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愛は変態を助長させる
48:早めに寝るからいいよね、っと言われた
しおりを挟むご飯を食べてアパートに戻り
僕たちは交代でお風呂に入る。
このアパートのお風呂は小さいけれど
お湯がすぐに溜まるのが利点だと思う。
真翔さんに先にお風呂に入ってもらって
僕は真翔さんがお風呂上りに
少しだけ飲みたいと言って
買ったワインを冷蔵庫に入れておく。
真翔さん曰く、
安いワインは冷やしたり
氷を入れたり、ジュースで
割って飲んでも美味しいんだって。
それって家で作る
カクテルみたいだよね?
僕はそういうことも
したことが無いので楽しくなる。
グラスを準備して、
氷もちゃんと確認して。
それから真翔さんの
パジャマも用意した。
真翔さんはこの部屋に
泊まることがあるから
真翔さんの服もパジャマも
歯ブラシだってある。
そう言えば真翔さんは
結婚したら一緒にこの
アパートに住んでもいい、
なんて言ってたっけ。
少し狭いと思うのだけど、
真翔さんがそれでいいなら
僕もそれでいいと思う。
このアパートは
悠子ちゃんがこの世界で
生きていた証だから。
……もう僕が、悠子ちゃんなのだけれど。
そう言えば、僕のアパートとかは
どうなったんだろうか。
ここまで過ごして
僕はようやく、僕の……勇として
生きて生活していた場所は
どうなったのかと思い至った。
今更だけど、
施設に迷惑がかかってないか
心配になってくる。
真翔さんがお風呂から
上がって来たので、
僕は笑顔を作って自分も
お風呂に入ったけれど。
僕の住んでいたいアパートの
保証人は施設長だった。
迷惑をかけてないだろうか。
数か月だったけれど、
僕が働いた給料はすべて
使わずに銀行に預けているし
そのお金を使って貰えれば……
「悠子ちゃん、大丈夫?」
「あ、はい!」
しまった。
のんびりお風呂に浸かり過ぎた。
心配を掛けてしまったらしい。
僕が慌ててお風呂から出ると、
真翔さんが僕を待っていてくれた。
「いつもよりも
出てくるのが遅かったから
心配で。
ごめんね、ゆっくり
浸かりたかった?」
優しい言葉に僕は首を振る。
どうしよう。
勇のこと、言ってもいいかな?
でも明日は旅行だし、
相談するのは今じゃないよね。
真翔さんは僕の手を引き、
小さなコタツに座らせてくれる。
体をぴったり寄せて、
僕が準備していたワインに
氷とりんごジュースを
混ぜて渡してくれた。
「甘くて飲みやすいよ」
「ありがとうございます」
うん。
甘くて美味しい。
冷たくてジュースみたい。
ゴクゴクと飲んでしまうと
真翔さんが僕の頭を撫でる。
「何か心配?
綾子さんのこと?」
って聞かれて、
僕は慌てて違います、って言った。
綾子さんは関係ない。
「綾子さんは良い人ですし、
緊張はすると思うけれど
大丈夫です」
通信アプリでやりとりを
しているせいか、
苦手意識も無くなっている。
「ただ、その……」
僕は真翔さんを見上げた。
「旅行が終わったら……
僕の話、聞いてもらっていいですか?」
僕は世間知らずで、
子どもで、一人では何もできない。
でもきっと、
真翔さんなら、助けてくれる。
そう思って真翔さんを見つめると、
そっと唇が重なった。
今、キスする場面だっただろうか。
僕が首を傾げると
真翔さんは嬉しそうに言う。
「悠子ちゃんが俺のことを
素直に頼ってきてくれたことが
嬉しくて。
急にごめんね」
前は俺に遠慮ばかりしてたから。
ってそう言われて
僕はそうかも、って思った。
でも僕が頼れるのは
真翔さんしかいないし、
真翔さんなら僕を助けてくれると思う。
僕がそう言うと、
真翔さんは僕をぎゅーっと
抱きしめて来た。
「やっぱりダメだ」
「ダメ?」
「うん。我慢するのはダメだ」
僕は一瞬、考えた。
僕が真翔さんを頼るのと
真翔さんが何かを我慢するのと
どう関係するのだろう。
いや、その前に。
「真翔さんは我慢してたんですか?」
「うん。頑張ってた」
そんな!
「僕は真翔さんに
我慢なんてして欲しくないです」
「ほんとに?」
「はい。
真翔さんは頑張っていて、
僕を助けてくれて。
僕は何をしたらいいですか?
僕も真翔さんの力になりたいです」
僕が必死で言うと、
真翔さんは僕の耳元で
「悠子ちゃんは可愛いなぁ」という。
その感想も変だと思う。
「じゃあ、今日は
早めに寝るからいいよね」
真翔さんはそう言って笑う。
でも何が
『じゃあ』なのか。
何故『早めに寝る』ことが
『いいよね』になるのか。
僕にはまったくわからない。
僕が全く理解できていないと
真翔さんはわかったのだろう。
僕の身体を離して
もう一度、ワインをグラスに注いでくれた。
「もう少し飲む?」
「は、い」
脈略が無い!
早めに寝るのはどうなった?
なぜ、今からワインを飲むことに?
でも渡されたワインは美味しくて。
さっきジュースで割ったのも
美味しかったけれど、
そのまま冷たいワインも美味しい。
僕がクピクピ飲んでいると、
真翔さんの視線を感じる。
そっと真翔さんを見ると
とても優しい顔をして僕を見ていた。
僕は恥ずかしくなって
さらにワインを飲む。
「可愛いなぁ。
明日、綾子さんに
独り占めされないように
頑張らないとな」
真翔さんは言いながら
僕の頬を撫でた。
僕は大きな手が気持ち良くて
頬を摺り寄せてしまう。
そんな僕から真翔さんは
グラスを取ると、
残っているワインを
すべて口に入れてしまった。
あ、って思ったら。
真翔さんの唇が強引に
僕の唇に重なった。
と、思ったら強引に
顎と頭の後ろを掴まれて
ぐいぐいと唇を押し当てられる。
苦しくて口を少し開けたら
そこからワインが入って来た。
さっき、真翔さんが
口に入れたワインだと
思ったけれど。
僕はそのまま飲み込んでしまう。
ワインをすべて飲み込んでも
真翔さんの舌は
僕の口の中をなぞるように動き、
舌が絡まった。
息苦しくて。
アルコールのせいか、
頭がぼーっとしてくる。
ようやく真翔さんのは
僕から離れて、
最後に、僕の唇を
ペロっと舐めた。
「明日の朝は早起きだけど、
今から寝たら大丈夫だよね」
僕は意味がよくわからなくて。
でも、もう一度真翔さんが
「ね?」というので、
よくわからないまま
僕は「はい」と答えてしまった。
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