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第28話
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「ヒートアロ……」
全身の針をわしゃわしゃさせ、それを蓄電させる事で攻防一体化する能力を持つヴォルトヤマアラシ。近接戦特化の二刀流剣士である探は武器を神紋弓に変更。ヒートオーバードライブ強制発動で全身を包む炎に堪えつつ火矢を構える。
「バリィ!」
「うおっ!」
だが、それを射つ間もなく帯電蝶き逃げタックルで突っ込んで来た魔物を探はギリギリで交わす。
(あっ、危なかった……あいつ、これまでのマヨイガの魔物とは比較にならないぐらい滅茶苦茶強いぞ!)
ヴォルトヤマアラシの攻撃パターンは帯電礫き逃げタックルと帯電ジャンプアタックの2種類しかないとは言え、強制ダメージを与え続ける不慣れな武器に薄暗くて視界が悪く狭い部屋。そしてその一撃で瀕死にされた英里子部長……戦況とメンタルの両面で悪条件が重なる中、探は冷静に打開策を模索しようとする。
「痛っつう……あいつ、無茶苦茶しよって! サポートスキルをあれこれ無駄に習得しておいてホンマによかったわぁ。」
須田丸の牢屋前、岩隔壁で守られた安全地帯。美香の魔導杖・マーメイドハートの固有回復スキル『生命回復(ライフリカバー)』で生成された回復ウォータークッション上で横になり、怪我とダメージを癒していく。
マヨイガ探索者としてノリと勢いと知的好奇心の赴くままにサポートスキルを手当たり次第に習得しまくっていた英里子。そんな彼女だからこそ『全属性耐上昇(大)』『物理ダメージ減少(中)』『全属性ダメージ減少(小)』『1/3の確率で即死回避』の複合効果により本来ならば電気ショックで黒焦げ即死不可避なヴォルトヤマアラシの帯電ジャンプアタックか生還できたのだ。
「何が役に立つかはとにかくとして、とりあえず無事で何よりだわ。鉄の英里子ちゃんでも今回ばかりはダメかと思ったもの……」
十分程前まで瀕死だったとは思えない友人の元気な様子に美香は安堵のため息を吐く。
「流石は不死身の姉ちゃんだ! すげぇよ!」
「ありがとな、須田丸君。……美香ちゃん、ウチらの子達が戻って来たようやで」
英里子は安全地帯の入口に目をやる。
「チチチチチ……」
「ズズズズ……」
小石で造られたバッタやトカグにブルプルしたゼリー状の球体達。
英里子や美香が須田丸の軟禁場所の安全確認と調査のために放っていた自律行動型ゴーレムと水神紋の力で生み出した水の眷族達は主に調査結果を報告する。
「この円形ドームのような空間に出口は無い、そういう事なのねスライムちゃん?」
「ズズズ……」
スライムは体をプルプルさせて美香に答える。
「ウチのゴーレム達も同じこと言うとるようやね」
英里子のバッタゴーレムとトカゲゴーレムも首を縦に振る。
「そうなるとあの扉をぶっ壊すしかないのかしら……」
「それしかないやろなぁ……美香ちゃん、もう大丈夫やで。ありがとな」
英里子はそう言いつつマーメイドハートのウォータークッションから身を起こす。
「そんな無茶よ、英里子ちゃん!」
「そうだよ姉ちゃん! 次は死んじまうぞ!」
大型モーニングスターを掴んで探を助けに行こうとする英里子を2人は必死で止める。
「でもじゃあどうすればええねん? 雲隠さんはジリ貧、美香ちゃんは耐性弱点的にウチより危険、須田丸君はマヨイガエレメントを使えない……ウチがあの扉をぶっ壊すしかないやろ?」
「そうなんだけど……」
「マヨイガエレメント……マヨイガエレメント……」
雲隠さんはさておき、美香さんも英里子姉ちゃんも後から手に入れたと言う特殊能力。
びりびりになった黒タンクトップを破り捨て、上半身裸に胸晒一枚になった英里子の背中を格子越しに見守る事しか出来ない須田丸は拳を握りしめる。
(これじゃ……あの頃のままだ。俺は何も変わってないじゃないか! 俺もその力があれば……ちくしょぉ、ちくしょぉぉぉぉ!)
