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愛は変態を助長させる

50:念願の初旅行

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 翌朝僕は、早朝に目が覚めた。

真翔さんに抱かれて、
そのままコタツのそばで
眠ってしまったようだ。

真翔さんはまだ寝ていたので
僕はそっと起き上がり、
シャワーを浴びた。

真翔さんの精液が
僕の体内からシャワーのお湯と
一緒に流れ落ちるのを感じて
僕は振るり、と体を震わせる。

「僕……欲しいって思えた」

昨日のことを思い出し、
僕は思わず呟く。

僕は自分から何かを
欲しがることは
今までなかった。

求めても手に入らないから
無駄だと思っていたからだ。

唯一、姉のような
悠子ちゃんだけは違ったけれど。

悠子ちゃんは僕が何かを
欲しいと思う前に
僕を助けてくれたから
今までは僕が明確に
何かを欲しがる必要はなかったのだ。

けれど。

昨日の僕は、
真翔さんを欲した。

与えられる愛情に流されるのでも、
満足するでもない。

自分から、真翔さんを求めた。

欲しい、って。
手放したくないって、思った。

「僕も、いいかな?
何かを望んでも」

流されるように真翔さんに愛され
結婚するのではなくて。

僕が求めて、
僕が欲しがって、
動いて真翔さんとの
時間を手に入れたとしても。

僕は、赦されるだろうか。
悠子ちゃんを
犠牲にして手に入れた
この幸せを求め続けても。

手放したくないと
抗い、しがみついても。

僕はシャワーを浴びた後、
服を着替えてお弁当をつくる。

お出かけ用の服は
出かける直前に着るので
今は普段着のままだ。

先輩さんも綾子さんも
好きなものがわからないので
定番の卵焼きやハムサラダ。
小さなハンバーグに、
あまったひき肉で
甘辛いつくねも作る。

あとはアスパラベーコンと、
ジャガイモを小さく切って
油で揚げてみた。

綾子さんが和食も好きだと
言っていたから、
残ったジャガイモで
肉じゃがも作ってみる。

しっかり汁気を切って、
その間におにぎりを作ろう。

ご飯は昨夜のうちに
炊飯器のタイマーを
セットしておいたから
すでに炊き立てご飯が出来ている。

それを冷まして、
僕は一応、使い捨ての
ビニール手袋を付けてから
おにぎりを握った。

具はこんぶと、サケ。
カツオと、あとはふりかけだ。

海苔は食べる前に
巻くことができるように、
小袋の海苔を沢山かってある。

四人分だから
沢山作らなくっちゃ。

僕は張り切って
おにぎりを握る。

この日のために、
じつは大きめのお弁当箱を
購入しておいたのだ。

しかも、使い捨てのものを。

割り箸も、お手拭きも
紙皿も、必要そうなものは
ちゃんと準備している。

あとごみを捨てるための
袋もある。

お弁当を全部詰めて、
僕は持っていく物を確かめた。

うん。大丈夫だ。

よし、と頷いたとき、
真翔さんの声がする。

「悠子ちゃん?」

「おはようごさいます」

僕がコタツの方を見ると
真翔さんが寝ぼけ眼で
僕を見ていた。

「シャワー浴びてきてください。
朝ご飯、ありますよ」

「うん、ありがとう」

朝ご飯と言っても、
お弁当のおかずの残りと
お味噌汁だけだけど。

「ごめん、手伝うつもりだったのに」

真翔さんはシャワーを浴びて
キッチンに来ると
すぐに頭を下げる。

「いいえ、大丈夫です。
でも、とても重くて。

運ぶのを手伝ってもらえたら
嬉しいです」

僕が言うと、
真翔さんは任せて、と笑う。

それから二人で朝ご飯を食べて、
僕は酔い止めの薬を飲んだ。

長時間車に乗ったことが無いから
念のために買っておいたのだ。

僕がお弁当を持って行くと
言っておいたので、
お茶やお水などの飲み物は
先輩さんが準備してくれるらしい。

真翔さんの話を聞くと、
ホテルまでは車で数時間だけれど
途中で人気の道の駅があるので
そこで遊ぼうと誘われているらしい。

道の駅。

どんなところか想像もつかない。

道なのに、駅なんだ。

先輩さんは車なので
僕のアパートの近くまで
迎えに来てくれるらしいので、
僕たちは、待ち合わせ時間の
少し前まで、アパートでのんびりと
過ごすことができた。

僕は綾子さんに言われた通り、
体を締め付けない薄いピンクの
ワンピースを着た。

旅行は1泊だったけれど、
念のため3着は着替えを入れること!

と綾子さんに言われていたので、
薄い色のワンピースは
汚さないか不安だったけれど、
最悪着替えがあるので
なんとかなると信じたい。

僕たちがアパートを出て、
大通りに出ると
すぐに先輩さんの声がした。

「柊!」

声がした方を見ると、
物凄く……大きな黒い車があった。

高級車、だと思う。
きっと。
わかんないけど。

偏見かもしれないけれど、
ヤのつく自由業の人が
乗っていそうな車だ。

車の窓も、
透明ではなくて
うっすらと色が入っていて、
中の様子が見えない。

先輩さんが運転席の横に
立ってこちらを見ているから
逃げることはしないけれど。

もしこんな車が
一人で歩いている時に
横付けされたら
走って逃げる自信がある。

僕はつい、真翔さんの
腕を掴んでしまう。

真翔さんは重たいお弁当が
入った袋を全部持ってくれていたし、
自分の荷物もあったのに。

僕は気が弱くて
そんな真翔さんに
しがみついてしまうのだ。

先輩さんが僕の様子を見て
「おはよう、悠子ちゃん」と
言いながらそばに来てくれた。

「「おはようございます」」

二人で頭を下げると、
先輩さんは真翔さんから
お弁当を取り上げて

「こっち、荷物は全部
トランクに入れて」

と真っ黒な高級車のトランクを開ける。

トランクには先輩さんと
綾子さんに荷物だろう。

大きめの鞄が二つ入っていた。

「悠子、おはよう」

助手席の窓が開いて
綾子さんが顔を出す。

「おはようございます、綾子さん」

「お弁当、持って来たわね?」

「はい。作ってきました」

僕が返事をすると、
綾子さんは満足そうに頷いた。

「楽しみだわ。
さぁ、早く乗りなさい」

綾子さんに言われ、
先輩さんがトランクを閉めた。

そして「どうぞ」と
ドアを開けてくれる。

あまり車に乗らない僕でも、
ふかふかのシートに、
広い車内。

この車が高級車だと言うことは
一目でわかる。

だって、タクシーよりも
ずっと、ずっと広いのだから。

真翔さんも高級車に
驚いている様子だったけれど、
僕の手を引き、
隣に座らせてくれる。

「座った?
シートベルトを忘れないように。
じゃあ、出発」

先輩さんがそう言って。

僕はシートベルトの場所が
わからなくて、真翔さんに
手伝ってもらいながら。

とうとう、人生初めての
旅行が始まったのだ。






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