婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜

佐原香奈

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Promenade

弊害

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当主であるダンの兄も、第二王子の殿下とイシュトハンの次期当主が証人となっている結婚を反対することは出来ないだろう。
ダンならきちんと家のことも考えた上で結婚を決めたのだろうが、ささやかながらのプレゼントの気持ちだった。
お祝い事に影を作ることは良くない。


フリードはきちんとウラリーの気持ちを確かめ、さらにキリアンにも2人の結婚について話した。


「サインするのはウェルズをイシュトハン邸で護衛として雇うことが条件だ」

「フリードリヒ殿下、それは私に対しての条件じゃないですか…私は賛成しかねます」

「何故だ」

「何故だじゃありません。王国の騎士なら士伯が賜れますが、イシュトハンの騎士団は実力こそ王国騎士団と変わりませんが、身分は平民。断固拒否致します。彼は魔法省に入ってもおかしくない魔法使いです」


ダンを平民のままにするなんて到底看過できない。
王家の影としての任務で平民に紛れているのではなく、平民となれと言っているのだ。



「クロエ、詳しい話は私からは出来ない。ウェルズ、守秘義務はこの先も負うことになる。待遇は今までと変わらないが、細かいことは調整後伝える。いいか?」

「はい」

「ならば問題ない」

「…問題あるに決まってるでしょ!」


フリードがサインを終えたところで、クロエは立ち上がった。
サインを邪魔する必要は無かったからだ。


「彼は1ヶ月、私との契約でウラリーの護衛。今は私の契約者よ。勝手に話をまとめないで」


「クロエ、不満ならステラ女王と話をしろ。この場で決まる事ではない」


つい忘れてしまっていた。イシュトハンは王国を出るのだと。
今までとは前提から変わってくるのだ。
私に正体がバレている以上、王国に置いておくと不穏分子になりかねない。
浅はかなのは自分だった。


「そうでした。先程のプロポーズの答えがまだだったわね。フリードリヒ殿下、あなたを貰い受けるわ」


それは自分が思っていた以上に冷めた声だった。
自分でも驚いた程、フリードを拒絶していたようだ。


「クロエ、これまですまなかった。生涯君だけを愛し、添い遂げると誓う。君が見る世界の片隅に僕を置いて欲しい」


慎ましく膝の上に置かれていた私の手の上に手を重ねて、縋り付くでもなく、揶揄うように押し付けるでもない。
神に祈るように、または懺悔でもするかのように彼は跪いていた。
この光景を望んだわけではない。
もっとキラキラとした目の前が眩しくなるようなそんなものだと思っていた。
プロポーズされたら幸せで、世界が2人だけのものになる瞬間なのだと思っていた。


現実というのは夢のように上手くいかないものだ。
それでももう少しタイミングが違えばと、どうしようもない事が頭をよぎる。


「王国とクラーク家との架け橋となれるよう共に精進致しましょう」


その後は、さぁさぁと急かしながら2人には2枚共にサインをしてもらった。
キリアンは子供だから証人の欄へサインは出来ないが、欄外に小さく名前を記載した。


「4人の幸せを願います」


キリアンのヘラリとした笑顔に、強く胸を打ち砕かれてしまった。
結婚は夢のようにはいかないが、それでもやはり寄り添う努力をしていくべきなのだろう。


「私たちの証人、キリアンに誓って」


何を誓うとも言わなかった。
それでも、後ろに立っていたフリードの手が肩に触れたので、想いは伝わっただろう。


「さて、ウラリーとキリアンを連れてキャンスランへと紹介しに行ってきなさい。そこからゆっくり旅行をしながら帰って来ればいいわ。その間にマジューは何とかしておく。今なら行きの旅行代はタダだけど、どうする?」

「!?僕、すぐに準備してくる!」

「わ、私も!」


キリアンとウラリーは競うように部屋を出ていった。
ダンは1人、動くこともせず2人の背中を見送っていた。

「ダンは準備しなくてもいいの?」

「はい。自分の家に帰るのに準備も何も必要ありません」

「そう。魔獣の件も魔術師が朝一番できっと対応しているわ。心配せず楽しんできてね」

「いや、この辺りに転移出来る魔術師はいない。早くて明日の到着だろう。今思えば、家から出ないように通達が出されていないのもおかしい」

「え?この間3人の魔術師を見たわ。私を探しに放った人達が既にいるはずよ」

言われてみれば確かにおかしい。
母が転移を出来ること隠していたとしても、魔獣が出たとなれば真っ先に飛んできているに違いない。
プロムを優先したわけではない?


「この街に魔術師は放っていない」


途端に血が引いていくのを感じ、フリードを振り返った。


「大丈夫だ」


肩に置かれた手の温かさと、動揺すら見えない落ち着いた視線が、揺れる心を鎮めるようだった。


ダンを一目視界に入れると、ふぅーと息を吐き出して目を閉じた。
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