「須田丸君、その光は……まさか!」
「まっ、日玄しい! 目が、焼ける! 目玉焼きになってまう!」
「うぉぉぉぉぉ!」
「須田丸君! 美香さん! 英里子部長!」
不意に半円型ドーム全体を揺るがした謎の地揺れ。地面にしがみつくヴォルトヤマアラシ同様に足を踏ん張って一時休戦中だった探は目の前で崩壊する英里子の岩壁シェルターに叫ぶ。
「ファイアージェ……ット?」
探がファイアージェットで助けに向かおうとしたその時、崩れた岩を蹴散らしつつ何者かが出て来る。
「須田丸君……?」
「雲隠さん、無事で良かった! 遅くなってすまない……身勝手な理屈で済まないが、ヤツが姉ちゃんを半殺しにした落とし前は俺がつける。手を出さないでくれ」
壁もろとも引き抜いた鉄格子を持ち上げ、落石から2人を守った須田丸は英里子と美香に言う。
「うっ、うん」「須田丸君、頑張るんよ!」
「バリッ? バリバリィ! バリバリィ!」
鉄格子を武器にし、明らかにブチ切れた顔でこちらに向かってくる大男。
ヴォルトヤマアラシはあとずさりしながら全身の針をひたすらワキワキして蓄電反撃態勢を整えつつ威嚇。
それにに怯むことなく須田丸は前進を続け、針を素手でむんずと掴んだ。
「バリィイイイ!」
敵が自ら感電死に来ると言うこの好機を逃す理由のないヴォルトヤマアラシはありったけのエネルギーを須田丸に流し込む。
「須田丸君!」「あれはアカン! ホンマに焼け死んでまう!」
体内外をスパークに包まれ、一昔前のギャグ漫画なら骨が透けて見えるであろう惨劇に3人は悲鳴を上げる。
「効かねえよ、バカが」
「バリィ?」
全てのエネルギーを流し込み終えたヴォルトヤマアラシの目前で、無傷の須田丸はにやりと笑う。
「バリバリバリィィィッ!」
ならばもう一度。針を垂直に振り立てたヴォルトヤマアラシが帯電ワキワキさせようとしたその時だった。須田丸は脇に立てて置いた格子を掴んで持ち上げる。
「ドラァァァ!!」
「バギャァァァ!」
重い鉄格子を力任せに魔物の背中に叩きつけ、その体を覆う帯電棘を巻き込ませた須田丸は一気に横に振り抜き、力任せにブチブチ引き抜いていく。
「終わりだぁぁぁ!」
棘を一気に引き抜かれ、悲鳴を上げる敵。その残った棘房を掴んで持ち上げた須田丸はその場で大回転しはじめる。
「あれは……ウチが教えたプロレス喧嘩技、ジャイアントスイングや!」
巻き添え回避のために身を低くしてタイマンを見守る英里子は叫ぶ。
「あなたが教えたの!? それより須田丸君……光ってない?」
「……そう言えば腕が光っている。彼も僕達と同様にマヨイガエレメントを発現させたのか?」
『ヴォルトジャイアントスイング!』
須田丸にぶん投げられたヴォルトヤマアラシは針に護られていないむき出しの皮膚を電撃で焼かれながら唯一の出口となる扉に激突し、そのままぶち破って外に飛び出す。
「バリッ……バリィィィ!!」
塔を転がり出てマヨイガの壁にぶつかって止まった満身創疾のヴォルトヤマアラシはそのまま丸くなって辛うじて残っている棘を屈伸。その反動で坂道を跳ね転げ逃げて行った。
「ふふふ、そう来たか……まあ曲がりなりにも2つの試練を乗り越えたもののふ達ならあの程度の魔物なら倒せて当然だろうがね」
和ろうそくが灯る薄暗い板張りの間。銅鏡の前に座る白狩衣に烏帽子、白仮面の少年。
この戦いを最初から見ていた鳴神乃宮を司る五武神、ナルカミノミヤは笑う。
「同志ゴブガミ、今回は色々と迷惑をかけてしまい申し訳なかった。今後ともオカルト研究会の指導と助言を頼むぞ」
「フゴーッ! フゴゴホーッ!」
ナルカミノミヤはギャグボールを噛まされて逆エビ固めで縛られていたゴブガミに感謝の言葉を述べ、指を鳴らして鳴神乃宮に送り返す。
【第29話に続く】
全身の針をわしゃわしゃさせ、それを蓄電させる事で攻防一体化する能力を持つヴォルトヤマアラシ。近接戦特化の二刀流剣士である探は武器を神紋弓に変更。ヒートオーバードライブ強制発動で全身を包む炎に堪えつつ火矢を構える。
「バリィ!」
「うおっ!」
だが、それを射つ間もなく帯電蝶き逃げタックルで突っ込んで来た魔物を探はギリギリで交わす。
(あっ、危なかった……あいつ、これまでのマヨイガの魔物とは比較にならないぐらい滅茶苦茶強いぞ!)
