文字の大きさ
大
中
小
259 / 500
11章
ローション野菜
買い物をしてはご飯のストックを作り、また買い物に行くこと数日、釣りを手伝ってくれた街の人と仲よくなった。
私がセミエビを大量に買い取ったおかげで、生活にゆとりが出来たらしい。
とある青年には「人生諦めてたけど希望が見えたよ。俺、漁師になる」と感謝された。私は欲しかった素材だから買い取っただけなんだけど……まぁ、前向きになれたのならいいのかな?
呪術師が逃げたせいで街では騎士をよく見かけた。これについてはプルトンがちょこちょこと情報収集をしてくれている。
おばあちゃんが言っていた通り、警備が緩くなるのはもう少しかかりそうとのこと。
◇
手紙を出しに行った冒険者ギルドでガルドさん達が捕まり、彼らは指名依頼を受けることになった。討伐ならお手伝いできたんだけど……護衛依頼だったため、私達とは別行動。
そこで街から出られないことでストレスが溜まっているグレンのために、私達は転移でキヒターのいる教会を訪れた。
毎度の如く予告しなかったのにキヒターが待ち構えていた。
《女神様! 今日はどうしたんですか?》
「グレンは狩り、私は薬草とシュティー達のミルクが欲しくて」
《薬草ならいっぱいあります!》
「ありがとう。シュティー達は?」
《今は見回りに行ってます!》
「見回り?」
《はい! こことあの泉の周りに魔物が出ないように狩ってくれてます!》
「マジか……」
シュティー達って戦いたくないって言ってなかったっけ? 武器とか持ってるの?
戻って来たら聞いてみよう……
〈我は狩りに行ってくるぞ〉
「ケガに気を付けてね?」
〈うむ! 昼に一度戻って来る〉
「行ってらっしゃい」
グレンを送り出し、私は薬草をもらおうと教会の倉庫へ。
倉庫には薬草だけじゃなくてブロック肉がいくつも置かれていた。
キヒターの説明によると、全部シュティー達が狩った魔物の肉だそう。私のために解体済みでご丁寧に部位毎にまとめられているらしい……
「これはシュティー達が戻って来てからの方がよさそうだね……」
《それなら畑を見てください! 面白いの見つけたんです!》
「あ! ちょっと、そんなに引っ張らなくても……」
面白いのって何?
テンションの高いキヒターに手を引かれて畑に向かうと、見たことのない白と黄緑色の白ネギみたいな物とピンクの松茸みたいな物が植わっていた。ただ一つだけ異様と言えるのが松茸が透明な膜に覆われていることなんだけど……
《このヌルヌル、取っても取っても元に戻るんです! とっても不思議です!》
「……ふ、不思議だねぇ~」
《これで遊んでたらカプリコさんに怒られちゃいました》
キヒターが手で膜を取ると、瞬間的に元に戻る。
鑑定してみると白ネギに見えるのは【ウルウル菜】という野菜。山形県を中心とした東北地方で栽培されているウルイの類似品。
ピンク色の松茸は【マラーション草】という野菜。栄養豊富でコリコリとした食感。透明な膜は粘液で【マラーション剤】。水で薄めれば足留めや潤滑剤として使え、乾燥させれば片栗粉として使えるらしい。
「スライム液を片栗粉の代用品使ってたけど、こっちが本物なのね……」
ちょっとローションちっくだと思ったけど、まさか本当にローションとして使えるとは…………足留めってテレビでやってたローション階段みたいな感じでしょ? ローションだと思うと食べたくないから、料理にはなるべくスライム液使うことにしよう。うん、そうしよう。
《いらないですか?》
「いや、美味しい野菜だから嬉しいよ。ありがとう」
粘膜で遊んでいたキヒターが心配そうに私を見上げるから、頭を撫でてあげる。キヒターは《えへへ、よかったです!》と途端に笑顔になった。
うん。ウルイは美味しい野菜だよ! ローションの方はちょっと遠慮したいけどね!
◇
まだシュティー達もグレンも帰って来ないため、キヒターも一緒にキノコ狩り。
いつの間にか精霊の子達も手伝ってくれていて、二時間ほどで在庫が大量に増えた。よく使うから、とってもありがたい!
精霊の子達にお礼のパンを渡し、私達は教会のキッチンで昼食を作り始めた。
「早速ウルイ使ってみようかな?」
《もう一つは使わないですか?》
「う……わかった……」
可愛くキヒターに聞かれて、拒否できなかった……
これは、腹をくくるしかない! キヒターのためだ。頑張れ私。
鑑定によると、収穫しちゃえばローションは増えないから、水で洗い流せば普通に調理できるらしいんだよね。
食感については書かれていたけど、味に付いては書かれていなかったから、これ単品よりは何かに混ぜた方がよさそう。
あまり包丁の扱いに慣れていないキヒターに切り方を教えながら野菜をカットしてもらい、ジルには豚肉を担当してもらっている。
私はつい先日釣ったセミエビを無限収納で解体してお刺身に。これだけだと足りなさそうだから、鮪と鰹も解体した。こっちはサク状だから包丁で切らないと。
切ってもらった野菜と豚肉を使って豚汁を作り、大根と鶏肉の煮物、ウルイの酢味噌和え、茶碗蒸し……と、メニューはザ・お刺身定食。
煮物の鶏肉がゴロゴロと大ぶりだから、グレンの肉欲求も満たしてくれるハズ!
あのマラーション草は……粗みじん切りにして煮物に混ぜてみた。
キヒターは私と台所に立てるのが嬉しいらしく、終始ご機嫌だった。
お昼ちょっと前にグレンとシュティー達が揃って戻って来た。意外にもグレンがシュティー達を探して連れて来てくれたらしい。
「おかえり~」
『『本当にお嬢様がいたわ! ただいま!』』
シュティーとカプリコは息ピッタリにハモった。流石仲よしなだけある。
〈あまり肉は狩れなかったが、ブラックマンティスがいたから狩ってきたぞ〉
「おぉー! ありがとう!」
『お肉ならあたい達が狩ったやつがあるわ!』
『そうよ! 倉庫にたくさんあるわ! お嬢様に渡そうと取っておいたの!』
カプリコが言うと、シュティーが同調した。キヒターが言っていた通り、あのブロック肉は私のためだったらしい。
「さっきチョロっと見たよ。解体までありがとうね。でも先にみんなでお昼ご飯にしよ?」
〈うむ! 今日は何だ?〉
「ミンミンエビのお刺身定食だよ」
教会前の広場にテーブルセットを出してご飯を配ると、シュティーとカプリコは顔を輝かせた。
グレンからは〈肉が少ない〉って呟く声が聞こえてきたけど。
「今日はキヒターとジルに手伝ってもらったんだよ」
《まぁ! 味わって食べなくちゃ!》
《そうね! 初めてのキヒターのご飯だわ!》
キヒターやシュティー達はセミエビも普通に食べ始めたけど、グレンとジルは一口目を恐る恐る食べていた。見た目から心配だったみたい。
私も煮物が心配だったけど、アレは本当に食感だけで普通に食べられた。キクラゲみたいな感じだったからスライスした方がいいかもしれない。
〈この鶏肉のやつはコリコリしていて腹に溜まるな! 美味しいぞ!〉
「えぇ。このミンミンエビもプリプリしていて、見た目からは想像できない美味しさです」
グレンもジルも気に入ってくれたみたいだから、今度ガルドさん達にも出してあげよう!
シュティー達は料理に大興奮でベタ褒め。キヒターは美味しいけど、やっぱり私の魔力水が一番なんだそう。魔力水つおい……
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。