文字の大きさ
大
中
小
307 / 502
第三部 12章
空飛ぶ人参
王妃一族の一件は、ジィジの国――ニェドーラ国を揺るがす大問題として平民や貧民にまで「チスタ家が国を滅ぼそうとしていた」と噂されるようになった。
他の貴族や街で詐欺をしていたあのぼったくりも捕えられ、城下では王族の株が急上昇。
ジィジはメイドや子供を守ったとして今までのイメージを払拭しつつあるし、王様は騙されたフリをしていただけと言われているらしい。
ちなみにこれはアチャの家族からの情報だと、アチャが話してくれたもの。
実際はいろいろと違うけど、これからのことを考えるとその方がいいのかもしれない。
◇
天狐はお仕事に復帰してあっちこっちと忙しそう。理由は教えてくれなかったけど、とある目的のために頑張っているらしい。一日おきくらいにお城に来ては私が作ったお菓子やご飯を食べていく。
天狐はお仕事、スタルティはお勉強、アチャはジルと一緒にメイド業。なので今部屋には私とグレンとジィジだけ。あ、もちろんクラオル達は一緒だよ。
ここ数日、私を悩ませている原因を前にどうしようかと考える。
「向こうからの手紙だろう? 嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいよ! 嬉しいんだけど……早く戻って来いって言われてるんだよね」
「…………戻るのか?」
「そりゃいつかは戻るけど……」
せっかく冬の地域に来たなら、色々と見て回りたいし、ウォッカ以外の特産品も欲しい。
行きはクラオルの実家に飛べばいいだろうけど、こっちに戻って来るのが大変。転移を繰り返す途中で海にドボン! なんてしたくない。
ブラン団長達が心配してくれてるから、一度戻らなきゃとは思うんだけど……戻ったらまた過保護を発揮されるような気がするんだよね……
「明日、明後日とすぐに出るわけではないんだな?」
「うん。ちょっと考えたいからそんなにすぐに出発はしないよ」
「そうか。己もこれから少し忙しくなるが……決まり次第教えろ」
「ん? わかった」
そう言うと、ジィジはその場で書類を見始めた。
アチャや天狐がいないから執務室には行かないらしい。
ジィジのお仕事の邪魔はしたくないから、アチャ達が戻ってくるまで大人しくしてよう。
◇ ◆ ◇
次の日、私達はアチャと一緒に城下にやって来た。
目的はもちろん、お買い物!
「らっしゃ……お?」
お店に着くと、店主のおじさんが私達に気が付いた。
「ブラウンさんとこのお嬢さんじゃねぇか。久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「城に勤めてるって聞いたが、戻ってきたのか?」
「いえ、今日は付き添いです」
「こんにちは!」
「おう、こんにちは。……付き添いって、このお嬢ちゃんのか?」
挨拶して私に気が付いたらしい。
「はい。こちらのセナ様がぜひお買い物をしたいと」
「セナ様って……貴族じゃねぇのか? オレんところみたいな店じゃなくて……って聞いてねぇな?」
「ちゃんと聞いてるよ? ちょっと見てただけ!」
ちょっと首を伸ばして、キョロキョロと並んでる野菜見てただけだよ! 動いてないよ!
おじさんは私をしばし見つめ、プッと吹き出した。
「ハハハハハ! まぁ、好きなだけ見ていきな」
「わーい! ありがとう!」
おじさんから許可が下りたので、私は早速野菜を見て回る。
あの商会で出された萎びたトマトと違って、ちゃんと新鮮!
〈セナ、これはダンジョン産らしいぞ。我が見た限りでは違いがわからないが、何か違うのか?〉
グレンが指さしたのはメインで置かれているものではなく、隅の方にまとめられている人参。
普通の人参は農家の人が育てているもので、ダンジョン産は初めて見た。
「お? おぉー! このダンジョン行きたい!」
「ハハハハ! よく見つけたな。そのダンジョンはユキシタっつーダンジョンのドロップ品だ。あそこはちょっと特殊でな、捕まえるのが難しいんだよ」
「捕まえる? 倒すんじゃなくて?」
「そう、捕まえるんだ。普通の魔物も現れるが、そのキャロは雪の下に埋もれている。それらを雪から出すと飛ぶ」
「飛ぶの!?」
「ハハハハハ! いい反応だな。そう、羽が生えて、ピュンピュン飛んで逃げ回るキャロを捕まえなきゃダメなんだよ。他の野菜もあるが、捕まえるのが至難の業で、なかなか出回らない代物だ」
空飛ぶ人参……マジで? 本当に飛ぶの? っていうか、見た目はただの人参なのに羽はどこから出てくるの?
鑑定では雪下野菜で甘いって書いてあった。日本でも雪下野菜は甘くて柔らかいのが特徴だ。
捕まえられなくても、試すだけ試してみたい。
場所を聞くと、この街から二日ほどの距離らしい。
これはジィジに許可もらわないと!
「とりあえず、今はお買い物だね。グレンとジルは何食べたい?」
〈我は肉がいい〉
「僕はセナ様の料理は全て好きですので、足りない物やセナ様が気になるものがいいかと思います」
「じゃあ、買っちゃうね」
少なくなってきた玉ねぎやキャベツなど王道のもの中心にいろいろと購入。焼き芋が食べたくてサツマイモはあるだけ買わせてもらった。
おじさんは量に驚き、喜ぶどころかアチャに「大丈夫なのか?」と何回も確認していた。
ひとまず八百屋さんでのお買い物を終え、お昼ご飯に屋台をプラプラ。
グレンの食欲を目の当たりにしたアチャに「セナ様もいっぱい食べて下さいね」なんて言われてしまった。
お昼ご飯を済ませたら、お肉屋さんへ向かう。
着いたお肉屋さんはやたら肉団子を推していた。
豚や鳥はもちろん、熊肉団子に鹿肉団子、蛇肉団子や亀肉団子なんてものまであった。さらにその中でも魔物によって味が違うのか数種類ずつある徹底ぶり。
普通のお肉は隅の方にあるだけだった。
「うーん……どうしようかな」
〈セナ、我はこれがいい〉
鑑定で見ても味の違いがイマイチわからなくて悩んでいると、グレンからリクエストされた。
グレンが選んだのは【ブリザードイーグルの肉団子】。鑑定では煮物に向いているらしい。
アチャのオススメは【フローズンタイガーの肉団子】。これは珍しいそう。
ジルが選んだのは【ホットホークスの肉団子】。何回も食べてるから、間違いないという理由だった。
私も勘で【ホーンフォンの肉団子】というのを選んでみた。魔物の名前が普通っぽいでしょ?
他にもいくつか店主オススメを購入すると、店主のおばさんはオマケを付けてくれた。
ご機嫌のおばさんに見送られてお城まで向かって歩く。
一応今日予定していた買い物は終わったけど、チーズ専門店や紅茶専門店なんて見つけたら入ってみたくなっちゃうよね?
あっちもこっちもとお店に寄りまくった結果、お城に戻ったころには夜ご飯タイムをとう過ぎていた。おかげでジィジにしこたま怒られることになった。
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。