ヴォルトヤマアラシの攻撃パターンは帯電礫き逃げタックルと帯電ジャンプアタックの2種類しかないとは言え、強制ダメージを与え続ける不慣れな武器に薄暗くて視界が悪く狭い部屋。そしてその一撃で瀕死にされた英里子部長……戦況とメンタルの両面で悪条件が重なる中、探は冷静に打開策を模索しようとする。
「痛っつう……あいつ、無茶苦茶しよって! サポートスキルをあれこれ無駄に習得しておいてホンマによかったわぁ。」
須田丸の牢屋前、岩隔壁で守られた安全地帯。美香の魔導杖・マーメイドハートの固有回復スキル『生命回復(ライフリカバー)』で生成された回復ウォータークッション上で横になり、怪我とダメージを癒していく。
マヨイガ探索者としてノリと勢いと知的好奇心の赴くままにサポートスキルを手当たり次第に習得しまくっていた英里子。そんな彼女だからこそ『全属性耐上昇(大)』『物理ダメージ減少(中)』『全属性ダメージ減少(小)』『1/3の確率で即死回避』の複合効果により本来ならば電気ショックで黒焦げ即死不可避なヴォルトヤマアラシの帯電ジャンプアタックか生還できたのだ。
「何が役に立つかはとにかくとして、とりあえず無事で何よりだわ。鉄の英里子ちゃんでも今回ばかりはダメかと思ったもの……」
十分程前まで瀕死だったとは思えない友人の元気な様子に美香は安堵のため息を吐く。
「流石は不死身の姉ちゃんだ! すげぇよ!」
「ありがとな、須田丸君。……美香ちゃん、ウチらの子達が戻って来たようやで」
英里子は安全地帯の入口に目をやる。
「チチチチチ……」
「ズズズズ……」
小石で造られたバッタやトカグにブルプルしたゼリー状の球体達。
英里子や美香が須田丸の軟禁場所の安全確認と調査のために放っていた自律行動型ゴーレムと水神紋の力で生み出した水の眷族達は主に調査結果を報告する。
「この円形ドームのような空間に出口は無い、そういう事なのねスライムちゃん?」
「ズズズ……」
スライムは体をプルプルさせて美香に答える。
「ウチのゴーレム達も同じこと言うとるようやね」
英里子のバッタゴーレムとトカゲゴーレムも首を縦に振る。
「そうなるとあの扉をぶっ壊すしかないのかしら……」
「それしかないやろなぁ……美香ちゃん、もう大丈夫やで。ありがとな」
英里子はそう言いつつマーメイドハートのウォータークッションから身を起こす。
「そんな無茶よ、英里子ちゃん!」
「そうだよ姉ちゃん! 次は死んじまうぞ!」
大型モーニングスターを掴んで探を助けに行こうとする英里子を2人は必死で止める。
「でもじゃあどうすればええねん? 雲隠さんはジリ貧、美香ちゃんは耐性弱点的にウチより危険、須田丸君はマヨイガエレメントを使えない……ウチがあの扉をぶっ壊すしかないやろ?」
「そうなんだけど……」
「マヨイガエレメント……マヨイガエレメント……」
雲隠さんはさておき、美香さんも英里子姉ちゃんも後から手に入れたと言う特殊能力。
びりびりになった黒タンクトップを破り捨て、上半身裸に胸晒一枚になった英里子の背中を格子越しに見守る事しか出来ない須田丸は拳を握りしめる。
(これじゃ……あの頃のままだ。俺は何も変わってないじゃないか! 俺もその力があれば……ちくしょぉ、ちくしょぉぉぉぉ!)
