文字の大きさ
大
中
小
193 / 500
9章
国王のギャップ
ポテチを食べながらアーロンさんを待っていると、食べ終わった頃「待たせた」と執務室に入ってきた。
ガルドさん達は立ち上がろうとしたけど、アーロンさんに手で制された。
アーロンさんが入ってきたことでガルドさん達はビキビキに緊張していまい、微動だにしない。
ソファは私達が座っているので、アーロンさんはイスを持ってきてお誕生席みたいにしてから座った。
「悪い、悪い。普通で構わん。何か食ってたのか? オレのはないのか?」
〈ない! これは我のだ〉
「そういうと思って、食堂で作ってもらいましたよ」
ポテチを入れていたお皿を見てアーロンさんが羨ましそうな顔をすると、リシクさんがベビーカステラのお皿をアーロンさんの前に置いた。
「セナの料理が食いたかったんだがな……」
「ワガママ言わないでください」
リシクさんにピシャリと言われて、アーロンさんはベビーカステラを一つ口の中に放り込んだ。
「こんふぁいのこひょて」
「飲み込んでから話してください。汚いでしょう」
リシクさんが言いながら紅茶を渡すと、アーロンさんはゴクゴクと紅茶を飲み干して「もう一杯」とティーカップをリシクさんに戻した。
「ふぅ。今回の件だが、まぁ、大丈夫だと思う」
「はあ……それではセナ様達はわからないでしょう。私が順を追って説明致します」
アーロンさんの代わりにレナードさんが説明してくれるらしい。
「中敷きと、まだ城下では販売されていないカレーの件についてです。両方ともセナ様のレシピだと嗅ぎ付けた貴族がいると情報が入ったのです。セナ様を囲うつもりなのかまではわかっておりませんが、セナ様のお仲間であるあなた方にも、ちょっかいを出してくるとも限りません。ですので、王家のメダルを送ることにしました」
「嗅ぎ付けた貴族に関しては、今ドナルドが調べている。元々、今回の件が解決したのはセナ達のおかげだからな。【黒煙】パーティにも報奨をって話しになってたんだ。いやー、久々の謁見は疲れるな」
アーロンさんはベビーカステラをつまみながら紅茶をグビグビ飲んでいて、リシクさんが呆れた顔をしながらピッチャーを持ってきた。
「そのメダルはオレが後見しているようなもんだ。セナと再会する前に指名依頼で苦労したらしいとアーノルドから聞いたからな。それがあれば他国でも活動しやすくなるだろ」
「あ、ありがとうございます」
「あぁー、オレは堅苦しいのは苦手だ。普通でいい、普通で」
お礼を言ったガルドさんに、アーロンさんはヒラヒラと手を振った。
ガルドさんはアーロンさんの様子を見て、最初よりは力が抜けたみたいだけど、まだ緊張しているのが伝わってくる。ガチガチに固まった顔が怖い。
「あの、僕にメダルを渡したのはなぜでしょうか?」
「ん? あぁ、あの場でセナに渡さないのは不自然だろ? だがセナにはすでに渡してある。グレンは従魔だし、ジルベルトがちょうどいいだろ。セナを守るのにもな」
「なるほど。ありがたくいただきます」
ジルは握っていたメダルを大事そうにマジックバッグに入れていた。
「では、報奨の件についてです。ガルドさん達は記憶喪失だったセナ様を助けてくれたと聞いております。その点も含めましてこちらの金額になりました。ご確認をお願い致します」
レナードさんからガルドさんが紙を受け取ると、ジュードさん達は確認するように覗き込んだ。
ガルドさんの目がだんだんと見開いていき「白銀貨八枚!?」と叫んだ。
白銀貨八枚ってことは800万か。四人で割れるようにしたのかな?
「少なくて悪いな。メダルのことがあるから少なくさせてもらった。ジジイ共がうるさくてな。その代わり、何かあれば力になる。セナのはこっちだ」
渡された詳細を見てみると、私達のは白金貨一枚。1000万だった。
グレンは〈少ないな〉と呟いていたけど、私からしたら充分だ。ただでさえ使い切れないくらいなのに、これ以上増えてもタンス貯金ならぬ無限収納貯金が増えるだけ。
ガルドさんは震える手でレナードさんから報奨の袋を受け取っていた。
「さて、報奨の話は終わった。ベヌグの街からここまで、食ったことのない料理ばかりだったとアーノルドが言っていたんだが……」
「作らないよ?」
「ダメか?」
「せっかくガルドさん達と会えたのに、レシピ登録してまた料理長達に教えるとか面倒だもん」
「そうか……残念だ……」
ワクワクしながら聞いてきたアーロンさんに拒否ると、アーロンさんはそれはもう盛大に肩を落とした。
「くくっ……あはははは!」
「おい、ジュード」
「だってさー、陛下さっきから面白すぎだよー」
「不敬だろうが」
「大丈夫ですよ。陛下がコレですので」
リシクさんが新しい紅茶ピッチャーをテーブルの上に置いて、笑いながらアーロンさんを指さした。
アーロンさんはジュードさんの爆笑も、リシクさんのコレ発言も気にした様子はなく……「楽しみだったのに」と肩を落としたままだった。
「じゃあ、ベヌグの街で買ったセナっちのレシピのパン食べるー?」
「いいのか!?」
「モルトー」
「はい、こちらです」
ジュードさんがモルトさんの名前を呼ぶと、モルトさんがナッツパンとドライフルーツパンをアーロンさんに渡した。
特に気にすることもなく、かぶりついたアーロンさんにガルドさんが驚いていた。
「毒とか調べなくていいのかよ……」
「そういえば、私が作ったやつもいつもそのまま食べてるね」
「ほう、ナッツとドライフルーツ入りか! これはこれで美味いな。オレは多少の毒には耐性があるし、セナはそんなことしないだろ? ガルド達はセナが信用してるからな。大丈夫だろ。なぁ、これはすでにレシピ登録してあるんだろ? 王都でも許可出してくれ」
ガルドさんからしたら食べ物の安全性の話より、この先食べられるかどうかの方が気になるらしい。
あっという間にモルトさんが渡した四つのパン平らげ、少し満足したらしい。
「そろそろ昼だな。食堂に行くか!」
今パンを食べたばかりなのに、アーロンさんは立ち上がって歩きだした。
疲れた様子のガルドさんに「陛下面白いねー」とジュードさんが話しかけ、ガルドさんはため息をつきながら頭を押さえながらアーロンさんに続く。
食堂に着くと、味を確かめて欲しいとカレーが配られた。
グレンは〈セナが作った方が美味しい〉と言っていたけど、ガルドさん達は「美味い美味い」と食べていた。
◇
ご飯を食べた私達はリシクさんに馬車で送ってもらい、宿まで戻ってきた。
今は私の部屋でジルが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「大丈夫だったが……もう行きたくはねぇな……」
「オレっちは謁見じゃないならいいかなぁー。謁見と普段が違いすぎだよー」
「そうですね。謁見は緊張しましたが、陛下は気さくな人でしたし」
「……ギャップ」
「俺はいつ不敬罪に問われるか気が気じゃなかったんだぞ……」
ガルドさんはジュードさんを睨み付けたけど、ジュードさんはどこ吹く風。
私からすればいつも通りのアーロンさん。っていうか、ギャップって単語があるんだね。ちょっと笑っちゃったよ。
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。