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8章
工房と倉庫
リシータさんとボンヘドさんが迎えにきてくれて馬車で工房へ。
ボンヘドさんがいたことに驚いたけど、雇った大人数の教育にギルド経由で雇った人も携わっているらしい。
「こ、工房は以前染め物が行われていた工房を改装しております。場所は商業エリアの中でも、鍛冶工房が集まっている場所からは離れているので、うるさくはありません」
「へぇー! こっちの方はきたことなかったや」
「そ、そうなのですね。ここら辺は鍛冶工房が多く、ハンマーで叩く音が日の出から日没まで鳴り響いております。もう少し進むとアクセサリーや彫刻などの細工の工房、染め物など服飾系の工房と続きます」
「へぇー。ちゃんとまとまってるんだね」
まとまってはいるけど、鍛冶工房エリアはハンマー音がうるさいし、細工エリアは金属と木の粉塵が舞っていて空気が粉っぽいし、染め物エリアは独特な香りがするんだそう。
慣れれば気にならなくなるけど、最初は戸惑う人が多いらしい。どのエリアもクセがあってどっこいどっこいだった。
昨日リシータさんが私が言った流れ作業とキャンペーンの話をタルゴーさんに問い合わせた結果、即採用となったらしい。ピリクの街でもキャンペーンを実施することになったそう。
デタリョ商会のおじいちゃんとも商談が成立して、物品のやり取りをすることが正式に決まったらしい。
工房を見終わった後、雇った人達を教育している場所も見て欲しいと言われたので快く了承した。
◇
工房に着くと、職人さんが忙しなく動き回っていた。
怒号が飛び交う中、リシータさんに頭と呼ばれているドワーフのおっちゃんを紹介された。
「幼ぇとは聞いていたが、こんなちみっ子とはな! そっちの坊主か兄ちゃんかと思ったぜ」
「セナ様は幼さを感じさせないくらい博識なのですヨ」
「そうか、そうか。よろしく頼むぜ!」
おっちゃんの案内で工房見学。
工房の中はいくつかの作業部屋に分かれていた。
本当は各作業部屋にコーナーを作って、そのコーナーを回って中敷きを作らせる予定だったらしい。
ただ、私が昨日流れ作業の話しをしたから、各部屋毎に置く機材を変えることにしたんだそう。
「ねぇねぇ、ここにはトイレと洗面所はないの? あと、休憩室」
「言われてねぇな」
「ト、トイレはわかりますが……洗面所と休憩室も必要でしょうか?」
「え……休憩もしないでずっと作業するの?」
トイレは改装前から元々なかったから忘れていたらしい。休憩室は仕事中に休憩するという概念がそもそもないんだそう。
お昼ご飯はどうするのか聞いてみると、外で食べるんだそう。工房によってはお昼休憩すらないらしい。
(何そのブラック企業……)
休憩が大事だと説いて、急遽休憩所が敷地内に増設されることになった。
お昼ご飯タイムとは別に、各作業部屋毎に休憩時間を設けてくれることに決まった。
「へぇー、嬢ちゃんが考えるのはずいぶんと優しい仕様なんだな」
「働いている人を大事にしないと。疲れたら作業効率も下がるし、何よりやる気がなくなっちゃうよ」
「これならば、働きたいと希望する人材がさらに増えそうですネー。ワタクシも勉強になりマス」
おっちゃんとボンヘドさんが感心したように頷き、リシータさんはタルゴーさんに報告しなければとメモを書きまくっていた。
おっちゃんは私が増やした仕事をしなければならないので別れて、今度は新しく雇った人達を見に行くことになった。
研修をしている場所は今いる工房から近く、歩いて十分ほどにある倉庫。
織り物や染色のエリアなので、染め物の香りが漂う中機織りの音が規則的に響いている。
(あ! あの乾燥させてる布キレイ! 藍染めみたい! あっちは絞り染めかな?)
今は寄れないのでまた今度寄らせてもらおう!
