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liberty
まだ見ぬ明日
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意気揚々とフリードは部屋から出たが、上半身はボロボロのシャツ一枚であり、その格好でお姫様抱っこされていたクロエは居た堪れなくなり、早々に役所内に転移した。
「そんなに魔力を使っていたらダメだろう?」
「取り敢えず降ろして。降ろさないなら私、このまま治療は受けないわ」
ぷいっとそっぽを向けば、ゆっくりと足が地面についた。
「僕のお嫁さんが怪我しているんだから心配するのは当たり前だろう?」
「私が怪我しているのは手で、足ではありません。それに、さっきのは脅されて結婚するって言わされただけだからお嫁さんではありません!」
「やっぱりその子の父親がいいのか?」
足早に治療所へと駆け出すと、フリードはおずおずと後ろをついて来て聞き捨てならない言葉を発したので、グルリと踵を返して口に拘束魔法をかけてあげた。
縫い合わせたように閉じた唇を見て、やはり魔法は素晴らしいものだと確信する。
この失礼千万な男はこの後じっくりと料理してくれよう。
この男に近付かないことが勝利への近道だと既に頭は覚えている。
結婚?そんなのやっぱりする必要なんてない!
「フリードはここでおとなしく待っていらしてね」
待合室の壁に両腕を縫い付けると、迎えてくれた治癒士の後ろを追って治療室へと入る。
うーうーと唸る声が煩く聞こえていたが、暫くすると耳も慣れた。
「皮膚が再生するまで少し時間がかかりますよ」
小さな街の治癒士なだけあって、あまり魔力は多くないようで、3人で治癒をしていくという。
自分で付けた傷を癒してもらうのに後ろめたさがあるので、回復魔法はそのままかけたままにしておくことにした。
少しでも彼らの負担が減りますようにと願うばかりだ。
治療をしてもらっている間、許可を得てフィッシュサンドを頬張る。
いくら食べても魔力は不足しているし回復魔法の魔力消費の多さを改めて感じる。
結婚はしたくはないが、フリードと結婚することは既定路線となってしまった。
イシュトハンはこのままクラーク領に続いて王国を出るだろうし、そうなると王国としてもフリードを婿入りさせることで忠誠を示したいはずだ。
国王がフロージアとなったことで、女王となるというステラと友好関係を築いていくことの難しさは流石に理解しているはず。
ステラもフリードが婿入りする事を望んでいると考えるべきで、この結婚は歴史小説の中にあるような典型的な政略結婚となったわけだ。
フリードが人質として婿入りすることは了承しても、嬉々として受け入れることが出来ないのは、彼が愛を謳っているからに他ならない。
そんなものを引き合いに出すから逃げ出したくて仕方がないのだ。
確かに彼に惹かれていたことがあるのは事実なのだが、今彼に惹かれているかと言えばどうだろうか。
幼馴染としての情はあるが、それはフロージアに対して持っているものとそう大きくは変わらない。
この3年口を聞くこともなく、その間に当たり前のように彼は過去の男に成り下がっていた。
一度皺くちゃにした恋を引き伸ばして見たところで、そう簡単に真っ新な恋に戻ることはないだろう。
彼を愛してはいない。
その事実の上で愛を展開しようとしても心が拒否してしまうのだ。
彼の言う愛が嘘ならいいと思っている。
きらきらと輝いていた心を打ち砕かれたあの日からの3年で一つ一つ恋のかけらを埋めていった自分を否定するような愛を認めたくないのだ。
何故今になってあの時欲しかった愛を囁くのか、何故愛を囁くのにこの半年間捨て置いたのか。
3年前の恋の残像はまだ感じることができる。
だけど、それは今感じている感情ではないのだ。
こんな気持ちのまま結婚なんてしたくはない。
これはただの政略だと言い聞かせて全ての矛盾を嘘で片付けてしまいたい。
鬱屈とした暗闇の中へ沈み込むようにそのまま意識は落ちていった。
「そんなに魔力を使っていたらダメだろう?」
「取り敢えず降ろして。降ろさないなら私、このまま治療は受けないわ」
ぷいっとそっぽを向けば、ゆっくりと足が地面についた。
「僕のお嫁さんが怪我しているんだから心配するのは当たり前だろう?」
「私が怪我しているのは手で、足ではありません。それに、さっきのは脅されて結婚するって言わされただけだからお嫁さんではありません!」
「やっぱりその子の父親がいいのか?」
足早に治療所へと駆け出すと、フリードはおずおずと後ろをついて来て聞き捨てならない言葉を発したので、グルリと踵を返して口に拘束魔法をかけてあげた。
縫い合わせたように閉じた唇を見て、やはり魔法は素晴らしいものだと確信する。
この失礼千万な男はこの後じっくりと料理してくれよう。
この男に近付かないことが勝利への近道だと既に頭は覚えている。
結婚?そんなのやっぱりする必要なんてない!
「フリードはここでおとなしく待っていらしてね」
待合室の壁に両腕を縫い付けると、迎えてくれた治癒士の後ろを追って治療室へと入る。
うーうーと唸る声が煩く聞こえていたが、暫くすると耳も慣れた。
「皮膚が再生するまで少し時間がかかりますよ」
小さな街の治癒士なだけあって、あまり魔力は多くないようで、3人で治癒をしていくという。
自分で付けた傷を癒してもらうのに後ろめたさがあるので、回復魔法はそのままかけたままにしておくことにした。
少しでも彼らの負担が減りますようにと願うばかりだ。
治療をしてもらっている間、許可を得てフィッシュサンドを頬張る。
いくら食べても魔力は不足しているし回復魔法の魔力消費の多さを改めて感じる。
結婚はしたくはないが、フリードと結婚することは既定路線となってしまった。
イシュトハンはこのままクラーク領に続いて王国を出るだろうし、そうなると王国としてもフリードを婿入りさせることで忠誠を示したいはずだ。
国王がフロージアとなったことで、女王となるというステラと友好関係を築いていくことの難しさは流石に理解しているはず。
ステラもフリードが婿入りする事を望んでいると考えるべきで、この結婚は歴史小説の中にあるような典型的な政略結婚となったわけだ。
フリードが人質として婿入りすることは了承しても、嬉々として受け入れることが出来ないのは、彼が愛を謳っているからに他ならない。
そんなものを引き合いに出すから逃げ出したくて仕方がないのだ。
確かに彼に惹かれていたことがあるのは事実なのだが、今彼に惹かれているかと言えばどうだろうか。
幼馴染としての情はあるが、それはフロージアに対して持っているものとそう大きくは変わらない。
この3年口を聞くこともなく、その間に当たり前のように彼は過去の男に成り下がっていた。
一度皺くちゃにした恋を引き伸ばして見たところで、そう簡単に真っ新な恋に戻ることはないだろう。
彼を愛してはいない。
その事実の上で愛を展開しようとしても心が拒否してしまうのだ。
彼の言う愛が嘘ならいいと思っている。
きらきらと輝いていた心を打ち砕かれたあの日からの3年で一つ一つ恋のかけらを埋めていった自分を否定するような愛を認めたくないのだ。
何故今になってあの時欲しかった愛を囁くのか、何故愛を囁くのにこの半年間捨て置いたのか。
3年前の恋の残像はまだ感じることができる。
だけど、それは今感じている感情ではないのだ。
こんな気持ちのまま結婚なんてしたくはない。
これはただの政略だと言い聞かせて全ての矛盾を嘘で片付けてしまいたい。
鬱屈とした暗闇の中へ沈み込むようにそのまま意識は落ちていった。
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