婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜

佐原香奈

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liberty

溜め込んだプレゼント

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「まぁ!お嬢様、これはプロムのドレスですか?」


給仕のためのカートを押して入って来たジェシーが開口一番に言い放った。


「ジェシー、お茶を入れたら数人片付けを手伝ってくれる者を探して来てくれない?」

「それなら既にご用意出来てます」


ジェシーはカートをテーブルの横に留めると、扉を再び開けた。
そこにはワラワラと集まった使用人達がいて、ワァキャアと騒ぎ立てていた。



「騒がしくするものは追い出すわよ」


贈り物を開封するという話を聞いて、ずっと使用人達の間では何が入っているのかが話題になっていたらしく、覗きに来たらしい。
使用人達はすぐに行儀良く部屋の隅に控えると、目を輝かせて大人しく指示を待っていた。
透視魔法のこともあるが、イシュトハン家は使用人とも一定の距離を置いている。
その為、このように群がることは初めてのことだった。


「お嬢様、これで片付けはすぐに終わりますわね!殿下のお世話を押し付けられたストレスをこの場で晴らさせていただきます!」


「分かったわ…とりあえず箱に入っているものは取り出して、中のメッセージカードの日付順に並べて。手紙も同様、日付順にお願いね」


「かしこまりました」


正しく礼を執ると、使用人達は次々と箱を開けていった。
自ら箱を開けるなんて事はそう経験することはないだろう。
これは私の数ヶ月の喜びを分け与えているのと一緒だ。
転送装置を使えなくしたのは自分だ。
そしてフリードも本当に私のことが好きだとしたら、箱を開けて喜ぶ顔を思っていたのかもしれない。
そうは思うが、今は事実確認の方が優先された。


「お嬢様、これは2年前の日付です」

「え!?」

「クロエ様、これは3年前ですが」

「ええ!?」


確認するとリボンや箱が日焼けしているものは、メッセージカードの日付も古いようだった。



「その箱達は、フリードリヒ殿下が運ばれて来たものじゃないですか?」

「あぁ、そういえばその箱は見覚えがあります。確かに殿下が運ばれたものです」


「と、とりあえず古いものから順番でというのは変わりません。壁際に順番に並べて」


3年前の日付だというメッセージカードには、私の誕生日が記されていた。


『きみがすきだ』


これは今になって3年前の告白を受けているということだろうか。
3年前の自分に見せてやりたい。
諦めた初恋の思い出を仕舞い込み、クロエは再び箱を開けていった。



「ありがとう。みんな下がっていいわよ。この部屋には誰も入れないように言っておいて」

「かしこまりました。明日のプロムの用意はいかがいたしましょうか?」

「プロムはあるのかしら?」

「旦那様からは用意しておくようにと申しつかっておりますが」

「そう。あるなら参加するから確認しておいてもらえるかしら」



こんな騒動の中プロムがあるとは考えてもいなかった。
あれだけ参加したかったプロムも、義務のように感じてしまって出来れば出たくはない。
しかしイシュトハンと王家との繋がりは見せつけなければいけないだろう。



「畏まりました。久しぶりに今夜は腕が鳴りますわ!」

「え、明日の朝でいいでしょう?」

「まさか!見た限り、髪もパサついておられますし、メイクも崩れているから一層肌もボロボロに見えます。磨き上げるのは今からやったって時間が足りないくらいです」

「今日は寝不足なんだけどなぁ…」


先週の自分なら喜んで磨き上げられていたと思うのに、プロムがただの政治的な道具のように感じて残念な気持ちになる。


「お嬢様は寝てていただいて構いません。お身体さえ差し出していただければいいのですから」

ゾッとするような一言が背中にのしかかって来たので、すぐさまジェシーも部屋から追い出した。


そこからは事実確認に明け暮れた。


3年前に送られて来たのは赤い花が閉じ込められた琥珀のネックレス、2年前はオレンジガーネットのイヤリング、去年はインペリアルトパーズの指輪、そして今年はイエローダイヤモンドのティアラ。


幼い頃からフリードからの贈り物は決まって黄色ともオレンジともいえる淡い蜂蜜色のものばかりだ。
中でも琥珀は蜂蜜を固めたみたいで、フリードからもらえる琥珀は特別に好きだった。
学園に入ってから琥珀よりも高価な物を用意してくれるようになったのか、宝石が並ぶその空間が嫌に眩しく見えた。

それでもメッセージカードを見れば納得がいく。
渡せないプレゼントだからこそ、彼はメッセージカードに愛を書き連ねているのだと理解できた。
そして年齢を重ねた私の好みがわからなくなり、高価な宝石を選んだのではないだろうか。


私が好きだった男はこんなに女々しい男だったのだと見せつけられているかのようだ。


それでも愛しているのだと言ったのは事実なのだろう。
婚約してからのこの半年の間、確かに彼は甘い手紙を書き連ねている。
読まれなかった期間を重ねたように手紙はとても多く届いていた。


部屋の中のプレゼントや手紙は、婚約を祝う周辺領地からのプレゼントもあった。
お礼の手紙を書くだけにとどめては、半年も経つと失礼すぎる。
この先の多忙を考えると涙が出そうだった。
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