ダンジョンマスター先輩！！（冒険に）付き合ってあげるからオカルト研究会の存続に協力してください！

第５０話

「スダスダスダスダスダスダスダ！」
「うおおおおおあぁっ！」
　肉体派五武神・チノミヤに反撃の隙も与えず打ち込まれ続ける探の蒼炎拳と須田丸のヴォルトアクセラートナックル。
　短時間の手合わせではあったが、敵の底知れぬ力を理解していた２人は最初で最後になるであろうこの攻撃チャンスで全てを終わらせるべく手加減なしのフルパワーで殴り続ける。
「ブレイズ……」「ヴォルト……」
　ほぼ同時に乱撃を止めた２人は大きく息を吸い込みつつ拳にマヨイガエレメントを一極集中。
『フィニッシュ！！』
　２人の炎雷掌撃をもろに喰らったチノミヤはそのまま突き飛ばされ、岩壁に激突し、上から崩れて来た岩塊と鍾乳石の下敷きになる。

「先輩！！」「須田丸君！！」
　美香と英里子は膝をついてしまった２人に駆け寄る。
「先輩……かっこよかったです！」
　いつもクールな先輩がワイルドオラオララッシュで荒ぶる様に胸のドキドキが止まらない美香は探に魔力・体力回復薬を差し出す。
「ありがとう、美香さん」
「須田丸君もグッジョブや！　はじめてであそこまで以心伝心連携出来るなんてキミ達ベストカップルちゃうんか？」
「お前たちがベッ、ベストカップル……だと！？」「ほぇ？」
　英里子が言わんとした事が理解出来なかった美香は顔を赤らめて手で覆い隠す茜に首をかしげる。

「ふむ、それは私も同感だな。実に素晴らしい連携技であったぞ」
「！！」
　瓦礫の中から聞こえた野太い声に5人はすぐに戦闘態勢に戻る。
「今のは中々効いたぞ、いい攻撃だったな……よっこらせ」
　マヨイガエレメント攻撃でも物理攻撃でもダメージを与えられない。
　ほぼノーダメージな五武神チノミヤが軽々と岩塊を投げ捨て、天丼から落ちて来た太い鍾乳石を軽々と押しのけて出て来る様にそれを確信した5人は一方的に嬲り殺される結末を覚悟する。

「そう身構えるな、若きもののふよ。我は無益な殺生は好まぬと申したはずだ。
　我もそなたらも戦はもう十分であろう……甘未は嫌いではないな?」
　そう言いつつ5人の前で四次元振り袖に手を入れたチノミヤは可愛い猫柄のピクニックシートを取り出して地面に敷き、続けて取り出したちゃぶ台上にお皿とフォークにティーカップを６セット、温かい紅茶入リティーボットとホールサイズショートケーキを置く。
「アフタヌーンティーを共にしようではないか、もののふよ」

(なんだかアリスのティーパーティーみたい……)
　荒ぶる五武神にミンチ撲殺される運命を回避し、共にアフタヌーンティーのテーブルに着いた壇条学院オカルト研究会メンバー。
　目の前に置かれた大きな６等分ショートケーキに温かい紅茶……この部屋に入った時点で誰もが予想出来るわけもない謎展開に現実逃避気味な美香は昔読んだ絵本を思い出してしまう。
(眠リネズミさんにイカレ帽子屋、マーチヘアー、アリス……うふふ)
　尻尾と耳が付いた茶色いまん丸もこもこヤマネ着ぐるみの英里子、シルクハットにツギハギスーツな茜、ロップイヤーうさ耳が生えた雲隠先輩と須田丸君、そして大きな赤いリボンに青いドレス姿のアリス美香。
　場違いながらも楽しい妄想をしてしまった美香は思わず微笑む。
(美香、我慢するんだ……絶対に手を出すな！)
　隣に座っていた茜はそんな美香を小突きながら耳打ちする。
(いえ、そういうわけでは……)
(とにかく今は動かない方がいい……ヤツは何を考えているかわからないぞ！)
　口ではそう言いつつも、茜の目線は魅惑的なまでに美味しそうなショートケーキにロックオンされており、膝の上の食指は18連打顔負けの俊敏なタップを続けている。
(緊急脱出さえ使えれば……！)
　明らかに一服盛られているケーキと紅茶に手を付けるのはもってのほかだが、この状況ではサポートスキルをこっそり使ってマヨイガダンジョンから緊急脱出するのも不可能。
　だからと言って不意打ちの類でどうにかなる相手でもない……それらを理解していた探はこの状況から逃れる術を模索し続ける。
「誰も食わんならウチ先にいただくで」
「えっ？」
　探が葛藤する中、迷うことなくフォークを手に取った英里子はショートケーキを一口食べ、紅茶をずずずと飲む。
(まさか……そういう事か！！)
　地のマヨイガ紋を持つ地乃宮の入場鍵となる英里子がここから戦死離脱する事で皆が強制離脱となるかもしれない……その可能性に気づき、自己犠牲の賭けに出た英里子を探は息を呑んで見守る。

【第５１話に続く】