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第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【12】
朝食後、お楽しみのコーヒータイム。
私が久しぶりのコーヒーに幸せを感じていると、みんなは口に含んだ瞬間「ぶっ!」と吹き出した。
苦すぎて驚いたらしい。
ちゃんと牛乳と砂糖も用意して「味見しながら調節してね」って言ったのに……
結局、子供でも飲めるくらいのコーヒー牛乳……しかも練乳入りにしてようやく飲めるようになった。ブラックはダメだけどこれは気に入ったみたい。
◇
ここは九十八階層。昨日の滑り台でまた一気に下層へ運ばれたらしい。
よくよくマップを確認すると、森の広場タイプだった。上がる階段はないから、どこからか落ちて来ないと到達出来ない場所。
下へ降りる階段は昨日コーヒーを採取しているときに見つけていた。
みんなで階段を降りると、待ち構えていたのはボス部屋だった。
ボス部屋の扉はガガガガガと今にも壊れそうな音を立てながら開いていく。
中は過去のボス部屋よりもかなり広く、武装した二足歩行のマッチョ猿がわんさか。さらに奥には、一際存在感を放つ二十メートルはありそうな大猿。
大猿はあのバトルマンガの満月見て変身した感じだし、二足歩行のほうは「惑星から来たんですか?」って聞きたいくらい目付きが鋭い。
私達を見つけた大猿の咆哮で空気がビリビリと震え、私達に緊張が走った。
〈カイザーコングか……これはキツいぞ……セナ! 油断するな! 伝説級だ!〉
「伝説級!?」
グレンの言葉にガルドさん達は驚きの声を上げ、すぐに武器を構えた。
(伝説級って何!? グレンがキツいって前の天災級より強いってことだよね!?)
私が質問する前に大きな岩が飛んできて、私達はジャンプで避けた。そこから猿の攻撃が始まり、私達は会話もできないまま戦闘が始まってしまった。
猿達は統率が取れていて、まず私達に突撃してきたのは歩兵部隊。
剣や槍などで攻撃を繰り出しながらガムシャラに向かってくる。仲間が殺られようがお構いなし。
モンスターハウスほどの強さはないけど、ガルドさん達にはスピードと攻撃力を上げるように魔力を纏わせた。
ネラース達は巨大サイズになって猿達がまとまらないように攻撃してくれている。
〈セナ! 油断するな!〉
「ありがとう!」
飛んできた岩をパンチで壊してくれたグレンに注意された。
岩を飛ばしてきたのはカタパルトみたいな投石機を動かしている猿。投石部隊?
グレンがみんなに注意したからか、みんないつもの戦闘より真剣。
一時間も経たないうちにほとんどの猿は狩られ、残すところは大猿と大猿を守るように構えているマッチョゴリラ。
『主様、アポの実食べてちょうだい』
「プルトン、ガルドさん達にコレ渡して」
ネラース達が戦ってくれている間に、私はリンゴを丸齧り。プルトンにリンゴポーションを渡してもらうように頼んだ。
他のみんなは魔力も体力も大丈夫らしい。
リンゴを食べて回復した私が大猿を見上げると、目が合った。
――――グオォォォォォ!!!!
咆哮の声が大きすぎて、頭がグワングワンする。
大猿は自分の胸をドコドコと叩きながら足踏み。部屋全体がグラグラと揺れ、天井からパラパラと砂が落ちてきた。
「ゔぅ……さっきまで大人しかったのに何で興奮し始めたの!?」
『知らないわ!』
〈来るぞ!〉
グレンに言われた瞬間――大猿は私達を叩きつぶすように上から一気に手を振り下ろした。
「あっぶな……」
動きが大きくてわかりやすいから難なく避けられたけど、当たったら骨折じゃ済まなさそう。
精霊達が魔法、ネラース達が物理で攻撃を繰り返しているけど効いている気配がない! あのウェヌスの破壊光線でさえも!
煩わしいのか大猿が吼えると私達に衝撃波が襲い掛かってきた。その衝撃波でガルドさん達が壁まで吹き飛ばされてしまった。
「ガルドさん!」
大猿はニヤリと口許を歪ませ、歩き出した。狙いは……ガルドさん達だ。
これはマズイ。とってもマズイ。
「グレン!」
〈わかった!〉
グレンを呼び、私は大猿に向かって走り出す。
(ガルドさん達から意識を逸らさないと!)
グレンがドラゴンに変化して炎を吐くと、大猿は一瞬目を丸くさせ、グフグフと嬉しそうに笑った。
グレンが気を引いてくれている間に大猿の腕を駆け登り、腕を切り落とそうと刀で切りつける。
「ぬあ゛ぁ! 抜けない!」
筋肉に挟まれたのか刀が二の腕に食い込んだまま抜けなくなってしまった。
焦った私が刀を抜こうとしていると、切羽詰まったような声でガルドさんに呼ばれた。
「セナ!」
「え? うぁっ!」
『主様!?』
大猿は反対の手で私を握り、『ウホォー!』と叫んだ。間一髪でクラオルとグレウスを肩から逃がしため二人は捕まらずに済んだ。
潰されるかと身体強化で防御力を上げたけど、大猿は一向に握力を強めない。
――〈貴様ぁぁぁぁーーー!〉――
グレンはドラゴンのまま怒りに身を震わせて、大猿に殴りかかった。
対する大猿は私を両手で包み、グレンに背を向ける。
「え?」
グレンの渾身のパンチで大猿は少しよろめいたけど、私を包む両手はそのまま。
どういうことだと見上げると、心なしか私を見つめる目が優しい気がする。みんなが心配して私の名前を呼んでくれているけど、状況が理解しきれず反応できない。
大猿の体が視界を妨げていてみんなの様子が見えない。
グレンが繰り返し殴っているのか、振動が大猿の腕から伝わってくる。そんなグレンを大猿が睨み付けながら振り向くと、クラオルとプルトンの悲鳴が聞こえ、続けて何かが壁にぶつかった音が響いた。
(もしかしてグレンが吹き飛ばされた? 私の大事な家族を?)
先ほどガルドさん達が吹き飛ばされたときのグッタリした様子が脳裏によぎる。
何で私を握り潰さないのかはわからないけど、冗談じゃない!
私の内側から怒りのあまり魔力が溢れ出すと、大猿が驚いたように目を丸くさせた。
魔力をウニのように凍らせ、大猿の手の中から脱する。そのまま頭目掛けて再び腕を駆け登った。
「ウチの家族に何すんじゃぁぁぁぁい!!」
頭の上でジャンプして、自分自身の重量とスピードを上げ、これでもかと身体強化で硬くした右足で脳天目掛けてかかと落とし。
大猿が『グフォ』と白目を剥いた瞬間――ボフン! と白い煙りのエフェクトが出た。
「うわ!」
《主!》
大猿が消え、私は床に真っ逆さま。床にぶつかる前にエルミスが助けてくれた。
心臓がバクバクしたまま私がお礼を言うと、エルミスは《心配した》とギュッと抱きしめてくれた。
『ウキュ~』
「ん? 何の声?」
『ウキュキュ』
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