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liberty
メタルパニック
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「もういいから、お願いだから帰らせて…」
身体を圧迫する重みに目が覚めると、全身重厚な防具に包まれていた。
こんなものを着て戦える人がいるわけがない。腕が持ち上がらないほど重いのだから、もし剣を持っていたとしても振り下ろすことは出来ない。
もし敵に対峙した時はこの防着にくるまって亀のように手足を引っ込めるしかないだろう。
「クロエ様、魔力を回復させるにはもう少し時間がかかります故、次期当主という自覚があるのでしたら我慢しなされ」
治癒士ならオーラで身元がバレるだろうとはうっすら思っていたが、気がつけばこの治療所の主だと思われる爺が付きっきりで見張っているし、無駄に重い防具を全身につけられてまるで拘束されているようだし、踏んだり蹴ったりだ。
この爺どこかで顔を見たことがあるが、どこかの治療所で会っただろうか。
「もう充分回復しましたから!」
「まだ治療所の基準を満たしていませんのでな。魔力を使えばすぐに魔力不足に陥りますぞ」
一体いつから治療所が魔力補給所を兼ね備えるようになったんだ。
しかも身につけさせられているのは、魔石を練り込んだ鋼を何重にも重ねて作られた魔法騎士用の、しかもごく一部の筋肉ムキムキのパワー系魔法騎士用の特大サイズの防具。
どこから持ってきたのか知らないが、魔力はありがたくいただいてしまったので、相当高額な金額を払わなければ割りに合わなくなってくる。
魔力供給に防具を使うなんて贅沢をしている貴族は、この国でも私くらいしかいないだろう。
本来魔力を流し込んで防壁を貼る防具から、魔力を吸い取っているこの暴挙には笑うしかない。
魔力保持力が多く、太いパイプのような出力を使えるからこそ、魔石から流れ込んでくる魔力も多く、結果的に魔力を補給してしまっているのだ。
「後どのくらい?」
「後1時間は。殿下の拘束魔法が解かれればその半分で済むかもしれませんな」
「拘束を解くくらいならもう1時間寝ているわ」
ホッホッと高笑いをした爺を尻目に目を閉じると、いくらでも寝られそうだ。
防具のおかげで手首は見えないが、治癒魔法をかけられていないのならば、既に傷口は塞がったのだろう。
回復魔法を解いてあのお邪魔虫により奪われた睡眠時間を取り返すんだ。
「殿下が邪魔ならこちらでしばらくお預かりしてもいいのですが?」
聞き捨てならない言葉で目を開けると、意外と近くに顔があって驚く。
護衛のついていない王子を他人に任せることは出来ないし、自領とはいえ、何かあっては責任問題となる可能性がある。
「そんなこと出来るわけがないわ」
「ワシなら大丈夫じゃろうて。何か起ころうはずもないわい」
「確かに爺は魔力も多いけど、フリードリヒ殿下と同じ位なものでしょう。それに爺にそんな事をする理由はないじゃない」
治癒士の中でも魔力量は多く見えるフリードと同等かそれ以上あるだろう。
しかし、何故こんな提案をしてくるのかと考えると、王子をそのまま拐かしたいとか、暗殺とか、そういう悪いことしか思い浮かばない。
「そうじゃのぅ…理由を作りたいのなら作ってやらんこともないぞ。サリスと会わせるのが条件となりますがな」
「母をご存知なんですか!?」
元々魔法省に属していた母だから、友人はフリードとフロージアの母である前王妃位しかいない。
社交シーズンにも辺境を守るが故に、王妃様とのお茶会が終われば母はそそくさとイシュトハンへ帰るのが常である。
それに、友人であれば何かしら話題に上がるはずなのだが、治癒士の爺の話は聞いたこともない。
知り合いであればイシュトハン家お抱えの治癒士となっていてもおかしくはない。
サリスと呼び捨てにする位の仲ならば尚のことだ。
「サリスはワシのたった1人の弟子だったんじゃがな、結婚して逃げてしまったのじゃよ」
「弟子?逃げた!?」
魔術師特有の非情さは持ち合わせているとしても、穏やかでいて気の強い母が何かから逃げる姿は想像出来なかった。
それに、誰かの弟子だったというのはそれこそ聞いたことがない。
「そうじゃ?無敗の魔法士なんて呼ばれておったが、そもそも魔力が多いだけの小娘だったのをそこまで育てたのはワシじゃからな」
「まさか爺は大賢人様!?」
「クロエ様は気付いておられなかったのですな。ワシもまだまだじゃなぁ」
サリスが筆頭魔術師になる前、50年もの間筆頭魔術師の座に居座り、大賢人と呼ばれた王国でたった1人の魔術師。
弟子だったとは聞いたことはないが、大賢人様の悪口だけはよく聞かされていた。
どこかで見たことがあると思ってはいたが、近年の上級魔法書の著者は大賢人様なのだから、本に描かれている肖像画で顔は知っていたのだ。
肖像画より幾分年老いているし、豪奢な羽織を着た気難しそうなイメージだったので、治癒士の制服を着るとだいぶ印象も変わる。
「まぁでも大賢人様なら、フリードリヒ殿下のことも任せられますね…」
少し考えればすぐに答えは出た。
大賢人様が治療室を出ると直ぐにフリードの拘束魔法を解いて、魔力回復に専念する。
フリードの声が一瞬聞こえたが、部屋に乱入してくることはなかった。
母が大賢人様に会いたいとは思わないが、一度位なら会ってくれるだろう。
大人しく防具に包まれて寝ていると、暫くして最初に治療をしてくれた治癒士達が来て防具を外していった。
「大賢人様は陽が沈んだらすぐに寝てしまいますので、それまでにお戻りください」