いいモノを発見したと気分よく倉庫に着くと、なんとも言えない臭いが充満していた。汗臭いというか、何かが発酵したような臭いというか、ホコリというか……
「くっ、くさい……」
「貧民が多く、洗わせましたが臭いがおちないのですヨ」
どうやって洗わせたのかと聞いてみると、井戸に連れて行って自分で洗わせたらしい。
小学生くらいの少年少女から大人までと年齢層は幅広いけど、洗ったとは思えないくらい薄汚れていた。
モノを作る上で汚いのは元日本人の私からしたらありえない! こんな状態で作られたモノを買いたくない。
「無理!」
「「「え?」」」
〈どうした?〉
「どうしたじゃないよ! こんな状態で作ったもの売るの!?」
「セナ様も貧民の状態は予想できなかったのですカナ?」
「違うわ! まず、リシータさんとボンヘドさんの意識の問題でしょ!」
思わず素でボンヘドさんにつっこんでしまった。
貧民イコール汚いというイメージは仕方ないと思うけど、なんでキレイにさせようとしないのか。
垢や泥の汚れは洗えば落ちる。落とし方がわからないなら教えてあげればいい。
リシータさんに敷地内の空き地を案内してもらって、グレウスに露天風呂を作ってもらう。お湯は慣れていないと思うので、のぼせ防止のためにちょっとぬるめにした。
女性風呂と男性風呂と分けて作って、ちゃんと目隠しの壁もグレウスに頼んだ。
「グレンとジルは男性を洗ってね」
〈我がやらなきゃいけないのか?〉
「ん? ちゃんとキレイに洗ってあげてね?」
〈……ワカッタ〉
リシータさんとボンヘドさんに指示を出し、困惑している従業員を並ばせた。問答無用で着ている服をひっぺがし、デタリョ商会で買ったバブルジェトンの葉っぱで泡立てたタオルでゴシゴシ洗わせてもらう。かけ湯が茶色く濁っていて、どれだけ汚いのかと顔が引きつってしまった。
ポラル達には従業員が着ていた服の洗濯をしてもらう。エルミスはこっそり洗い終わった服の水分を飛ばしてくれていた。
孤児も貧民の人も平民の人もなんで体を洗われているのかわかっていないみたいだけど、せっかくの職を失いたくないのかなされるがままだった。
男性側の方からは、グレンが〈洗う前に風呂に入るな〉と注意している声が聞こえてきた。
なんとか全員を洗い終えると、みんな見違えるようにキレイになった。
リシータさんもボンヘドさんもここまでキレイになるとは思ってもいなかったらしい。
再び倉庫に集まってもらうと、なんで洗われたのかと女性から質問が飛んできた。
「体がキレイになると気持ちいいでしょ? キレイな商品と汚い商品だったら、なるべくキレイな商品を選ぶでしょう? 同じく、汚い工房で作られたモノとキレイな工房で作られたモノだったらどっちを選ぶ?」
「……キレイな方ですね」
「それにね、身綺麗にしていたら風邪とかも引きにくいし、怪我も治りやすくなるよ。生まれた子供の生存率も上がるだろうし……それに女性は肌もキレイになるしね」
「そ、そうなのですか!?」
女性の質問に答えると、リシータさんに驚かれた。
衛生の大切さを説明すると、揃って関心された。トイレとかの衛生はちゃんとしているのに、こういう衛生は浸透していないらしい。街は別に汚れてないんだけどね。
手洗いうがいの徹底と、今建築中の寮にもお風呂場を作ってくれることになった。その話を聞いてお風呂が好きになったと思われる子供を中心に歓声が上がった。
ただ見学にきただけなのに、まさか衛生の話をすることになるとは……でもお風呂を好きになってもらえたのは嬉しい。そのうち銭湯みたいなモノもできるかもしれない。
話が一段落したところで、中敷きを作ってもらう。リシータさんから寮の話を聞いたからか、ほとんどの人はやる気が上がったみたい。真剣な様子で中敷きを作っている。
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