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11章
パニック
「お客様にお知らせ致します! 先程舞台に上がっていたグランドタイガーが脱走致しました! 安全のためにその場から動かないで下さい!」
男性が叫ぶように報告すると、会場は大混乱に見舞われた。
私達は半個室にいるため影響はないけど、貴族の女性は悲鳴を上げ、男性は怒鳴りながら我先にと出口に向かって行く。
混乱を治めようと、主催者側のサーカス団員は「危険です! 動かないで下さい!」と叫んでいるけど、貴族は聞く耳を持たずに入り口を警備していた人を弾き飛ばした。
「あっちにいなくてよかったね~」
「セナ様、ここも危険では?」
「あの中に行く方が危ないよ。男の人が言ってたじゃん。『その場から動かないで』って」
〈襲って来ても我が返り討ちにしてやる〉
ジルもガルドさん達も立ち上がっていたけど、グレンの一言で座り直した。
錯乱状態の客席を見ながら私達は高みの見物。
「うわぁ……あのオバサン扇振り回してる……」
〈人間はこうなると本性が出てくるな〉
「お、おい! セナ!」
「んー? どうし……え!?」
グレンと客席を見ていると、ガルドさんが切羽詰まったような声で私を呼んだ。
振り返ると、私が張っている結界を前足でカリカリしている先程の虎がいた。
「脱走したって言われてたのこの子だよね? どうしたの? 私達に何か用なの?」
虎に話しかけると、結界の前で大人しくお座り。しかも吼えずにジッと私を見つめている。
私達は顔を見合わせ、虎を招き入れた。
虎はグルグルと喉を鳴らしながら私に体を擦り付けてくる。
動物園にいる虎サイズと遜色ないボディに幼児サイズの私はヨタヨタ。
「おっとっと」
「お、おい……大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。ふふっ。可愛いね~。どうしたの?」
ナデナデさせてもらうと、少し毛が傷んでいた。
『……』
「キミ、もしかして喋れないの?」
口を開いてもハフハフと息遣いしか聞こえなくて聞いてみると、虎はコクコクと頷いて私の頬をペロリと舐めた。
〈セナ、こいつ呪われているぞ〉
「え!?」
グレンに言われて鑑定してみると、確かに【状態】が〝呪い〟になっていた。
解放してあげたいけど、私はやり方を知らない。
「解呪! って解けるワケないよね……」
『ガウ!』
「え? わわっ!」
〈解けたな〉
「えぇ!?」
首輪がボトッと落ち、虎は嬉しそうに声を上げた後、のしかかってきた。
ペロペロと私の顔を舐める虎にクラオルが『ちょっと! ワタシの主様よ!』とご立腹。
「ちょ、ちょっと落ち着いて。座ってもらえる?」
『ガウ』
お座りした虎は嬉しさが抑えられないのか、ブンブンとしっぽを振っている。そのしっぽがガルドさん達にベシベシと当たっているけど、この際それは置いておこう。
「本当に解けた……みたいだね。光魔法は使ったけど、まさか本当に解呪できるなんて……っていうか首輪してたのね。見えてなかったよ……」
『ガウ?』
「なんで呪いに罹ってたの? 後、どうして私のところに来たの?」
『ガウガウ』
さすがに言葉はわからないのでクラオルに通訳してもらうと……
――罠にかかって、このサーカス団に捕まった。このサーカス団には呪術師がいる。その呪術師に声が出なくなる呪いをかけられ、隷属の首輪を付けられた。
さっき、知らない男が檻の前に現れて「檻を開けてやるから、客席にいる銀髪の少女の方に行け」と言われた。隷属の首輪で苦しめられるのが嫌だから客席を目指して来たけど、私が優しそうに見えたから甘えちゃった――
とのことだった。
知らない男っていうのが、さっき私と目が合ったっぽい人? 私も知らないんだけど……魔女おばあちゃんの使いとかかな? この催し物教えてくれたのおばあちゃんだし……
『主様、仲間も助けて欲しいらしいわ』
「うーん。助けてあげたいけど……今は無理かなぁ? 混乱はしてるだろうけど、多分、キミを探し回ってると思うんだよね……」
『ガウ……』
虎はショボーンと肩を落としてしまった。
どうしようかと考えているうちに、団員が現れた。これ以上話すことはできない。
「あ! いた! お客様! 大変申し訳ございません! おケガは!?」
「大丈夫((クラオル、虎さんに喋らないように伝えて))」
『ウゥ』
『ちょっと、アンタ! 喋っちゃダメよ! 話せることバレるでしょ!』
威嚇しようとしていた虎に静かにするようにクラオルに伝言を頼む。
「モフモフさせてくれてありがとう。また会いにくるから、いい子で待っててね」
落ちつかせるように撫でながら語りかけると、虎は理解してくれたみたい。
口を開かず、気持ちよさそうに撫でられている。
「こんなに大人しいなんて……ゴホンッ! 肩にいるのは従魔ですか? お客様は素晴らしい素質をお持ちですね。ありがとうございます。おかげで被害を出さなくて済みました。この街にお住いでしょうか? お礼をお届けしたいのですが……」
「この街へは旅行で来ております。謝礼は不要です」
ジルが私の代わりにハッキリと言ってくれたけど、団員は「いや、しかし……」と食い下がる。
あの宿は中は極上だけど、外観がヤバい。それに、サーカスに出ていた魔物に呪いをかけて言うことを聞かせるような人達に教えたくない。
「どうしてもと仰るのでしたら、明日またコチラに伺います」
「よろしいのですか?」
「はい」
「ありがとうございます。この騒動で人がいなくなってしまいましたので、本日の営業は終了になります。本当にありがとうございました。ほら、行くぞ」
団員は虎に偉そうに声をかけ、連れて行った。
「私達も戻ろ?」
みんなに声をかけて、サーカステントを出ると、外には人っ子一人いなかった。お土産屋さんで売っていたものやゴミが散らばっていて、慌てて逃げたことが見て取れる。
貴族エリアにも人はおらず、お店も閉まっていた。
「まだ明るいうちに全部のお店が閉店してるとは思ってなかった」
「セナ様」
「うん。わかってる。向こうのエリアに入ったらバラけて撹乱しよう」
「大丈夫なのか?」
「二人だけだから、それ以上で散らばったら追えないと思う」
「わかった。気を付けろよ?」
何故かテントを出たときからずっと後ろをつけられている。
みんなとアイコンタクトを取り、宿のあるエリアに入った瞬間、私達は走り出した。
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