治癒士達が大賢人様と分かっていたのだと驚きながらも、時間が惜しかったクロエはすぐさま借りているフラットへと戻っていった。
身体を圧迫する重みに目が覚めると、全身重厚な防具に包まれていた。
こんなものを着て戦える人がいるわけがない。腕が持ち上がらないほど重いのだから、もし剣を持っていたとしても振り下ろすことは出来ない。
もし敵に対峙した時はこの防着にくるまって亀のように手足を引っ込めるしかないだろう。
「クロエ様、魔力を回復させるにはもう少し時間がかかります故、次期当主という自覚があるのでしたら我慢しなされ」
治癒士ならオーラで身元がバレるだろうとはうっすら思っていたが、気がつけばこの治療所の主だと思われる爺が付きっきりで見張っているし、無駄に重い防具を全身につけられてまるで拘束されているようだし、踏んだり蹴ったりだ。
この爺どこかで顔を見たことがあるが、どこかの治療所で会っただろうか。
「もう充分回復しましたから!」
「まだ治療所の基準を満たしていませんのでな。魔力を使えばすぐに魔力不足に陥りますぞ」
一体いつから治療所が魔力補給所を兼ね備えるようになったんだ。
しかも身につけさせられているのは、魔石を練り込んだ鋼を何重にも重ねて作られた魔法騎士用の、しかもごく一部の筋肉ムキムキのパワー系魔法騎士用の特大サイズの防具。
どこから持ってきたのか知らないが、魔力はありがたくいただいてしまったので、相当高額な金額を払わなければ割りに合わなくなってくる。
魔力供給に防具を使うなんて贅沢をしている貴族は、この国でも私くらいしかいないだろう。
本来魔力を流し込んで防壁を貼る防具から、魔力を吸い取っているこの暴挙には笑うしかない。
魔力保持力が多く、太いパイプのような出力を使えるからこそ、魔石から流れ込んでくる魔力も多く、結果的に魔力を補給してしまっているのだ。
「後どのくらい?」
「後1時間は。殿下の拘束魔法が解かれればその半分で済むかもしれませんな」
「拘束を解くくらいならもう1時間寝ているわ」
ホッホッと高笑いをした爺を尻目に目を閉じると、いくらでも寝られそうだ。
防具のおかげで手首は見えないが、治癒魔法をかけられていないのならば、既に傷口は塞がったのだろう。
回復魔法を解いてあのお邪魔虫により奪われた睡眠時間を取り返すんだ。
「殿下が邪魔ならこちらでしばらくお預かりしてもいいのですが?」
聞き捨てならない言葉で目を開けると、意外と近くに顔があって驚く。
護衛のついていない王子を他人に任せることは出来ないし、自領とはいえ、何かあっては責任問題となる可能性がある。
「そんなこと出来るわけがないわ」
「ワシなら大丈夫じゃろうて。何か起ころうはずもないわい」
「確かに爺は魔力も多いけど、フリードリヒ殿下と同じ位なものでしょう。それに爺にそんな事をする理由はないじゃない」
治癒士の中でも魔力量は多く見えるフリードと同等かそれ以上あるだろう。
しかし、何故こんな提案をしてくるのかと考えると、王子をそのまま拐かしたいとか、暗殺とか、そういう悪いことしか思い浮かばない。
「そうじゃのぅ…理由を作りたいのなら作ってやらんこともないぞ。サリスと会わせるのが条件となりますがな」
「母をご存知なんですか!?」
元々魔法省に属していた母だから、友人はフリードとフロージアの母である前王妃位しかいない。
社交シーズンにも辺境を守るが故に、王妃様とのお茶会が終われば母はそそくさとイシュトハンへ帰るのが常である。
それに、友人であれば何かしら話題に上がるはずなのだが、治癒士の爺の話は聞いたこともない。
知り合いであればイシュトハン家お抱えの治癒士となっていてもおかしくはない。
サリスと呼び捨てにする位の仲ならば尚のことだ。
「サリスはワシのたった1人の弟子だったんじゃがな、結婚して逃げてしまったのじゃよ」
「弟子?逃げた!?」
魔術師特有の非情さは持ち合わせているとしても、穏やかでいて気の強い母が何かから逃げる姿は想像出来なかった。
それに、誰かの弟子だったというのはそれこそ聞いたことがない。
「そうじゃ?無敗の魔法士なんて呼ばれておったが、そもそも魔力が多いだけの小娘だったのをそこまで育てたのはワシじゃからな」
「まさか爺は大賢人様!?」
「クロエ様は気付いておられなかったのですな。ワシもまだまだじゃなぁ」
サリスが筆頭魔術師になる前、50年もの間筆頭魔術師の座に居座り、大賢人と呼ばれた王国でたった1人の魔術師。
弟子だったとは聞いたことはないが、大賢人様の悪口だけはよく聞かされていた。
どこかで見たことがあると思ってはいたが、近年の上級魔法書の著者は大賢人様なのだから、本に描かれている肖像画で顔は知っていたのだ。
肖像画より幾分年老いているし、豪奢な羽織を着た気難しそうなイメージだったので、治癒士の制服を着るとだいぶ印象も変わる。
「まぁでも大賢人様なら、フリードリヒ殿下のことも任せられますね…」
少し考えればすぐに答えは出た。
大賢人様が治療室を出ると直ぐにフリードの拘束魔法を解いて、魔力回復に専念する。
フリードの声が一瞬聞こえたが、部屋に乱入してくることはなかった。
母が大賢人様に会いたいとは思わないが、一度位なら会ってくれるだろう。
大人しく防具に包まれて寝ていると、暫くして最初に治療をしてくれた治癒士達が来て防具を外していった。
「大賢人様は陽が沈んだらすぐに寝てしまいますので、それまでにお戻りください」
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