婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜

佐原香奈

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engagement

すれ違い

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「ねぇクロエ。君と、昨日の女性がこの部屋に侵入してきたことは、もう報告が上がっていると思う。君はどうやってここに来たの?」


寝て起きたら夢だったらいいなと思ってウトウトとしていたクロエを知ってか知らずか、フリードの真面目な声が鼓膜に触れる。
これは無視しては大事になるものだし、家に帰る魔力もないので、諦める。
何か良い言い訳はないかと暫く答えを探し始める。
彼女との関係は否定することに意味がある。
勘づいてはいても、私が認めなければそれは憶測でしかないのだ。



「小さい頃、護衛に追いかけられながらここに来たことがあるのかもしれないわね。私はここには来れると確信していたけど、記憶があるわけじゃない。説明は出来ないから聞かれても困るの」



女は口から生まれてくるというけれど、ピンチの中では女だったと証明されたようで、誇らしく思える。
しらじらしくも尤もらしい理由を述べれたと思う。


「そう…」


吐息のような声を漏らした後、抱きしめたまま何も言わなくなったフリードに呆気に取られたものの、沈黙の温もりに溺れた瞼は静かに下りていった。








「殿下、失礼致します」



コンコンコンコンとドアをノックする音で眠りから覚めると、光を感じた瞬間にパサリと布団を頭まで掛けられる。


フリードはベッドから降りるようで、回されていた手が離れていく。
隙間から入り込んだ空気が、ひんやりとクロエの眠気を覚ましていった。


「本日の準備はいかがされますか?」



「不要だ。朝食の用意はここへ。それから陛下へは緊急の対応は不要になったと伝えてくれ。予定通りこの後面会する」



「かしこまりました」


ちゃんとしていれば声もカッコいいのに、その声の主がぶりっ子王子だということが解せない。
ドアが閉まる音がすると、フリードがベッドへ近づいてくる気配がして、少しだけ出た頭のてっぺんにそっと手が置かれる。


「クロエ、朝食の前に少し話したいのだけど僕に時間をくれるかな?」


「服を先にちょうだい。私のドレスはどこ?」


クロエは布団を押さえながら、ゆっくりと上半身を起こす。
手を伸ばしていたフリードは、ローブを着てベッドの横にしゃがみ込んでいた。


「流石に裸のまま転移してどこかへは行かないだろう。すこし預からせてもらっている。話が終わったら返すよ」


「まぁ。意地悪ですのね」


やはりまだ逃してはもらえないかと思いつつも、透視が出来るので、誰も部屋にいないことを確認すればいつでも転移できると考えていた。
だが、自宅まで転移できる力があればという条件を考えれば、少し肝は冷える。


「クロエ、今のイシュトハンは連絡が取れず、反逆の可能性を探られているところだ」


「それはどういうことなの?」



「君の仕業じゃないのか!?」


急にフリードが大声を出すから身体がびっくりする。
仕業も何も連絡をしてこなかったのは寧ろそっちの方だろう。
それを反逆だなんて…
確かに、イシュトハン家は武力にも魔力にも優れているし、独立を宣言したって広大な土地を持っているし上手くいくことだろう。
しかし領主であるヒューベルトは、あまり魔法が得意ではないし、おっとりとした性格。
私がフリードと一戦交えて独立をせがんだって、即断は出来ないだろう。



「私が何をしたって言うんですか。プロムへの誘いを今か今かと待ち侘びていたのに、学園が休みになっても手紙の一つも寄越さなかったのはフリードでしょうが。そうやって脅して、無理矢理結婚に同意させるつもりなのかしら?」



「僕は君をプロムに誘っているし、ドレスも送っているよ。王家が気付いたのは2週間前だが、僕と婚約したあたりから連絡が取れているものはいないようだ。陛下は万が一を考え、影を送り込んでいる」



「プロムに誘っている?影を送り込んでい…る?」



透視の話は侍女や執事たちの前ではしないが、どこかで見られているとしたら、それは恐ろしいことだ。
しかもプロムにも誘っているだなんてサリーをプロムに誘っておいて何を言っているんだ。
到底信じることは出来ない。



「僕とはプロムに参加したくないのだと思っていたが、違うならいい。しかしその疑われている中のこの侵入は、君だけなら誤魔化せたかもしれないが、女も侵入したのだから問題は大きい。そう簡単にクロエも許されないよ」



「あら、フリードの浮気相手なのではなかったのですか?反逆の疑いをかけてどうなさるつもりで?」




自分が許されるとは思ってはいないが、貴族の都合で巻き込んだ平民を売るような真似は絶対にしない。
脅しに屈するつもりもないし、この茶番には眩暈すらしてくる。
イシュトハンに反逆の疑いを掛けるなんてさすがに許容できることではない。



「クロエ、正直に言ってくれなければ君を庇うことは出来ない。君の転移魔法も僕の解析魔法で転移先は分かる。君がここから何処に彼女を転送したのかは、時間はかかるが分かることだ。結界の外へ転送させていても、城内へ転送させていても問題が大きすぎる」




「庇っていただかなくても結構ですわ。罪に問われると言うのなら、私の元へ婿に入ることは出来ない。私にはメリットしかありませんわ」



肩に触れている髪を背中に流しながらしっかりとフリードの目を見る。
フリードの思惑通りに話が進むと思ってもらっては困る。



「そうか。それは仕方ない。まぁ連絡が取れないことは影からも連絡があれば分かることだ。陛下と話してくる。朝食がそのうち来るから君はこの部屋から出ないように」



転移出来る者に拘束しても無駄なこと。
他人の魔力を縛り付けることも出来ないのだから、転移魔法が使えないようにするなら結界で覆うとか…結界!?


これは思っているよりも大事かもしれない。
ブワッと全身に鳥肌が立つ。
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