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第30話
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壇条学院、生徒会室。
「歴史研究会の皆さん、この件で異議申し立てはありますか?」
「……ありません」
4人目のマヨイガ探索隊メンバーも加入し、オカルト研究会活動も佳境に入って来たある日、足尾(あしお)副生徒会長に呼び出されたオカルト研究会メンバー。
ある生徒が撮影したと言う英里子が歴史研究会顧間の五武神教師の襟を掴んで乱暴に引きずり回す証拠動画を見せつけられ、反論の余地も無い3人は事実を認める。
「……副生徒会長、ウチらはオカルト研究会や。歴史研究会じゃないんやけど」
「さて、呉井さん。五武神先生が怪我も無く無事だったとは言え教師に対する暴行の件、生徒会としては看過するわけには行きません。堂山(どうやま)書記、緊急審議会の手配をお願いします」
「かしこまりました、副生徒会長」
「緊急審議!?」
壇条学院関係者にとっては泣く子も黙る恐怖そのものである『壇条学院生徒会緊急審議』。
それは学内外問わず深刻な問題行動を起こした生徒個人や学内団体への処罰と今後を審議する物であり、どんなに軽くても一ケ月前後の停学は免れず、部活動なら強制永久廃部不可避となる死の宣告を下された3人は叫ぶ。
「そっそれは流石に……申し訳ございませんでした! この件はウチが1人で罪を背負うのでオカルト研究会に手出しはしないでください! この通りです!」
「文化系部活動統括委員長の予定に合わせると2日後ですが、風紀委員長がその日は出席出来ないので……4日後とかはどうですか?」
「そうね、出来れば2日後にしたいので風紀委員長に日程変更相談して……無理なら4日後にしましょう。堂山さん、風紀委員長に連絡してもらえますか?」
「わかりました」
ようやく手に入れた安住の地を略奪されかねない事態に英里子は土下座謝罪するが、足尾副生徒会長と堂山書記は淡々と事務手続きを進める。
「歴史研究会の皆さん、お時間いただきありがとうございました。緊急審議会の日程が決まり次第ご連絡しますので……部室の私物撤去を進めておいてくださいね?」
「はい、わかりました……英里子部長。帰りますよ」
「うぐっ……えぐっ……ウチの安住の地が、安住の地が……お前ら夜道に気を付けさせてやるからなぁ……チンピラに身ぐるみ剥がれても知らんからなぁ……」
美香の肩を借りて歩く英里子の鳴咽に混じる露骨な恐喝。美香がそれを止めさせようとしたその時、生徒会長室の扉が外から開く。
「生徒会長!?」「御鐵院(みてついん)さん!?」
「久方ぶりね、足尾に堂山。そしてオカルト研究会の皆さん、はじめまして……私は生徒会長、御鐵院 茜(みてついん あかね)です」
生徒会長室にやって来た180オーバーの鍛えられたスタイリッシュ長身で黒髪ロングヘアをポニーテールにした、壇条学院高等部女子生徒は5人に挨拶する。
「……いつ、お戻りに?」
「昨日、留学先のドイツから帰国したのよ。復学届申請に来たんだけど……お取り込み中かしら?」
「いえ、とんでもございません直ちに確認いたします! 堂山さん! 生徒会長にお茶をお滝れして!」
「その必要はないわ。私は緊急審議会の件でオカルト研究会の部室に向かうから後日取りに来ます」
「仰せのままに!」
副生徒会長のデスクに書類一式の入った封筒を置いた女性はそのまま生徒会長室を出て行き、探達3人にもついてくるように促す。
しばらくして、オカルト研究会部室。
「粗茶でございます、生徒会長……殿?」
「ありがとう、高等部1年生の華咲さん」
ソファー席に腰を下ろした生徒会長は美香に微笑む。
「御鐵院さん、お久しぶりです」
「探さん……わたくしその堅苦しいファミリーネームは好きじゃありませんの。せめて貴方だけは『あかね』とお呼びください」
