説明をしてくれる。
途中で「セナ様はお優しく」とか「セナ様が精密な魔法を」とか……セナ様、セナ様と説明に不要な賛美が入ったから止めようとしたんだよ。止めようとしたんだけど、息継ぎをしているか心配になるくらい口を挟む隙がなかった。
そのせいで、全ての説明を終えるまでに時間がかかっちゃったんだけど……いらない私の情報なんかを聞かせることになっちゃって申し訳ない。
「上位種含めてオークが174匹なんて……」
「そこまでとは……すまない」
母親ギルマスとサブマスは絶句して、娘は顔が青くなった。どれだけ危険だったか、やっと理解したらしい。
グレンが〈やっと理解できたのか〉と再び娘を煽り、〈貴様がセナに勝てることは何ひとつない〉と少しばっかり威圧してしまい、転がっている娘の下半身に水たまりができてしまった。
グレンを怒って娘にクリーンをかけてあげている間も、母親ギルマスとサブマスは娘のことを気にも止めず、ジルの話に聞き入っていた。
「セナ様はどう思われますか?」
「ふぁっ?」
いきなり話を振られて素っ頓狂な声が出てしまった。
なんのことかと聞いてみると、娘をどう見るかということだった。
「どうねぇ……最初はキチンとしてると思ったよ? 感情的になると意地を張る人なんだなってわかったけど。ん~……とりあえず、人を見た目で判断しない方がいいのと、己の実力を把握して、適切な状況判断できるようになることからじゃない? 偉い立場になれば責任も取らなきゃいけないからね。まぁ、正義感だけは立派なんだし身体と心を鍛えるべきとしか言えないかな?」
「ジルベルト様が仰っていた通り、セナ様はお優しいのですね」
ジルベルト君に向けて“向いてないけど、頑張れとしか言えない”と匂わせて言ったハズなのに、母親ギルマスに微笑みながら言われてしまった。
え? 優しい言葉なんてひとつも入ってなかったと思うんだけど……むしろ嫌味……
「ダンジョンもセナ様じゃなければクリアなんて到底不可能だったのですね……優しく慈愛のお心を持ち、その上強いだなんて……」
「すごいな……」
「セナ様の素晴らしさは語り尽くせません」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。おかしい、おかしい。ただの報告のハズだよね?」
「はい」
キョトンと見つめられ、どうしたもんかと考える。
話の流れがよくわからない。面倒臭がらずに自分で説明すればよかった!
「えと、簡潔に報告してくれればよかったんだよ?」
「それですと……セナ様は女神様のようなお方だとしか……」
「違う、ジル、そっちじゃない。ダンジョン攻略の話」
「あぁ、なるほど。失礼致しました」
母親ギルマスにはキラキラした瞳で見つめられているけど、サブマスは少し考えている様子。たぶん引いたんだろう。
うん。サブマスのその反応は至極真っ当だと思うよ。
「えっと、話しを戻しましょう。私の話ではなく、ダンジョンの話です! ひとまず全階層はクリアしたので、普通のダンジョンと同じようになっているハズです。上位種はもう出ないと思いますが、出現する魔物の種類が変わっている可能性もあるので、それはそちらで確認してください」
「ありがとうございます。早速、明朝調査に向かわせます。それで、セナ様にご相談をお願いしたいのですが……」
とりあえず聞くだけだと話しを聞くと、報酬と買い取りについてだった。
てっきり、あの貴族少年を助けに行って欲しいとか言われるのかと思ったんだけど……それは朝イチで冒険者を派遣するらしい。
オークの買い取りも、ダンジョンの買い取りも全てはできないとのことだったので、売れる素材の一覧表を書いた。
「ありがとうございます。遅くなりましたが、陛下よりお手紙が届いております」
アーロンさんからの手紙には、迷惑をかけて申し訳ないこと、処罰についてはシュグタイルハン国の冒険者ギルドへ任せてもらえないかということ、魔物大量発生の鎮静化についてのお礼と報奨について、ダンジョン発見の報奨についてのことが書かれていた。
書類というよりも、箇条書きのレポートのような書き方がされていてわかりやすかった。
グレンとジルもアーロンさんに手紙を書きたいとのことで、三人で返事を書いて文庫本のような厚さになった手紙を送ってもらった。
今回、指名依頼を受けたことで私とジルのランクが二つずつ上がり、私はCランク、ジルはDランクになった。
魔物大量発生を沈静化させた人物ならばAランクでもおかしくないと、Aランクにさせられそうなのを拒否り、押し問答の結果そうなった。
明日中に買い取るものを決めてくれるとのことで、今日は宿に戻ることにした。
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