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第三部 12章
地下帝国の街【1】
しおりを挟む「そういえば……朝何かを言いかけてたな」
思い出したジャレッドが話題を振ると、アリシアは「あ……」と言い淀んだ。
「あら? 何か問題?」
「い、いえ。えっと……セナ様を街にお連れしてもよろしいでしょうか? とお聞きしようかと思っておりました」
「街か……」
「い、いつもわたしと二人なので……図鑑を見るだけよりも本物を見た方が喜ぶと思ったのです……そ、そそそそそれに今、天狐さんからセナ様は外で遊ぶことがお好きだと聞きました!」
「いいじゃない! この朴念仁と部屋に閉じこもっているより楽しいわ」
ジャレッドはただ危険について考えていただけなのに、アリシアはアワアワと言い訳をするように理由を述べる。その様子にジャレッドは苦笑いが隠せなかった。
「お前は己に慣れんな……」
「も、申し訳ございません……」
「まぁ、いい。セナは外に行きたいのか?」
ジャレッドが窓の外を指さしながらセナに問いかけると、セナは一枚の絵を持ってきた。
それは太陽の下、セナ、ジャレッド、天狐、アリシアが花畑で並んで笑っている絵だった。
「ジィジ、ティンコ、アチャ!」
「まぁ! アタシもちゃんといるのね! 流石セナちゃん!」
「ふっ。そうか。外へ出ても太陽はないが……いいだろう。己もゆく。セナは目立つからな……フードを被させろ。お前もメイド服ではなく普通の服にしろ」
「え……あ、はい! かしこまりました」
アリシアは〝セナ様も天狐さんも目立つけど、一番目立つのはあなたです〟と思っても言えず、頷いてセナの服を取りに向かった。
◇
着替えた一行は揃って城を出た。
ここは地下帝国。巨大な地下空間にあるため、城の外も薄暗く、各所に電灯のような明かりの魔道具が設置されている。ただ、街自体は地上の街とさほど変わりはない。違うのは一定間隔で、この地下空間を支える柱があることだろう。その柱はタワーマンションのように住民が住み着いている。
この空間の真上――地上には巨大な氷山があり、いくら寒さに強い雪族でも住むことは叶わない。ただ一つ、氷山の麓に地下空間と地上を繋ぐ設備が設置されている。
氷山の真下にあるが、特殊な造りをしていて多種族でも住めるくらいの寒さだ。そのため、地上ほど厚着をしている者はいない。
ジャレッドの腕の中でセナは珍しそうにキョロキョロと周りを探っては、目を丸くさせて驚いていた。
「ジィジ! あれ!」
早速見つけた屋台を指さしてねだるセナに「あれは酒だからダメだ」とジャレッドは突っぱねた。
「ティンコ……」
「うふふ。そんな顔をしても、あれはアタシも飲ませたくないわ」
「むぅ……」
「ククッ。あれはダメだが、あっちのスープはどうだ?」
「スープ!」
機嫌の直ったセナを抱えたままジャレッドが屋台に向かうと、店主は驚きに目を見開いた。
「ヒッ! りゅ、流血王様……」
「こっちのをコップ付きで三杯」
「は、はい! ただいま!」
震える手で店主から渡されたスープを嬉嬉として口に入れたセナは「ん゛~」と満足そうに飲み、ジャレッドにも食べさせようと口元に持って行く。
「ジィジ」
「己はお前が残したので充分だ。どうせ全部は食えないだろ? 好きなだけ食え」
「そうよ。お金持ちなんだからいっぱい買ってもらわなくちゃ!」
「……お前は稼いでるだろうが」
「ケチ臭い男はモテないわよ?」
「今更モテるモテないなどあるか」
「わからないじゃない。万が一……億が一ってこともあるわよ」
ヒラヒラと手を振りながらあしらう天狐に、店主はいつ流血王が怒るかとヒヤヒヤしていたが、最後まで怒ることなく去っていき、店主はホッと胸を撫で下ろした。〝少々イメージが違うな〟と思いながら。
セナはその後も気になる物を指さしては説明をねだり、いろいろな屋台で食べ物を注文していた。
街ゆく人はジャレッドに気が付くとそそくさと距離を取り、ジャレッド達の周りにはポッカリと穴が空いている。目立たない工作は全く以て意味を成していなかった。
「あら? これは雪族の中でも東の方雪族のデザインね」
「へ、へい。よくご存知で……」
「жжж……」
今はセナが興味を持った工芸品の露店を覗いている。
その中でもセナが特に注目していたのは、魔物の毛皮やシルバー製のカチューシャだった。目の前に持ち上げ、上から横からと興味深々に見つめている。
「それが気に入ったのか?」
「みみ。ティンコ、いっしょ……」
「もしかして、天狐さんのお耳の形がいいのではないのでしょうか?」
「まぁ! セナちゃん、そうなの? でもアタシ、セナちゃんの前で耳なんか出したことあったかしら?」
「セナに撫でられてるとき、普通に出てたぞ。これは、違うデザインも作れるのか?」
「へ……へい! 可能でっせ!」
ジャレッドに話を振られ、露店の店主は慌てて答えた。
「なら、こいつの耳の形を頼む」
「あねさんの形っすね……色が持ってる毛皮だと合わないんで、こっちで……」
天狐が出したケモ耳を見ながら店主が針金のようなシルバーを成形していく。それを目の前で見ていたセナはだんだんと顔が輝いていった。
「жжж! ティンコ! жжж!」
「見事なもんだな。セナ、落ち着け。己の足を叩くな。店主、いくらだ?」
「えっと……銀貨五枚で」
「釣りはいらん。お前には他にも作ってもらいたい。都合のいい日に城に来い」
「へ、へい! か、かかかしこまりやした!」
「セナちゃん、着けてあげるわ。いらっしゃい」
店主にジャレッドが金貨一枚を渡している間に、天狐はケモ耳型のシルバー製のカチューシャをセナに着けてあげる。
「いっしょ? いっしょ?」
「まぁぁ! 可愛いわぁぁぁ~! 流石アタシの子! うんうん。ちゃんとお揃い……一緒よ!」
「大変可愛らしいです! よくお似合いですよ」
笑顔の天狐とアリシアを見て、セナはパァァっと顔を輝かせた。
「んもう、可愛いんだから!」
ギュウギュウと天狐に抱きしめられ、セナは嬉しそうに抱きしめ返す。
ジャレッドはその様子を穏やかに見つめていた。
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