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第52話
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8月末、夏休みが終わって2学期に入った壇条学院。
「みんな、久しぶ…… り?」
久しぶりのオカルト研究会部室に入ったゴブガミ顧間は部屋の隅に置かれた全長1・5メートル程の立派な水晶製千手観音像に息を呑む。
「おお、ゴブガミ久しぶりやね!」
英里子がハイテンションなのはいつもの事だが、この場にあるべきでない仏像に明らかにあの夏合宿のモノではない4人の立派な日焼けっぶり、そして2学期初日からぐったりと疲れ切った探と美香。
謎情報の大氾濫っぷりにゴブガミはフリーズする。
「ええと、この千手観音像ですけど……これは英里子ちゃんの夏体みの自由研究です。
お父様の3Dプリンターでプラモデルみたいに組み立てられるのを作ったそうなんですけど、あまりにも大きすぎて一人では組み立て不可能になって私と先輩も屋外での組み立て作業と学校への運搬を手伝ったんですけど……あまりにも立派すぎるからSSS評価しちゃう! けどここに置くべきじゃないなって美術の先生に受取拒否されてひとまずここに運んで来たんです」
「へえ、そうなんだ……これ要するにプラモデルなんだね。写メしていい?」
「ああ、構わんよ。たんと撮ってくれや」
スマホを取り出したゴブガミは夏の照り付ける日差しの中、 1/1スケール千手観音像プラモデルの屋外組み立てを頑張った3人とこれを作ってしまった英里子の芸術的センスに驚嘆しつつカメラに収める。
「私は夏休みの後半、父にとある海外セレブご子女のおもてなしを命じられ、とある海外高級リゾート地でマリンスポーツにアウトドアアクティビティ三味……そのせいですっかり日焼けしてしまったの。
よくある夏休み明けでヤンキー不良ギャル化する優等生とかではないのよ」
「数十年前の学園モノじゃあるまいし、いまどき夏体み明けで黒ギャル化する優等生なんておらんわ。このデカチチホルスタ院め」
「茜さん、どんな事をやったんですか!?」
英里子の息を吐くような暴言で不毛な喧嘩が始まるのを阻止した美香は茜に聞く。
「ええ、サーフィンは場所と波的に無理だったけどボードに立ってパドルで漕ぐスタンドアップパドルに水圧で空を飛ぶフライボード、スキューバダイビング……今度見せても大丈夫な写真をゆっくリスマホで見せてあげるわ」
美香と話していた茜は部活動の主目的を思い出し、すぐにスマホをしまう。
「そういえば須田丸君は?」
「ああ、それならボクと英里子ちゃんの所にメールが来てたよ。『今日はシマを巡るヘッド決闘で参加できない。しばらく連絡もつかないだろうから進めてくれ』だってさ」
「……それって、放置していいんですか?」
数十年前のヤンキー漫画のような欠席理由に美香は思わず突っ込む。
「うん、まあいいんじゃないの? それはさておきチノミヤ君が君達に渡してくれだってさ!」
そう言いつつゴブガミがバインダーの間から取り出したのは折りたたまれた厚みのある和紙に墨筆で書かれた書状だ。
「あの……何て書いてあるんですか?」
ワープロ文字に慣れ親しんだティーンエイジャー4人は古文書でよく見る立派な花押付きの達筆に戸惑う。
「私なら読めるかもしれない……ええと……」
茜は手紙を広げ、古文を現代文に同時翻訳しつつ読み上げる。
『もののふ方へ
先日の手合わせ、実に見事な連携で我も大変満足であった。
さて、和睦茶会の折に言っていたカミイクサの件だが一つ提案がある。
我が司るは大地のマヨイガダンジョン。故にチノモノ英里子殿と我が創造した『ごぉれむ』に各々搭乗して相撲を取り、それで決着を付けると言うのはいかがであろうか?