(何なのこいつ! 先輩がいくらイケメンだからって初対面で名前呼び捨てを求めるなんてずうずうしいにも程があるわ! 私だってさんづけなのに……)
美香はわざわざ滝れてやったお茶に塩をたっぶり入れるべきだったと後悔しつつテーブル越しに対面着席する。
「さて、呉井さんに華咲さんはじめまして。私は先日ドイツ留学から帰国しました壇条学院高等部2年生にして生徒会長、御鐵院 茜(みてついん あかね)です」
茜は2人に自己紹介する。
「みてついん、みてついん……まさかとは思うけど、アンタあの世界的大企業ミテツイングループの関係者じゃないやろな?」
「ミテツイングループ?」
「ええ、そうです。ミテツイングループは金融、化学、物流、工業……全ての産業分野に携わるトップ企業を束ねる世界的大財閥の1つ。そして私はその創業家にして頭取たる御鐵院家に連なる者です。そして……探の婚約者よ」
茜は最後の言葉に顔を赤らめる。
「おいおいおい……冗談はホンマによしこさんやで、御鐵院さん。なんでアンタ程の雲の上に住まうような超上級人類がこんなアジアの島国のド田舎にあるチンケな私立学校に来とるんや? 世界中どこでもええガッコよりどりみどりやろ?」
「それより御鐵院さんに先輩……婚約者ってどういう事ですか?」
ショックのあまり目に涙を浮かべた美香は探と茜の両方を見ながら聞く。
「華咲さん、急に泣き出してどうしたの? わたくし何か悪い事を言いましたかしら?」
「いえ、おやつのハバネロポテチの辛さで今更のように涙が……ごめんなさい」
美香は涙をハンカチで拭う。
「ふぅん……辛い物の食べ過ぎは胃に悪いことですのよ、華咲さん。話をもどしますが、それにお答えするにはかつてこの迷処町に存在した武神・タメシヤ神様の伝承にまで遡らなくてはならないの。ご存じでして?」
(このクソアマ、ホンマむかつくわぁ……ウチこいつ嫌いや!)
トンデモ災厄女でも勝ち目のない資本主義経済における神・超大金持ち様を前に英里子は黙ってうなずく。
【第31話に続く】
「歴史研究会の皆さん、この件で異議申し立てはありますか?」
「……ありません」
4人目のマヨイガ探索隊メンバーも加入し、オカルト研究会活動も佳境に入って来たある日、足尾(あしお)副生徒会長に呼び出されたオカルト研究会メンバー。
ある生徒が撮影したと言う英里子が歴史研究会顧間の五武神教師の襟を掴んで乱暴に引きずり回す証拠動画を見せつけられ、反論の余地も無い3人は事実を認める。
「……副生徒会長、ウチらはオカルト研究会や。歴史研究会じゃないんやけど」
「さて、呉井さん。五武神先生が怪我も無く無事だったとは言え教師に対する暴行の件、生徒会としては看過するわけには行きません。堂山(どうやま)書記、緊急審議会の手配をお願いします」
「かしこまりました、副生徒会長」
「緊急審議!?」
壇条学院関係者にとっては泣く子も黙る恐怖そのものである『壇条学院生徒会緊急審議』。
それは学内外問わず深刻な問題行動を起こした生徒個人や学内団体への処罰と今後を審議する物であり、どんなに軽くても一ケ月前後の停学は免れず、部活動なら強制永久廃部不可避となる死の宣告を下された3人は叫ぶ。
「そっそれは流石に……申し訳ございませんでした! この件はウチが1人で罪を背負うのでオカルト研究会に手出しはしないでください! この通りです!」
「文化系部活動統括委員長の予定に合わせると2日後ですが、風紀委員長がその日は出席出来ないので……4日後とかはどうですか?」
「そうね、出来れば2日後にしたいので風紀委員長に日程変更相談して……無理なら4日後にしましょう。堂山さん、風紀委員長に連絡してもらえますか?」
「わかりました」
ようやく手に入れた安住の地を略奪されかねない事態に英里子は土下座謝罪するが、足尾副生徒会長と堂山書記は淡々と事務手続きを進める。
