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第16話

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「姫様! ご無事で何よりです!」
「もののふ様方! ようこそ、我らが村へ!」
 村全体を囲む氷ブロックの壁で守られた人魚族の集落入口。事前に呼子信号で話を聞いていたマーメイドウォーリアーの2人は間を開き、6人を中に入れる。
「……ここが集落なのか!」
 円形の壁で守られた村内は氷ブロックで作られた高床式住居が5個あり、壁際には魚の生け簀と思しき四角い池があり、中央広場のかまど上には大きな鍋が置かれている。そして物干しにから下がったマーメイドが胸に巻くためのおしゃれアイテム・色とりどりの晒の間や建物の影から人魚族の子供や待機人員の若い戦士たちが探と美香をこっそりと見ている。
(あれが“もののふ”とやらか)(異世界の武人をまた見れるとは……数百年ぶりじゃ!)(本当に2本の足で器用に歩くんだ!)(女武者2人、しかもスレンダーイケメン美女とボンキュッボンとは!)
 珍獣扱いされている2人は仲間との再開を喜ぶエレミィと別れ、ウォーリアーに先導されて集落の奥、上座に位置するひときわ大きな高床式住居に向かう。

「美香ちゃぁぁん! 無事だったんやね」
「えっ、英里子ちゃん!?」
 高床式住居内でもののふ2人を待っていた3人の内1人、行方不明になっていた英里子は美香の胸に顔をうずめる。
「あんとき、ウチ、デカブツに武器奪われて追おうとしたんや。そしたらパラリラパラリラってやって来たもののふと姫を探しとるって言う人魚らに事情を話してここまで連れてきてもらえたんよ……とにかく無事で良かった! そしてごめんなさい……ほんまにごめんなさい」
「そうかそうか……よしよし」
 断片的な情報だが、何があったのかは理解できた美香は胸に顔をうずめて泣く英里子をなでなでして慰める。
「……よくぞ水乃宮に参った、檀条学院オカルト研究会のもののふらよ」
 澄んで凛と響く声でオカルト研究会メンバーに話しかけるのは白狩衣に烏帽子姿の黒ロングヘアの女性だ。
「わらわは水乃宮を司るマヨイガ五武神、ミズノミヤだ。そして彼の者は人魚族の長にして最強の戦士、ゼドである」
「もののふ様方、ようこそ我が村へ。我が妹を守っていただいた件、誠に感謝しております。今は状況が状況だけにおもてなしも出来ず誠に申し訳ございません……」
 五武神ミズノミヤと並んで座るエレミィのお兄様である人魚族の長、ゼドは20代中盤と思しき若い男で長い髪の毛をドレッドヘアーにして、浅黒い肌の上半身は筋骨隆々に鍛えられている。
「ゼド様、はじめまして。檀条学院オカルト研究会、マヨイガ探索隊リーダー。雲隠探です」
「私は檀条学院オカルト研究会、マヨイガ探索隊メンバー、華咲美香です」
 紳士的なゼド村長に探と美香も敬意を持って自己紹介する。
「さて、おかると研究会のもののふらよ……そなたらも知っているであろうが、わらわの司るこの宮は予期せぬ異常事態によリマヨイガの儀を遂行できぬ状態となっておる」
「我ら人魚族の戦士は幾度となく奪還を試みたものの……あの数にはなすすべもなく、多くの者が命を落とした。そして大食らいな奴らはこの宮に住まう魔物を食い荒らし、深刻な食糧不足まで引き起こしている…… このままでは先祖代々の使命を放棄し、ここを去る事になってしまうだろう」
「わらわはこの宮を司る武神としてそれは避けねばならぬ……そこでだ、強大なマヨイガエレメントの力を持つそなたらにマザーゲッソー討伐協力を頼みたいのだ。受けてくれるであろうな?」
「まあどのみち、倒さないといけないんでしょうし、いい……」
「ちょいまち、ミズノミヤ姐さん! それはつまり……あんたと戦わんでも試練達成認定される特殊勝利条件と言う事でええんやろな?」
 探の了承に割り込んだ英里子はずいと身を乗り出し、交渉をもちかける。
「あっ、あねさん? チノモノよ、確かにそれは……出来ぬことは無いが。ゼドよ、そなたはどう思う?」
「……そうですね、私はマヨイガの儀そのものには関わらないのでどちらでも構いませぬ。
 ただこの水乃宮の現場管理する者としてはマザーゲッソーに荒らされているであろう水神の間を再建する手間、人員的にもカミイクサを無しにしていただいた方が助かります」
 落ち着いた口調で言うべき事を言い終えたゼドは英里子に一瞬サムズアップナイスする。
「うむ、それもそうだな……ではこうしようぞ。 ミズノモノよ、こちらに来やれ」
「はいっ?」
「うむ、そうじゃ……右手を見せるがよい。うむ、実に美しく白い手じゃ……」
 美香が差し出した右手を取ったミズノミヤは愛おしむように触っていたが、手の甲に指先で『水』の字を描く。
「ひゃあん! 冷たっ!」
「華咲さん!」
「騒ぐでない、ホムラモノよ……これはわらわを倒した者に与えられる水神紋であるぞ」
 美香の右手甲には青文字の『水』が出現している。
「ミズノモノよ、敵はお主らの考える以上に強い……故に儀が前後するが強大な力を持つ水神紋の力を一部与えよう。烏賊の魔物を倒し、その力を証明すればそれを完全な物とする。これがわらわの課すマヨイガの試練じゃ」
「これが水神紋…… ミズノミヤ様、先輩の右手のこれもそうなんですか?」
 美香は探の右手に出現した赤文字の『火』をミズノミヤに見せる。
「うむ、いかにも。その者はホムラモノとして火乃宮の主、大蝦暮ノ翁殿を倒した。それはその証にして火神紋と呼ばれる強大な力を持つありがたき物であるぞ」
「なるほど、先輩のあの技はそうだったんですね! ミズノミヤ様、ありがとうございます!」
「あの技?」
「ああ、それは後でゆっくり話しますね……先輩。とにかくミズノミヤ様ありがとうございます!」
「うむ、礼には及ばぬミズノモノよ。烏賊討伐の件、頼むぞ。ゼド、そなたも人魚族の長としてもののふらと協力するのだ」
「かしこまりました、 ミズノミヤ様。仰せのままに……」
 人魚族の戦士、ゼドは主君に頭を下げる。

【第17話に続く】
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