「須田丸君、その光は……まさか!」
「まっ、日玄しい! 目が、焼ける! 目玉焼きになってまう!」
「うぉぉぉぉぉ!」
「須田丸君! 美香さん! 英里子部長!」
不意に半円型ドーム全体を揺るがした謎の地揺れ。地面にしがみつくヴォルトヤマアラシ同様に足を踏ん張って一時休戦中だった探は目の前で崩壊する英里子の岩壁シェルターに叫ぶ。
「ファイアージェ……ット?」
探がファイアージェットで助けに向かおうとしたその時、崩れた岩を蹴散らしつつ何者かが出て来る。
「須田丸君……?」
「雲隠さん、無事で良かった! 遅くなってすまない……身勝手な理屈で済まないが、ヤツが姉ちゃんを半殺しにした落とし前は俺がつける。手を出さないでくれ」
壁もろとも引き抜いた鉄格子を持ち上げ、落石から2人を守った須田丸は英里子と美香に言う。
「うっ、うん」「須田丸君、頑張るんよ!」
「バリッ? バリバリィ! バリバリィ!」
鉄格子を武器にし、明らかにブチ切れた顔でこちらに向かってくる大男。
ヴォルトヤマアラシはあとずさりしながら全身の針をひたすらワキワキして蓄電反撃態勢を整えつつ威嚇。
それにに怯むことなく須田丸は前進を続け、針を素手でむんずと掴んだ。
「バリィイイイ!」
敵が自ら感電死に来ると言うこの好機を逃す理由のないヴォルトヤマアラシはありったけのエネルギーを須田丸に流し込む。
「須田丸君!」「あれはアカン! ホンマに焼け死んでまう!」
体内外をスパークに包まれ、一昔前のギャグ漫画なら骨が透けて見えるであろう惨劇に3人は悲鳴を上げる。
「効かねえよ、バカが」
「バリィ?」
全てのエネルギーを流し込み終えたヴォルトヤマアラシの目前で、無傷の須田丸はにやりと笑う。
「バリバリバリィィィッ!」
ならばもう一度。針を垂直に振り立てたヴォルトヤマアラシが帯電ワキワキさせようとしたその時だった。須田丸は脇に立てて置いた格子を掴んで持ち上げる。
「ドラァァァ!!」
「バギャァァァ!」
重い鉄格子を力任せに魔物の背中に叩きつけ、その体を覆う帯電棘を巻き込ませた須田丸は一気に横に振り抜き、力任せにブチブチ引き抜いていく。
「終わりだぁぁぁ!」
棘を一気に引き抜かれ、悲鳴を上げる敵。その残った棘房を掴んで持ち上げた須田丸はその場で大回転しはじめる。
「あれは……ウチが教えたプロレス喧嘩技、ジャイアントスイングや!」
巻き添え回避のために身を低くしてタイマンを見守る英里子は叫ぶ。
「あなたが教えたの!? それより須田丸君……光ってない?」
「……そう言えば腕が光っている。彼も僕達と同様にマヨイガエレメントを発現させたのか?」
『ヴォルトジャイアントスイング!』
須田丸にぶん投げられたヴォルトヤマアラシは針に護られていないむき出しの皮膚を電撃で焼かれながら唯一の出口となる扉に激突し、そのままぶち破って外に飛び出す。
「バリッ……バリィィィ!!」
塔を転がり出てマヨイガの壁にぶつかって止まった満身創疾のヴォルトヤマアラシはそのまま丸くなって辛うじて残っている棘を屈伸。その反動で坂道を跳ね転げ逃げて行った。
「ふふふ、そう来たか……まあ曲がりなりにも2つの試練を乗り越えたもののふ達ならあの程度の魔物なら倒せて当然だろうがね」
和ろうそくが灯る薄暗い板張りの間。銅鏡の前に座る白狩衣に烏帽子、白仮面の少年。
この戦いを最初から見ていた鳴神乃宮を司る五武神、ナルカミノミヤは笑う。
「同志ゴブガミ、今回は色々と迷惑をかけてしまい申し訳なかった。今後ともオカルト研究会の指導と助言を頼むぞ」
「フゴーッ! フゴゴホーッ!」
ナルカミノミヤはギャグボールを噛まされて逆エビ固めで縛られていたゴブガミに感謝の言葉を述べ、指を鳴らして鳴神乃宮に送り返す。
【第29話に続く】
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