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第二部 10章
新たなる冒険
私達は朝早くから行動を開始して、王都の門前で馬車に乗り込んだ。
目指すは王族の許可が必要なあのダンジョン。
アーロンさんが「入らないのか?」って何回も聞いてきたから、ガルドさん達の許可ももぎ取った。
〈セナ、朝ご飯は?〉
「ライスバーガーだよ」
馬車の中だから片手で食べられるもの。
ガルドさん達も米を気に入ったらしく、私が渡した土鍋でよく炊いているらしい。
「ふわぁ……まさかオレっち達まで許可がもらえるとは思ってなかったよー」
「そうですね。しかも陛下からの指名依頼ですからね」
「全く、未知のダンジョンだっつーのにいつも通りとはな……」
ジュードさんがあくびをしながら言うと、モルトさんとガルドさんが苦笑いをしながら答えた。
〈我らの心配より、自分達の心配をしておけ。ダンジョン内で離れないとも限らん〉
「んもう! グレン! 脅さないの! ネラース達もいるし大丈夫だよ~」
「セナのその自信はどこからくるんだ?」
「ん~……なんとなく。勘?」
顔を引きつらせたガルドさん達をフォローしようとしたのに、私の返事を聞いたガルドさんに「急に不安になってきた」と言われてしまった……解せぬ。
今回のアーロンさんからの指名依頼の内容は、一言で言えば調査。
魔物は何が出てくるのか、ドロップ品は何なのか、何階層から成り立っているのか、兵士達や他の冒険者も入るとしたらどれくらいの強さが必要なのか……を調べなきゃいけない。
入るのにあたり、食料品やポーションなどの雑貨類はタルゴー商会が喜んで充分すぎるくらい用意してくれた。お金はアーロンさん払い。
アーロンさんは珍しいドロップ品があれば他国に輸出しようと考えてるらしく、ガルドさん達に「セナの感覚だとアレだから、珍しい物があれば頼んだぞ」と肩を叩いていた。
まぁ、確かにこっちの世界の感覚はイマイチわかってないかもしれないけど……目の前で言うなし! って感じだよね。
レナードさんとリシクさんが昔の文献を調べてくれたんだけど、前に説明された以外の情報はほとんど出てこなかったらしい。
大昔のことならアルヴィンが知ってるかな? って思ったんだけど、〝強くなれるダンジョンがあるらしい〟って噂で聞いたことがあるだけだった。
◇
馬車に揺られて夕方にはダンジョンのある建物に到着した。さすがニヴェス。速い。
建物は要塞と言えばいいのか、砦と言えばいいのか……とりあえず頑丈そうで、牢屋や牢獄みたいにも見えなくはない。
サイズは日本の一般的な戸建て住宅よりちょっと大きいくらい。この世界の建物にしては小さめ。
道はあるものの、鬱蒼とした森の中にポツンと建っていると不気味さが否めない。
これは誰かが勝手に入らないように、当時のシュグタイルハンの国王が後付けで造らせたものらしい。
「こんにちはー!」
ダンジョン守――このダンジョンの建物を管理している人がいると聞いていたので、建物の入り口の扉の前で声を張り上げた。
しばらくすると「はいぃぃー!」と中から聞こえてきたのはいいんだけど……ガシャーン! と何かが割れる音が聞こえて私達は顔を見合わせた。
ギィィと重く軋む音を鳴らしながら扉が開き、中から「お待たせしました」と顔を覗かせた人物を見て、私は叫びながら隣りにいるジルに抱きついた。
「ギャー!」
「あっ、驚かせてしまいごめんなさい。ここのダンジョン守をしている者です」
年齢的には十八歳くらいの青年は、頭から血を流していて顔色が悪い。
ダンジョン守だと言う青年は、叫ぶ私に頭を丁寧に下げて謝った。
〈む、グール……か?〉
「はい。よくお分かりで」
「いやいやいや! 血! ケガ!」
〈こやつにヒールは使えん。ポーションだな〉
グレンに言われて、ジルに引っ付いたままポーションを出すと、グレンがダンジョン守に渡してくれた。
ダンジョン守は特に疑いもせず、渡されたポーションをゴクゴクと飲み干した。
「わぁー! こんなに美味しいポーション初めて飲みました」
「そ、そうですか……よかったです」
笑顔で感想を言ってくれたけど、顔に流れてた血はそのままだし、顔色も悪いまま。不気味すぎる!
「お、おい……グールって……」
ガルドさんも驚いているみたいで、いつになく困惑を滲ませた声色だった。コルトさんに至ってはヤリを構えている。
「アーロン陛下より聞いていましたが、セナ様のパーティですか?」
〈そうだ〉
「では説明しますので、中へどうぞ」
促されてジルにくっ付いたまま扉から中に入ると、外観からは想像できないくらいの普通の家。
床にはカーペットが敷かれていて、ソファとテーブルのある応接間みたいな広間になっていた。
「どうぞ座ってください。今お茶でも……」
「おかまいなく! それより血拭いて下さい」
ダンジョン守の青年の申し出を断ると「失礼しました」と、ようやくタオルで顔を拭ってくれた。それでも顔色は悪いまま。
「到着は明日だと思っていましたので、慌ててしまいました」
〝てへっ〟と恥ずかしそうにポリポリと頬をかいているけど、さっきの血濡れ状態を見ちゃった私は笑えない。
「グールっつーのは?」
「そのままです。この体は森で亡くなっていた青年で、取り憑いて体を借りています」
ガルドさんが問いかけると、何でもないようにダンジョン守の青年は答えた。
青年の中の人物は元々、このダンジョンの入り口を管理する一族の末裔。自分は結婚しておらず子孫を残せていない。病気にかかり先が長くないと悟った中の人物は、ダンジョンの管理する後継者がいないことに心を痛めた。そこで、どうにかして延命しようと呪術に手を出したら、死体は灰になり魂だけの存在になっていた……ってことらしい。本人いわく、「最初は驚いたし、定期的に体を替えなきゃいけないけど、これはこれでいいかなって」ことだそうです。
「ちゃんと、前の体は持ち主に感謝して埋葬してますし」
「グールって人襲ったりするんじゃないのー?」
〈いや、そうとも限らん。確かに襲うやつもいるが、人に紛れて生活していたりもする。ゾンビとは違って理性があるし、こやつは自らグールになった口だからまた少しタイプが違うがな〉
ニコニコと語る青年にジュードさんが質問すると、代わりにグレンが答えた。
大抵のグールは、生命活動が止まった己の体を動かして生活する。グールになるメカニズムは解明されていなくて、死んだと思ったらグールになっていた……なんてパターンもある。呪術は失敗する者が多いが、たまに中途半端に成功すると、この青年みたいな現象を起こせる。ヒールは光魔法のため、良心的なグールには厳禁。逆にゾンビもグールも倒す場合は光魔法が効果的……とアルヴィンが教えてくれた。
「普段は一人なので、先日今代の王の遣いの人が来たときは驚きました。ダンジョンに入る人は初めてなので嬉しいです」
「前に人が入ったのって何年前なの?」
「ボクが担当してから数百年は経ってます。千年以上前なことは確実ですね。そうそう! 人が来ると聞いて部屋を掃除しておきました。ぜひ泊まっていってください! ご飯も食べるかなと食材は集めてあるんですけど……まだ作っていないので、食事は待っていただけると嬉しいです」
青年は害意も敵意もなさそう。むしろ人が来たことが嬉しいみたい。
ダンジョンには明朝入ることにして、今日は好意に甘えて泊まることになった。
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