「歴史研究会の皆さん、お時間いただきありがとうございました。緊急審議会の日程が決まり次第ご連絡しますので……部室の私物撤去を進めておいてくださいね?」
「はい、わかりました……英里子部長。帰りますよ」
「うぐっ……えぐっ……ウチの安住の地が、安住の地が……お前ら夜道に気を付けさせてやるからなぁ……チンピラに身ぐるみ剥がれても知らんからなぁ……」
美香の肩を借りて歩く英里子の鳴咽に混じる露骨な恐喝。美香がそれを止めさせようとしたその時、生徒会長室の扉が外から開く。
「生徒会長!?」「御鐵院(みてついん)さん!?」
「久方ぶりね、足尾に堂山。そしてオカルト研究会の皆さん、はじめまして……私は生徒会長、御鐵院 茜(みてついん あかね)です」
生徒会長室にやって来た180オーバーの鍛えられたスタイリッシュ長身で黒髪ロングヘアをポニーテールにした、壇条学院高等部女子生徒は5人に挨拶する。
「……いつ、お戻りに?」
「昨日、留学先のドイツから帰国したのよ。復学届申請に来たんだけど……お取り込み中かしら?」
「いえ、とんでもございません直ちに確認いたします! 堂山さん! 生徒会長にお茶をお滝れして!」
「その必要はないわ。私は緊急審議会の件でオカルト研究会の部室に向かうから後日取りに来ます」
「仰せのままに!」
副生徒会長のデスクに書類一式の入った封筒を置いた女性はそのまま生徒会長室を出て行き、探達3人にもついてくるように促す。
しばらくして、オカルト研究会部室。
「粗茶でございます、生徒会長……殿?」
「ありがとう、高等部1年生の華咲さん」
ソファー席に腰を下ろした生徒会長は美香に微笑む。
「御鐵院さん、お久しぶりです」
「探さん……わたくしその堅苦しいファミリーネームは好きじゃありませんの。せめて貴方だけは『あかね』とお呼びください」
(何なのこいつ! 先輩がいくらイケメンだからって初対面で名前呼び捨てを求めるなんてずうずうしいにも程があるわ! 私だってさんづけなのに……)
美香はわざわざ滝れてやったお茶に塩をたっぶり入れるべきだったと後悔しつつテーブル越しに対面着席する。
「さて、呉井さんに華咲さんはじめまして。私は先日ドイツ留学から帰国しました壇条学院高等部2年生にして生徒会長、御鐵院 茜(みてついん あかね)です」
茜は2人に自己紹介する。
「みてついん、みてついん……まさかとは思うけど、アンタあの世界的大企業ミテツイングループの関係者じゃないやろな?」
「ミテツイングループ?」
「ええ、そうです。ミテツイングループは金融、化学、物流、工業……全ての産業分野に携わるトップ企業を束ねる世界的大財閥の1つ。そして私はその創業家にして頭取たる御鐵院家に連なる者です。そして……探の婚約者よ」
茜は最後の言葉に顔を赤らめる。
「おいおいおい……冗談はホンマによしこさんやで、御鐵院さん。なんでアンタ程の雲の上に住まうような超上級人類がこんなアジアの島国のド田舎にあるチンケな私立学校に来とるんや? 世界中どこでもええガッコよりどりみどりやろ?」
「それより御鐵院さんに先輩……婚約者ってどういう事ですか?」
ショックのあまり目に涙を浮かべた美香は探と茜の両方を見ながら聞く。
「華咲さん、急に泣き出してどうしたの? わたくし何か悪い事を言いましたかしら?」
「いえ、おやつのハバネロポテチの辛さで今更のように涙が……ごめんなさい」
美香は涙をハンカチで拭う。
「ふぅん……辛い物の食べ過ぎは胃に悪いことですのよ、華咲さん。話をもどしますが、それにお答えするにはかつてこの迷処町に存在した武神・タメシヤ神様の伝承にまで遡らなくてはならないの。ご存じでして?」
(このクソアマ、ホンマむかつくわぁ……ウチこいつ嫌いや!)
トンデモ災厄女でも勝ち目のない資本主義経済における神・超大金持ち様を前に英里子は黙ってうなずく。
【第31話に続く】
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