文字の大きさ
大
中
小
254 / 502
11章
パニック
「お客様にお知らせ致します! 先程舞台に上がっていたグランドタイガーが脱走致しました! 安全のためにその場から動かないで下さい!」
男性が叫ぶように報告すると、会場は大混乱に見舞われた。
私達は半個室にいるため影響はないけど、貴族の女性は悲鳴を上げ、男性は怒鳴りながら我先にと出口に向かって行く。
混乱を治めようと、主催者側のサーカス団員は「危険です! 動かないで下さい!」と叫んでいるけど、貴族は聞く耳を持たずに入り口を警備していた人を弾き飛ばした。
「あっちにいなくてよかったね~」
「セナ様、ここも危険では?」
「あの中に行く方が危ないよ。男の人が言ってたじゃん。『その場から動かないで』って」
〈襲って来ても我が返り討ちにしてやる〉
ジルもガルドさん達も立ち上がっていたけど、グレンの一言で座り直した。
錯乱状態の客席を見ながら私達は高みの見物。
「うわぁ……あのオバサン扇振り回してる……」
〈人間はこうなると本性が出てくるな〉
「お、おい! セナ!」
「んー? どうし……え!?」
グレンと客席を見ていると、ガルドさんが切羽詰まったような声で私を呼んだ。
振り返ると、私が張っている結界を前足でカリカリしている先程の虎がいた。
「脱走したって言われてたのこの子だよね? どうしたの? 私達に何か用なの?」
虎に話しかけると、結界の前で大人しくお座り。しかも吼えずにジッと私を見つめている。
私達は顔を見合わせ、虎を招き入れた。
虎はグルグルと喉を鳴らしながら私に体を擦り付けてくる。
動物園にいる虎サイズと遜色ないボディに幼児サイズの私はヨタヨタ。
「おっとっと」
「お、おい……大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。ふふっ。可愛いね~。どうしたの?」
ナデナデさせてもらうと、少し毛が傷んでいた。
『……』
「キミ、もしかして喋れないの?」
口を開いてもハフハフと息遣いしか聞こえなくて聞いてみると、虎はコクコクと頷いて私の頬をペロリと舐めた。
〈セナ、こいつ呪われているぞ〉
「え!?」
グレンに言われて鑑定してみると、確かに【状態】が〝呪い〟になっていた。
解放してあげたいけど、私はやり方を知らない。
「解呪! って解けるワケないよね……」
『ガウ!』
「え? わわっ!」
〈解けたな〉
「えぇ!?」
首輪がボトッと落ち、虎は嬉しそうに声を上げた後、のしかかってきた。
ペロペロと私の顔を舐める虎にクラオルが『ちょっと! ワタシの主様よ!』とご立腹。
「ちょ、ちょっと落ち着いて。座ってもらえる?」
『ガウ』
お座りした虎は嬉しさが抑えられないのか、ブンブンとしっぽを振っている。そのしっぽがガルドさん達にベシベシと当たっているけど、この際それは置いておこう。
「本当に解けた……みたいだね。光魔法は使ったけど、まさか本当に解呪できるなんて……っていうか首輪してたのね。見えてなかったよ……」
『ガウ?』
「なんで呪いに罹ってたの? 後、どうして私のところに来たの?」
『ガウガウ』
さすがに言葉はわからないのでクラオルに通訳してもらうと……
――罠にかかって、このサーカス団に捕まった。このサーカス団には呪術師がいる。その呪術師に声が出なくなる呪いをかけられ、隷属の首輪を付けられた。
さっき、知らない男が檻の前に現れて「檻を開けてやるから、客席にいる銀髪の少女の方に行け」と言われた。隷属の首輪で苦しめられるのが嫌だから客席を目指して来たけど、私が優しそうに見えたから甘えちゃった――
とのことだった。
知らない男っていうのが、さっき私と目が合ったっぽい人? 私も知らないんだけど……魔女おばあちゃんの使いとかかな? この催し物教えてくれたのおばあちゃんだし……
『主様、仲間も助けて欲しいらしいわ』
「うーん。助けてあげたいけど……今は無理かなぁ? 混乱はしてるだろうけど、多分、キミを探し回ってると思うんだよね……」
『ガウ……』
虎はショボーンと肩を落としてしまった。
どうしようかと考えているうちに、団員が現れた。これ以上話すことはできない。
「あ! いた! お客様! 大変申し訳ございません! おケガは!?」
「大丈夫((クラオル、虎さんに喋らないように伝えて))」
『ウゥ』
『ちょっと、アンタ! 喋っちゃダメよ! 話せることバレるでしょ!』
威嚇しようとしていた虎に静かにするようにクラオルに伝言を頼む。
「モフモフさせてくれてありがとう。また会いにくるから、いい子で待っててね」
落ちつかせるように撫でながら語りかけると、虎は理解してくれたみたい。
口を開かず、気持ちよさそうに撫でられている。
「こんなに大人しいなんて……ゴホンッ! 肩にいるのは従魔ですか? お客様は素晴らしい素質をお持ちですね。ありがとうございます。おかげで被害を出さなくて済みました。この街にお住いでしょうか? お礼をお届けしたいのですが……」
「この街へは旅行で来ております。謝礼は不要です」
ジルが私の代わりにハッキリと言ってくれたけど、団員は「いや、しかし……」と食い下がる。
あの宿は中は極上だけど、外観がヤバい。それに、サーカスに出ていた魔物に呪いをかけて言うことを聞かせるような人達に教えたくない。
「どうしてもと仰るのでしたら、明日またコチラに伺います」
「よろしいのですか?」
「はい」
「ありがとうございます。この騒動で人がいなくなってしまいましたので、本日の営業は終了になります。本当にありがとうございました。ほら、行くぞ」
団員は虎に偉そうに声をかけ、連れて行った。
「私達も戻ろ?」
みんなに声をかけて、サーカステントを出ると、外には人っ子一人いなかった。お土産屋さんで売っていたものやゴミが散らばっていて、慌てて逃げたことが見て取れる。
貴族エリアにも人はおらず、お店も閉まっていた。
「まだ明るいうちに全部のお店が閉店してるとは思ってなかった」
「セナ様」
「うん。わかってる。向こうのエリアに入ったらバラけて撹乱しよう」
「大丈夫なのか?」
「二人だけだから、それ以上で散らばったら追えないと思う」
「わかった。気を付けろよ?」
何故かテントを出たときからずっと後ろをつけられている。
みんなとアイコンタクトを取り、宿のあるエリアに入った瞬間、私達は走り出した。
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。