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第十五章 吐露
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しおりを挟む「俺もだ。馨には幸せになってもらいたいし、幸せにしたい」
「だったら――」
「でも、馨がそれを望まなければ意味がない」
平内も馨が秘密を抱えていることはわかっている。親友にも婚約者にも言えない秘密。
元恋人だけが知っている秘密。
それが馨の幸せを妨げている。
俺の言葉を理解したようで、平内はため息をついてコーヒーをすすった。
「『何も聞かずにいてやって欲しい』って言われました」
「誰に?」
「高津さんに」
『全部捨てて、やり直さないか?』
あの時の声が、耳に残っている。
「二人が別れたって聞いて、馨に内緒で会いに行ったんです。高津さんは『俺は立波リゾートの社長に何てなれない』『俺といると馨がお義父さんの死を思い出してしまう』って言ってました。けど、おかしいんです。確かに、高津さんに警察官をやめて立波リゾートの社長になるなんて無理だったかもしれないし、人の死に目なんて思い出していいものじゃないけど、それが高津さんと別れるほどのことだったとは思えない」
「他に理由があると?」
「それも聞きました。けど、高津さんは『秘密を共有することが救いになるとは限らない』って」
自分は馨の全てを知っていると言わんばかりの台詞が、気に障る。
「私が秘密を知らないことで、馨が私といて秘密を忘れられるのならと思っていました。けど、黛のしつこさや部長との結婚を考えると、このまま何も聞かないことが馨の為なのかがわからなくて……」
平内の考えも一理あるだろう。
他人に知られたくないことだから、秘密なんだ。それを無理に聞き出されることを望む人間はいない。
そして、馨の場合は、秘密を共有したから高津と別れることになった。
俺が秘密を知っても、別れるハメになるのだろうか……?
『馨の共犯者になったことを後悔してない』
高津は言った。
俺が黛から立波を守るための共犯者なら、高津は――?
「俺はともかく、平内にも言えないのならよっぽどのことなんだろう。何も聞かないでやってくれ」
納得がいかないのは表情でわかった。けれど、平内は頷いた。
俺は足元に置いてあった鞄から封筒を取り出した。
「それから、これを――」
平内は封筒の中身を見て驚き、呆れ顔で俺を見て、それから笑った。
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