文字の大きさ
大
中
小
194 / 502
9章
国王のギャップ
ポテチを食べながらアーロンさんを待っていると、食べ終わった頃「待たせた」と執務室に入ってきた。
ガルドさん達は立ち上がろうとしたけど、アーロンさんに手で制された。
アーロンさんが入ってきたことでガルドさん達はビキビキに緊張していまい、微動だにしない。
ソファは私達が座っているので、アーロンさんはイスを持ってきてお誕生席みたいにしてから座った。
「悪い、悪い。普通で構わん。何か食ってたのか? オレのはないのか?」
〈ない! これは我のだ〉
「そういうと思って、食堂で作ってもらいましたよ」
ポテチを入れていたお皿を見てアーロンさんが羨ましそうな顔をすると、リシクさんがベビーカステラのお皿をアーロンさんの前に置いた。
「セナの料理が食いたかったんだがな……」
「ワガママ言わないでください」
リシクさんにピシャリと言われて、アーロンさんはベビーカステラを一つ口の中に放り込んだ。
「こんふぁいのこひょて」
「飲み込んでから話してください。汚いでしょう」
リシクさんが言いながら紅茶を渡すと、アーロンさんはゴクゴクと紅茶を飲み干して「もう一杯」とティーカップをリシクさんに戻した。
「ふぅ。今回の件だが、まぁ、大丈夫だと思う」
「はあ……それではセナ様達はわからないでしょう。私が順を追って説明致します」
アーロンさんの代わりにレナードさんが説明してくれるらしい。
「中敷きと、まだ城下では販売されていないカレーの件についてです。両方ともセナ様のレシピだと嗅ぎ付けた貴族がいると情報が入ったのです。セナ様を囲うつもりなのかまではわかっておりませんが、セナ様のお仲間であるあなた方にも、ちょっかいを出してくるとも限りません。ですので、王家のメダルを送ることにしました」
「嗅ぎ付けた貴族に関しては、今ドナルドが調べている。元々、今回の件が解決したのはセナ達のおかげだからな。【黒煙】パーティにも報奨をって話しになってたんだ。いやー、久々の謁見は疲れるな」
アーロンさんはベビーカステラをつまみながら紅茶をグビグビ飲んでいて、リシクさんが呆れた顔をしながらピッチャーを持ってきた。
「そのメダルはオレが後見しているようなもんだ。セナと再会する前に指名依頼で苦労したらしいとアーノルドから聞いたからな。それがあれば他国でも活動しやすくなるだろ」
「あ、ありがとうございます」
「あぁー、オレは堅苦しいのは苦手だ。普通でいい、普通で」
お礼を言ったガルドさんに、アーロンさんはヒラヒラと手を振った。
ガルドさんはアーロンさんの様子を見て、最初よりは力が抜けたみたいだけど、まだ緊張しているのが伝わってくる。ガチガチに固まった顔が怖い。
「あの、僕にメダルを渡したのはなぜでしょうか?」
「ん? あぁ、あの場でセナに渡さないのは不自然だろ? だがセナにはすでに渡してある。グレンは従魔だし、ジルベルトがちょうどいいだろ。セナを守るのにもな」
「なるほど。ありがたくいただきます」
ジルは握っていたメダルを大事そうにマジックバッグに入れていた。
「では、報奨の件についてです。ガルドさん達は記憶喪失だったセナ様を助けてくれたと聞いております。その点も含めましてこちらの金額になりました。ご確認をお願い致します」
レナードさんからガルドさんが紙を受け取ると、ジュードさん達は確認するように覗き込んだ。
ガルドさんの目がだんだんと見開いていき「白銀貨八枚!?」と叫んだ。
白銀貨八枚ってことは800万か。四人で割れるようにしたのかな?
「少なくて悪いな。メダルのことがあるから少なくさせてもらった。ジジイ共がうるさくてな。その代わり、何かあれば力になる。セナのはこっちだ」
渡された詳細を見てみると、私達のは白金貨一枚。1000万だった。
グレンは〈少ないな〉と呟いていたけど、私からしたら充分だ。ただでさえ使い切れないくらいなのに、これ以上増えてもタンス貯金ならぬ無限収納貯金が増えるだけ。
ガルドさんは震える手でレナードさんから報奨の袋を受け取っていた。
「さて、報奨の話は終わった。ベヌグの街からここまで、食ったことのない料理ばかりだったとアーノルドが言っていたんだが……」
「作らないよ?」
「ダメか?」
「せっかくガルドさん達と会えたのに、レシピ登録してまた料理長達に教えるとか面倒だもん」
「そうか……残念だ……」
ワクワクしながら聞いてきたアーロンさんに拒否ると、アーロンさんはそれはもう盛大に肩を落とした。
「くくっ……あはははは!」
「おい、ジュード」
「だってさー、陛下さっきから面白すぎだよー」
「不敬だろうが」
「大丈夫ですよ。陛下がコレですので」
リシクさんが新しい紅茶ピッチャーをテーブルの上に置いて、笑いながらアーロンさんを指さした。
アーロンさんはジュードさんの爆笑も、リシクさんのコレ発言も気にした様子はなく……「楽しみだったのに」と肩を落としたままだった。
「じゃあ、ベヌグの街で買ったセナっちのレシピのパン食べるー?」
「いいのか!?」
「モルトー」
「はい、こちらです」
ジュードさんがモルトさんの名前を呼ぶと、モルトさんがナッツパンとドライフルーツパンをアーロンさんに渡した。
特に気にすることもなく、かぶりついたアーロンさんにガルドさんが驚いていた。
「毒とか調べなくていいのかよ……」
「そういえば、私が作ったやつもいつもそのまま食べてるね」
「ほう、ナッツとドライフルーツ入りか! これはこれで美味いな。オレは多少の毒には耐性があるし、セナはそんなことしないだろ? ガルド達はセナが信用してるからな。大丈夫だろ。なぁ、これはすでにレシピ登録してあるんだろ? 王都でも許可出してくれ」
ガルドさんからしたら食べ物の安全性の話より、この先食べられるかどうかの方が気になるらしい。
あっという間にモルトさんが渡した四つのパン平らげ、少し満足したらしい。
「そろそろ昼だな。食堂に行くか!」
今パンを食べたばかりなのに、アーロンさんは立ち上がって歩きだした。
疲れた様子のガルドさんに「陛下面白いねー」とジュードさんが話しかけ、ガルドさんはため息をつきながら頭を押さえながらアーロンさんに続く。
食堂に着くと、味を確かめて欲しいとカレーが配られた。
グレンは〈セナが作った方が美味しい〉と言っていたけど、ガルドさん達は「美味い美味い」と食べていた。
◇
ご飯を食べた私達はリシクさんに馬車で送ってもらい、宿まで戻ってきた。
今は私の部屋でジルが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「大丈夫だったが……もう行きたくはねぇな……」
「オレっちは謁見じゃないならいいかなぁー。謁見と普段が違いすぎだよー」
「そうですね。謁見は緊張しましたが、陛下は気さくな人でしたし」
「……ギャップ」
「俺はいつ不敬罪に問われるか気が気じゃなかったんだぞ……」
ガルドさんはジュードさんを睨み付けたけど、ジュードさんはどこ吹く風。
私からすればいつも通りのアーロンさん。っていうか、ギャップって単語があるんだね。ちょっと笑っちゃったよ。
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。