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隣国へ

156:不安

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 すっかり体は火照ってしまったけれど、
再び外で私を抱こうとしたディランを
マイクが止めた。

湯でのぼせる可能性もあるので、
水を飲んだ方が良いと提案したのだ。

ディランは素直に頷き、
私はマイクに抱っこされて
水分補給のために移動する。

ただし、服を脱いだ風呂小屋ではなく、
別の小道を通って、私たちが寝ていた
大広間へと向かった。

誰もいない廃村とはいえ、
裸で外で歩くなんて経験、
めったにできないと思う。

私は一応、マイクが持って来ていた
タオルを体に巻いてもらったけれど
マイクもディランも裸のままだ。

たぶん、こうやって
裸で行き来できるように
小屋と露天風呂と、大広間は
背の高い垣根で外から見えないように
小道を作っているのだろう。

私たちは大広間のガラス戸から
部屋に入る。

そしてあらためて、
水筒は風呂小屋に持って行ったはずだと
私は思い出した。

たぶんだけど、
水分補給はマイクが気を利かせて
私を部屋に連れてくる口実だったのかもしれない。

あのまま外で抱かれてもいいや、って
雰囲気に流され切っていたから、
助かったかも。

外だったから、あのままだと
岩や地面で肌が傷付いたかもしれない。

抱かれてしまうと私はわけがわからなくなって
キモチイイに夢中になってしまうから。

そう考えると良かったんだよね?

マイクは私の身体を
大広間のラグの上に座らせて、

そして素早くシャツを一枚、羽織らせてくれる。

「なんだ?
シャツはいらねぇだろ?」

なんてディランはにやっと笑って、
私の耳元に口を寄せた。

「まだ、足りないもんな?
ぺろっと耳を舐められて、
私の身体はそれだけで反応してしまう。

マイクがそんなディランを
射貫くような視線で咎めた。

「ユウさまのお体に負担を掛けていることに
気が付かないのか、貴様は」

「嫌じゃないよな? ユウ」

ディランが私の腰に腕を回してきた。

「ユウさま、嫌なら嫌だと申していただければ
すぐにこいつを排除致します」

マイクが私に言ってくれるけれど、
排除は……しなくていい、かな?

私は、嫌じゃないけど少し休憩、
って二人に言う。

「マイクもそばにきて」

そういうと、マイクは私の隣に座ってくれた。
逆隣にはディランがいる。

だんだん、この二人の位置が
私の中で定着してきている。

「ふふ。二人がそばにいると安心する」

「そうか?」

「光栄です」

2人は嬉しそうな声を出す。

ディランは私の腰をさらに引き寄せるが、
マイクもそっと私の指に触れてきた。

マイクは許可を得るように
私の表情を伺う仕草をするので、
私からマイクの指に自分の指を絡めてみる。

「おい、なんでそいつばっかり見てんだよ」

ディランがそう言って、
私の頬や首筋を舐めてくる。

「俺にも、誘って……ねだってくれよ、ユウ」

ディランの唇が重なる。

「ディランは……私が誘わなくても
触れてくるでしょ?」

マイクはそうじゃない。

女神の愛し子の私にどこか
遠慮しているところがあるから、
触っていいよ、って私が
示してあげないと動けないところがあるのだ。

「それでも、言われてみたい」

「なんて?」

「抱いて、とか、舐めて、とか。
……舐めたい、とか」

物凄く直接的な言葉を聞いた気もする。
ので、スルーしてしまった。

だって真顔で言われても困ってしまうし。

「ユウさま」

指を絡めたマイクが私の耳元に唇を寄せる。
マイクの唇が私の頬に当たった。

「あの男はともかく、私はどうかずっとお傍に……。
私もユウさまにずっと
求められていたいのです」

瞳の奥に熱を持ったディランと
すがるようなマイクに瞳に
私は胸が苦しくなる。

ーーーー嬉しい、と。

愛されてると。
心が、震える。

『器』が満たされる。

私は二人の手を取り、両頬に手を当てた。

ゴツゴツした節に、大きな手。
2人の手のひらを両頬に当てれば
私の顔が隠れてしまいそうなぐらい、大きい。

「ユウさま?」

「ユウ?」

「二人はね、安心するの。
好きって言ってもらえて、嬉しい。
とっても……」

私はそこまで言って、
一度、呼吸を整えた。

「私のこと、いつだって触れていいし、
何をしても構わない。

マイクも、私の許可なんかいらないし、
ディランも好きにしていい。

だからね。
ずっと私のこと、好きでいて」

自分でも、嫌なセリフだと思った。
体を好きにしていいから、
ずっと愛せと言ってるようなものだ。

しかも、そばにいて、ではない。
いつ別れがくるかわからないからだ。

この世界も未来も、どうなるかわからない。

なのに私は、2人に私を愛せ、と言う。
一緒にいれなくなっても、愛して、と。

触れて、触って、アイシテルって言って欲しい。

いつになったら、私のこの愛情に
飢えた心は満たされるのだろう。

こんなに愛してもらっているのに。
こんな酷いことを言っても
私は愛されているのに。

私はすぐに、不安になる。
抱かれても。
好きだと言われても。

ディランが私を求めるのは
『聖女』が必要だからじゃないかとか。

マイクが私に優しくしてくれるのは
女神の愛し子だからじゃないかとか。

違うってわかってるのに、
不意に不安になる。

だから私は二人の手を離せない。

「ユウ? 俺はお前がずっと好きだぞ?
好きだから抱きたい。
おまえが抱けるから、好きなんじゃない」

ディランが私の顔を心配そうに覗き込む。

「ユウさま。
私はユウさまを敬愛し、
そしてお慕いしております。

この私の命さえも、ユウさまのもの。
何を不安になられるのでしょう」

わかってる。
2人の気持ちは、わかってる。

でも、じゃあなんでこんなに私は不安なんだろう。
何が怖い?

わからない。
ただ、満たされたい。

そして満たされる方法を、
今の私は、ひとつしか、知らない。

私は二人の手から指を離した。

そして二人の顔を交互に見る。

「じゃあ……愛して?
私の不安が消えちゃうぐらい。
大好きって、教えて。
私は……二人のこと、大好きっ」

って、言ったら、
何故か涙がこぼれた。











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