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第58話

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 地乃宮ゴーレム相撲会場。もののふチーム控室。
「御鐵院さん、開けられますか?」
「須田丸君、飲ましたるわ。ほれ、あ―ん」
 探と英里子はエレメント支援技でもののふチームを勝利に導いた立役者達に魔力・体力全快薬を差し出す。
「ありがとう、探さん……いただきます」
 茜は探がわざわざ瓶の蓋を開けて差し出してくれた回復薬を味わいつつ飲む。
「……ありがとな、姉ちゃん」
 須田丸は回復薬の瓶を開け、飲みやすいように曲がるストローまでも用意してくれた英里子に感謝しつつちうちうと吸う。
「ミズノモノ様、大丈夫ですか……」
 そんな中、最終決戦のラウンドガール衣装に着替えたマーメイド・エレミィは毛布を被って体を温める美香を気遣う。
「ありがとう、エレミィちゃん……一応私、マヨイガエレメント使いとして耐性はあるはずなんだけど……流石に氷の中に長時間いるのはキツイわあ。でも私が左半身アイスゴーレムとなって、先輩のマグマゴーレムとの熱量バランスを取らないと……」
 毛布にくるまって震える美香はむりやり立ち上がろうとする。
「美香ちゃん、風邪を甘くみちゃアカン。 ウチのじっちゃもばっちゃも軽い風邪を放置して肺炎になって大往生したんやで……あんたに何かあったら雲隠さんが悲しむやろ?」
「……うん」
 大好きな先輩を引き合いに出された美香は反論すらできない。
「なあ、デカチチ人魚さん。次の『体』の相撲は殴り合いなんだろ?」
「はっ、はい。そうです」
 須田丸のぶっきらぼうな物言いにいつもの胸巻き一枚ではなく人間上半身にきらびやかなラウンドガール衣装を着ていたエレミィは胸を手で隠す。
「英里子姉ちゃん、華咲さんと雲隠アニキの幸せな未来を守るために次は俺と相乗りしてくれないか?」
「須田丸君、何を言い出すんや!? ウチと君が2人っきりで相乗りだなんて、まだウチ……覚悟が」
 ド厚かましさと傍若無人要素を煮詰めて臼と杵でつき固めたような英里子が恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてもじもじする乙女っぶりにもののふ3人と人魚族の少女は思わず自身の頬をつねってしまう。
「わからなくて怖いのは俺も同じだ! 姉ちゃん頼む、今、俺がみんなのために出来る事はこれしかないんだ! たのむ、俺の漢を立ててくれ!」
 須田丸は平身低頭、叩頭の礼で頼み込む。
「……そこまで言うならええよ。ウチもあんたも一緒に幸せになろうな?」
「……? ああ、もちろんっすよ!」
 真剣な表情の英里子に須田丸は威勢よく答える

(あのぉ……チノモノ様とナルカミノモノ様は放っておいていいんですか?)
 ホワイトボードを前にゴーレム改良計画を練る探と須田丸、英里子を見守るエレミィは隣の美香と茜に小声で呟く。
(エレミィちゃん、どういう意味?)
(放っておくも何も…… 2人共幸せそうでなによりだと思うが?)
 コイバナのいろはすら分かっていないお子ちゃま女子2人にエレミィは思った。
 雲隠様には申し訳ないが後が面白そうだから余計な事言わんでおこう……と。

『レディース・エーンド・ジェントールメェン 待たせたな!』
『泣いても笑ってもこれが最後! 最終ごぉれむ相撲開幕だあぁぁ!』
「うおおおお!」「もののふ様がんばれぇ!」「ウッキィィィ!」
「チノアメフラセ! チノアメフラセ!」「エレミィチャン、オレノヨメ!」「イヤ、オレノヨメ!」「オマエラ、オレ、センソウダ!」「バカ! アノコノタメニアラソウノハヤメロ!」「ミンナノヨメダロ!」
 土俵上でにらみ合うもののふ達と五武神チノミヤ、そして『ROUND THREE READY』のプラカードを掲げて周回するラウンドガール・エレミィの魅惑的なくびれ腰と人間上半身のピチピチ美少女っぷりに興奮MAXな三魔物族は大歓声を上げる。
『……人工知能の根幹を揺るがしかねない発言が空耳ではないレベルで聞こえてくるのはさておき……最後のカミイクサ『体』は純粋な拳での戦いとなります!』
『東西双方ここまで1勝1敗。さあ、勝利の女神が微笑むのはどちらでしょうか!?』
『さあ、ゴーレム創生搭乗願います!』
「うおおおお!」「行くでえぇぇ!!」
 チノミヤと英里子が各々の魔力で作り出した岩塊は主を囲う壁を形成し、そのまま強固に結合しあって人型搭乗兵器を形成していく。
『おおっと、チノモノ様! 今回は溶岩と氷の合わせマヨイガギガンテスではないぞ。
普通の岩だけのゴーレムだ!』
『流石はもののふ様だ! 武士道精神に乗っ取って同じ土俵で単騎決戦に持ち込むと言うのかあ!?』
 英里子が大地のマヨイガエレメントのみで創造した10数メートルの岩巨人を見上げる司会者コンビは叫ぶ。
『ガンモ、サツマ。単騎決戦は違うぞ……土俵外のもののふ様方をよく見ろ』
『村長殿…… ? おや、よく見ると火、水、風の御三方しかいないぞ!』
『つまりあのゴーレムにはチノモノ様とナルカミノモノ様が身を寄せ合って搭乗なさっていると言う事なのか!?』
『それはセクハラやで、おでんコンビ!』
『えっ、ええと『せくはら』に『おでん』でございますか? それはどのような意味で……』
 ゴーレム内でこの実況を聞いていた英里子の反論に司会者コンビは顔を見合わせる。
『ふむ、おでんと言うのは人間界の料理の一種で……』
『そこの老人、解説せんでええわ! 早う始めんか!』
「そうだ、そうだぁ!」「がんばれエリコ様ぁ!」「ウッホ、ウッホ、ホオイ!」「ドツチモガンバレ! ドッチモガンバレ!」
 英里子の絶叫に観客席から催促の声が上がる。

【第59話に続く】
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