これであれば我が鍛えすぎた肉体に関係なく勝負となるであろう。
ご検討のうえ以下に返信願う。
メールアドレス:Chinomiya_Gobushin @〇〇〇〇.cum
チャットアプリ:Chinomiya_Gobushin_chat
電話番号(携帯):〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
五武神チノミヤ』
「……あの人メールアドレスと電話連絡先のみならずチャットアプリのアカウントまで持っとったんやね。」
手紙の最後に細筆で繊細に書かれたアルファベットと漢数字の連絡先リストを見つつ英里子はため息をつく。
「パティシエ修行で人間界を出入りしているって言うぐらいだからねぇ……就労の際に必要だったのかしら?」
「この件は深入りしないほうがよさそうですね、先輩」
「ああ、そうだな」
探と美香は顔を見合わせてうなずく。
「お2人さんは相変わらずラブラブやね。で、この勝負自体はどうしよ?」
英里子はスマホとチャットアプリに連絡先登録しつつ3人に聞く。
「……どうもこうも、主体になるのは英里子ちゃんだからなぁ」
「あの、キミ達。その件についてなんだけ……」
「じゃあウチが決めるで『ウチは逃げも隠れもせん。かかってこいガッデム』……っと」
「英里子ちゃん?」
「ほな、完了や」
英里子が見せたチャットアプリ画面にはチノミヤのアカウントに向けて中指を立てる猫スタンプ付きの宣戦布告メッセージが送信済み表示されている。
【第53話に続く】
「みんな、久しぶ…… り?」
久しぶりのオカルト研究会部室に入ったゴブガミ顧間は部屋の隅に置かれた全長1・5メートル程の立派な水晶製千手観音像に息を呑む。
「おお、ゴブガミ久しぶりやね!」
英里子がハイテンションなのはいつもの事だが、この場にあるべきでない仏像に明らかにあの夏合宿のモノではない4人の立派な日焼けっぶり、そして2学期初日からぐったりと疲れ切った探と美香。
謎情報の大氾濫っぷりにゴブガミはフリーズする。
「ええと、この千手観音像ですけど……これは英里子ちゃんの夏体みの自由研究です。
お父様の3Dプリンターでプラモデルみたいに組み立てられるのを作ったそうなんですけど、あまりにも大きすぎて一人では組み立て不可能になって私と先輩も屋外での組み立て作業と学校への運搬を手伝ったんですけど……あまりにも立派すぎるからSSS評価しちゃう! けどここに置くべきじゃないなって美術の先生に受取拒否されてひとまずここに運んで来たんです」
「へえ、そうなんだ……これ要するにプラモデルなんだね。写メしていい?」
「ああ、構わんよ。たんと撮ってくれや」
スマホを取り出したゴブガミは夏の照り付ける日差しの中、 1/1スケール千手観音像プラモデルの屋外組み立てを頑張った3人とこれを作ってしまった英里子の芸術的センスに驚嘆しつつカメラに収める。
「私は夏休みの後半、父にとある海外セレブご子女のおもてなしを命じられ、とある海外高級リゾート地でマリンスポーツにアウトドアアクティビティ三味……そのせいですっかり日焼けしてしまったの。
よくある夏休み明けでヤンキー不良ギャル化する優等生とかではないのよ」
「数十年前の学園モノじゃあるまいし、いまどき夏体み明けで黒ギャル化する優等生なんておらんわ。このデカチチホルスタ院め」
「茜さん、どんな事をやったんですか!?」
英里子の息を吐くような暴言で不毛な喧嘩が始まるのを阻止した美香は茜に聞く。
「ええ、サーフィンは場所と波的に無理だったけどボードに立ってパドルで漕ぐスタンドアップパドルに水圧で空を飛ぶフライボード、スキューバダイビング……今度見せても大丈夫な写真をゆっくリスマホで見せてあげるわ」
美香と話していた茜は部活動の主目的を思い出し、すぐにスマホをしまう。
「そういえば須田丸君は?」
「ああ、それならボクと英里子ちゃんの所にメールが来てたよ。『今日はシマを巡るヘッド決闘で参加できない。しばらく連絡もつかないだろうから進めてくれ』だってさ」
「……それって、放置していいんですか?」
数十年前のヤンキー漫画のような欠席理由に美香は思わず突っ込む。
「うん、まあいいんじゃないの? それはさておきチノミヤ君が君達に渡してくれだってさ!」
そう言いつつゴブガミがバインダーの間から取り出したのは折りたたまれた厚みのある和紙に墨筆で書かれた書状だ。
「あの……何て書いてあるんですか?」
ワープロ文字に慣れ親しんだティーンエイジャー4人は古文書でよく見る立派な花押付きの達筆に戸惑う。
「私なら読めるかもしれない……ええと……」
茜は手紙を広げ、古文を現代文に同時翻訳しつつ読み上げる。
『もののふ方へ
先日の手合わせ、実に見事な連携で我も大変満足であった。
さて、和睦茶会の折に言っていたカミイクサの件だが一つ提案がある。
我が司るは大地のマヨイガダンジョン。故にチノモノ英里子殿と我が創造した『ごぉれむ』に各々搭乗して相撲を取り、それで決着を付けると言うのはいかがであろうか?
これであれば我が鍛えすぎた肉体に関係なく勝負となるであろう。
ご検討のうえ以下に返信願う。
メールアドレス:Chinomiya_Gobushin @〇〇〇〇.cum
チャットアプリ:Chinomiya_Gobushin_chat
電話番号(携帯):〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
五武神チノミヤ』
「……あの人メールアドレスと電話連絡先のみならずチャットアプリのアカウントまで持っとったんやね。」
手紙の最後に細筆で繊細に書かれたアルファベットと漢数字の連絡先リストを見つつ英里子はため息をつく。
「パティシエ修行で人間界を出入りしているって言うぐらいだからねぇ……就労の際に必要だったのかしら?」
「この件は深入りしないほうがよさそうですね、先輩」
「ああ、そうだな」
探と美香は顔を見合わせてうなずく。
「お2人さんは相変わらずラブラブやね。で、この勝負自体はどうしよ?」
英里子はスマホとチャットアプリに連絡先登録しつつ3人に聞く。
「……どうもこうも、主体になるのは英里子ちゃんだからなぁ」
「あの、キミ達。その件についてなんだけ……」
「じゃあウチが決めるで『ウチは逃げも隠れもせん。かかってこいガッデム』……っと」
「英里子ちゃん?」
「ほな、完了や」
英里子が見せたチャットアプリ画面にはチノミヤのアカウントに向けて中指を立てる猫スタンプ付きの宣戦布告メッセージが送信済み表示されている。
【第53話に続く】
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