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愛は変態を助長させる

55:貸し切りプール

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 僕と綾子さんは水着を借りて
エステのお店から
まっすぐプールに行く。

プールは屋上にあるらしく
僕たちはまた
エレベーターに乗った。

「屋上のプールはね、
一般開放しないプールなのよ」

綾子さんはそんなことを言う、

「ほら、VIPの要人とか、
護衛が必要な人たちが
一般客と一緒にプールに入るなんて
無理でしょう?
だからそのための場所なの。

だから何もなければ
常に開いているし、
貸し切りもできるのよ」

僕はただただ、
へーっ、って思った。

そんな話、聞いたことない。
というか、
僕にはまったく関係のない
雲の上の話のように思えた。

それに僕がもしその
要人と言われる人だったら
わざわざ、護衛がいるのに
プールに入りたいなんて
思わない。

我慢すればいいのに。

なんて思うのは
僕が庶民だからなのかな。

でもおかげで
真翔さんたちと
貸し切りプールに入れるのだから
ありがたいことなんだろうけど。

僕たちがプールに行くと、
係の人が待っていてくれて
すでに真翔さんたちが
来ていると教えてくれた。

僕たちはロッカールームで
水着に着替えて、
用意されていたバスタオルを手に
プールサイドに行く。

広いプールだった。
25mの学校にあるようなプールと
飛び込み台がある小さめのプール。

そして大人も滑ることが
できそうな滑り台が付いたプールと、
泡がぽこぽこ出ているプールがあった。

「おまたせ」

と綾子さんが声を掛けた先には
真翔さんと先輩さんがいた。

二人はベンチに座って
なにやら話をしていたけれど
僕たちの姿を見たら
すぐに立ちあがって歓迎してくれた。

「悠子ちゃん、水着姿、可愛いね」

僕を見るなり
先輩さんが褒めてくれる。

「ありがとうございます」

僕はお礼を言いながら
真翔さんをそっと見た。

真翔さんは何て言ってくれるかな?

そう思ったけど。

真翔さんは顔を真っ赤にして
僕を見つめるばかりだ。

「真翔さん?」

「え、あ、ごめん」

「なんだ。
悠子ちゃんが可愛すぎて
びっくりしたか?」

からかうように先輩さんが言い、
真翔さんは「はい」って言う。

真赤な顔は嘘を言っているようには見えなくて。

僕も顔が熱くなってしまって
俯いてしまった。

「もう、可愛いわねぇ」

綾子さんがそんな僕の手を掴み、
さぁ、泳ぎましょう。
という。

「そんな朴念仁はほっておいていいわ」

「え、でも」

僕は迷ったけれど、
綾子さんが、早く、というので
仕方なく綾子さんの後をついていく。

「さっきのエステは
疲れたでしょう?
ジャグジーに行きましょう」

「ジャグジー?」

「ほら、あそこよ」

綾子さんが指さしたのは
泡がぽこぽこ生まれているプールだった。

「わぁ、あたたかい」

そっと手を付けると、
そこは温泉みたいに暖かかった。

「体がほぐれていいわよ」

「ほんと、気持ちいいです」

僕はジャグジーに入って
肩までお湯に浸かった。

椅子みたいに座れる段差もあり、
綾子さんはそこに座る。

「ねぇ、悠子の部屋、
大丈夫だった?」

「……? はい」

何が大丈夫なんだろう?
不安なことは何もなかったけれど。

僕は綾子さんに
大きな露天風呂の話や
天蓋付きのベットとか。

どんなに部屋が凄かったかを
一生懸命伝えた。

綾子さんは安い会員用の
部屋だから心配してくれたかも
しれないけれど。

そんな心配は全く無い。

僕が部屋を沢山褒めたので
綾子さんは「そうね」と頷き、

その後、小さな声で
「気が付かないのならいいわ」と
言っていたけれど、
僕には小さすぎてその声が聞こえなかった。

僕がその言葉を聞き返そうとしたとき、
先輩さんと真翔さんが来て、
ジャグジーに入ってくる。

真翔さんはすぐに僕のそばにきて
湯の中で僕の手を握ってくれた。

「その、可愛すぎて、
すぐに声が出なかった。
……ごめん」

って言われて、
僕はまた顔が熱くなってくる。

「いいわねー。
可愛い二人だわ」

綾子さんがそんな僕たちを見て
笑いながら言う。

「私は悠子の味方だから
可愛いオトウトは
悠子の邪魔をしたらダメよ?」

綾子さんは謎の言葉を
先輩さんに言うが
先輩さんは軽く肩を
すくめただけで
反論はしなかった。

意味はわからないけど、
先輩さんが綾子さんに
反論できないことだけはわかる。

それが思い違いでも、
きっと言えないんだろうな。

それから僕たちは
皆で滑り台を滑ったり、
怖かったけれど
飛び込み台から飛び込んでみたり。

お腹が空くまで
沢山、めいっぱい遊んでしまった。

気が付けば、お昼間に
ホテルに着いたのに、
すっかり日が暮れている。

「あー、疲れたわ。
お腹すいたー」

という綾子さんの一言で
僕たちはプールを出てすぐに
その下の階にある
レストランでご飯を食べた。

ホテルのレストランは
いくつかお店があったけれど
どれもこれも高級そうなお店で
絶対に一人だったら
入れそうにない店ばかりだ。

けれど綾子さんは
「お肉にしましょう」と
一人で決めて、
さっさと店の中に入っていく。

僕はまた真翔さんの
腕にしがみついた。

大丈夫?
僕もこの店に入ってもいいの?

メニュー表がお店の前にあったけれど
何も見れなかったし、
料理の値段もわからない。

僕がおそるおそる
真翔さんと一緒にお店に入ると
綾子さんは手慣れた様子で
大きなテーブルに
お店の人に椅子を引かれて
座っていた。

僕の後ろにも
スタッフの人がいて
椅子の背を引いてくれたけど
座るタイミングがわからずに
ドキドキしてしまう。

やっと椅子に座ったかと思うと
綾子さんは僕に
「食べれないものはないわよね?」
と聞く。

僕が頷くと、
綾子さんはどんどん何かを
注文してくが、
僕には何がなんだかわからない。

真翔さんを見たら、
真翔さんも驚いているみたいだから
二人で先輩さんに視線を向けた。

僕たちの視線を受けて
先輩さんはまた
両手を合わせて僕たちに
拝むような仕草をする。

きっと綾子さんは
いつもこうやって
沢山のことを決めているのだろう。

凄いと思う。

僕だったら、
何を食べるかずっと迷ってそうだもの。

綾子さんが注文したのは
鉄板焼きのコースだった。

最初に食前酒が来た。

その後、スープと
サラダと、
ホタテを使った
前菜が来て、

次に大きな茹でたエビが
綺麗に飾り付けられてやってきた。

次が、ぶあつくて
柔らかい焼いたお肉が来る。

こんなの食べたことない!

お肉の後は、
ガーリックライスが来て、
最後にデザートだった。

こんな凄い料理、
たぶん、もうこれから
一生、食べることないと思う。

最初は恐れ多くて恐縮したし
緊張したけれど。

料理の美味しさに僕は
そんなことなどすべて忘れて
料理を全部平らげてしまった。

そんな僕を真翔さんが
優しい瞳で見てくれてたことも、
綾子さんが満足そうな
顔をしていたことも、

この時の僕は
全く気が付いていなかったのだ。


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