異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

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本編

531.アル様とお出かけ3

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「タクミ達と出かけるのは、疲れるな~……」

 アル様は長ぁーーーーーいため息を吐いた。

「アル様、街を出たばかりで、まだそこの森にも着いていないですからね」
「いや、もう帰ってもいいんじゃないか? 手に入れたものを売却したとしたら既に結構な稼ぎになっているだろう。――というか、ナジェーク! おまえも少しは指摘を手伝え! 空気になろうとするなよ!」

 アル様はもう帰りたいようだ。
 そして、ナジェークさんは、アル様の後ろでひっそりと存在感を消すようにしていた。なので、お疲れ気味のアル様が、文句を言っている。

「いえいえ、護衛の私が出しゃばって主より先に発言するなどできませんよ」
「建前で逃げるな!」

 ナジェークさんは全力で関わらないようにしようとしているようだ。

「はぁ……タクミさん、アルフィード様が煩いようですが、問題ありませんか?」
「なっ!? ナジェーク! 何故、私のほうだ!?」
「今回は、タクミさん達に我々が同行しているのですから、タクミさん達の行動に指摘するのは違うかと思いまして」
「確かに……そうだが……」

 まさかの、ナジェークさんは叫び続けているアル様のほうに遠回しな苦言をする
 まあ……僕達はいつも通り採取したりしているだけなので、止められる謂れはないのか~。

「「アル様、頑張れ!」」
「っ~~~……」

 アレンとエレナが少しだけからかっている雰囲気を出すと、アル様はどこか悔しそうな顔をしている。

「タクミ、タクミ! ブラン茸とノワール茸がまたあったから育てたぞ~」
「えっ!?」

 カイザーはちょっとした時間を無駄にはせず、せっせと追加のキノコを採取していたようだ。

「……アル様、いりますか?」
「本当に! ……おまえ達は、いや、いい」
「いらないんですね」
「いや、ぜひ売ってくれ」
「え、あ、はい」

 アル様……だいぶお疲れなのかな? 言動が定まっていないような?

「「あっ!」」
「今度はどうした?」
「「パステルラビット、見つけた~」」

 少しも落ち着く暇もなく、アレンとエレナはパステルラビットに向かって駆け出していく。

「また見つけたのか!?」
「タクミさん達と行動すると、滅多にないことを経験できますね」

 アル様とナジェークさんは呆れ気味だ。

「「四匹いたよ~」」

 これでパステルラビットは全部で十匹だな。

「「あっ!」」
「またか!? 早いぞ! 今度は何だ?」
「「何かいる~」」

 パステルラビットを連れて来て、僕達の足下に置いた瞬間にまた何かを見つけたようだ。
 アル様がその早さに叫び声を上げる。

「あれは……グラトニーラビットかな?」
「「おぉ~、初めてだ~」」
「そうだな」

 アレンとエレナが見つけたのは初見の魔物だ。いるのは……二匹かな?
 グラトニーラビットは両手に乗るくらいの大きさの可愛らしい見た目のウサギの魔物だ。パステルラビットみたいな魔物だが、パステルラビットよりはちょっと強いEランク。色は真っ黒の身体で赤い瞳の個体だ。あ、ちょっとだけ耳が短いのが特徴だな。
 そして、何と言っても主食が骨という……驚きの特性があるウサギである。

「「お兄ちゃん、骨はある?」」
「何の骨でもいいんだったな。それなら、ウルフの骨とかでいいのかな?」

 僕は《無限収納》からウルフの骨を取り出し、アレンとエレナに渡す。すると、二人はグラトニーラビットに向かって行く。
 まあ……食べるものは普通じゃないが、パステルラビットと同様の愛玩動物に近い魔物なので大丈夫か~。

「また珍しい魔物と遭遇したな」
「やっぱり珍しいんですか?」
「ああ、グラトニーラビットは森の奥深くに棲む魔物だからな」
「詳しいんですね」
「アルフィード様は、小動物っぽい生きものが好きですからね」
「ナジェーク! バラすな!」
「え、そうだったんですか!?」

 アル様が小動物好きとは知らなかったな。
 確かに子供達に手渡されたパステルラビットは、ずっと抱いたままだな。
 ……ということは、アル様ってふれあい広場の責任者になったのは、嬉しかったのかな? そして、グレイス様は、アル様が小動物好きって知っていて話を振ったのかな?

「「仲良くなったよ~」」

 そうこうしているうちに、アレンとエレナが二匹のグラトニーラビットを連れてきた。

「えっと……その仔達は、どうしたいって?」
「パステルラビットと一緒!」
「連れて帰る!」
「……そうか」

 グラトニーラビットもペットになることが希望のようだ。
 ペット希望の魔物って何なんだ!? と思うが、あまり戦うことができない魔物の処世術なのかもな。

「アル様、どうですか?」
「どうですかって……それはパステルラビットと同様に、城で飼えってことか?」
「アル様がよければ、ですね」
「私は構わないが、体制が整うまではタクミが面倒を見てくれなくては困るぞ」
「ええ、それはもちろん引き受けます」
「それなら、喜んでこちらで請け負うぞ!」

 早く体制を整えなければ……と呟くアル様は、ちょっとわくわくしている様子だ。

「そういえば、買い取るというと言葉が悪くなるが、パステルラビット達の代金はどうしたらいい?」
「いやいや、この子達を売り買いするつもりはないので、普通に引き取ってください。何でしたら、餌代とかの要求をしてくれてもいいですよ?」

 どちらかといえば、僕達が押しつけているようなものだしな。
 逆にこれから掛かるだろう餌代を要求されてもいいくらいだ。

「野菜くずと食用肉から出る骨なら、城の厨房に腐るほどあるから問題ないな」
「あ、確かに」

 餌は別途で購入しなくてはならない……ということはなく、本来ならゴミとして処分されるようなもので賄えるので問題ないんだな。

「それにしても……種族が違っても喧嘩したりしないんだな」

 アル様が何を言っているかというと、僕達の足下で仲良くしているパステルラビットとグラトニーラビットだ。同じウサギの魔物だからなのか、もう仲良くなっている。

「連れてくる時にね」
「ちゃんと説明しておいたよ」
「ん? えっと……もしかして、グラトニーラビットにパステルラビットと仲良くするように言っておいたのか?」
「「そうそう」」
「……そうか」

 子供達が前もって説明しておいたから仲良くしているのか?
 じゃあ、本来は険悪な状態とまでは言わないが、もっと疎遠な関係になっていたかもしれないってことか?
 まあ、僕が変に想像しているだけで、普通に仲良くしていたかもしれないか~。

「アル様、グラトニーラビットを撫でたり抱いたりしないんですか?」
「いや、あの……いいのか?」
「その子達が嫌がるようなら止めたほうが良いですけど、すり寄ってきていますからいいんじゃないですか? ほら、待っていますよ」

 アル様がグラトニーラビットに触れたくてそわそわしているようだったので、早く触るように勧める。だって、グラトニーラビット達もアル様にすり寄っていたしな。

「「あっ!」」
「え、また?」
「「今度は薬草! ちょっと待ってて~」」

 アレンとエレナは再び薬草を発見すると、駆け出していく。

「どうしよう。森に辿り着けないな~」

 僕の呟いた言葉を聞いて、アル様とナジェークさんが笑っていた。




==========

【お知らせ】

コミック11巻、10月下旬発売予定です!
よろしくお願いします☆


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