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第71話

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『雷神神技・雷雲招来!』
 ライが腰巻の中から取り出した小ぶりなひも付き和太鼓を首にかけ、ばちで叩き始めると、上空に黒いモヤモヤが発生して1つの雲塊となってむくむくと巨大化。
 そのまま分厚いコロッケのような形になったそれは創生者の手招きに応じて浮島地面上に降りて来る。
「さあ、もののふ様方。どうぞ中央にお乗りください」
 現実世界はおろか、今までのマヨイガでも見たことがない黒い塊に驚きつつもマヨイガ探索隊の5人はふかふかなその謎塊上に乗る。
「姉さま、後ろは頼みますよ」
「おう、任せな!」
 妹のライはおっかなびっくり状態で固まったもののふ5人達の前に座り、姉のフウは布袋を持ったまま後ろにあぐらをかく。
「よっしゃあ、行くぞお!『式神神技・ウィンドジェットブースター!』」
 フウが袋の口紐をほどいた瞬間ものすごい風が中から噴き出し、巨漢男女3人と4人の準標準体型の男女を乗せた黒雲は一気にリフトオフする。
「先輩、飛んでます! 私達飛んでますよ!!」
「ああ、すごい! こんなの初めてだ!!」
 雷様の如く黒雲に乗り強風で空を飛ぶと言うエクストリームスポーツ体験に探の腕にしがみついた美香はヤケバチと興奮が混ぎった声で叫ぶ。
「おっ、おう……これはすごいのぅ。まさか某有名漫画の如く筋斗雲に乗れる日が来るなんて……長生きしてみるもんやね、須田丸君!」
「……」
 小動物の如く怯えて震える英里子姉ちゃんに抱きつかれると言う初経験と筋斗雲で空中飛行すると言う摩詞不思議アドベンチャー展開にピュアヤンキー須田丸はずっしりとあぐらをかいたまま気絶している
「なぁ、カゼノモノさん……あんたそう言う趣味があるの? あたしみたいな胸も無くてガサツな粗暴女でいいなら構わないけどさ、妹もアンタの仲間も見てるんだぜ……流石に恥ずかしいよ。こういうのは2人っきりで……だろう?」
 5人と言う人数の都合上、安全確保も兼ねてしがみつく相手にあぶれてしまった茜に後ろからハグされている式神・ライは暴風を吐き出し続ける袋の口を掴んで的確に噴射制御しつつも顔を赤らめる。
(吊り橋効果でいちやつくバカップル共はさておきとして、姉さまが人間の女でそっちに目覚められては困りますわ! 次からはもう数回り大きくして座席を5名分つくらなくては……んっ、あれは何かしら? あんな浮島配置は……していないはずだが?)
 高速飛翔体の障壁となる空気の壁や様々な飛来物から皆を守るために黒雲塊を覆うように張ったマヨイガ神技・電雷防壁を維持しつつそんな事を考えていた式神ライ。
 そんな彼女は目の前に突如出現した小さな浮島に注目する。
「あの小島、鳥居がありますよ? あれが最深部なんですか、ライさん?」
 ライが注視する物に気が付き、その中央に建てられた鳥居に気が付いた美香。
「いや、まだもう少しかかるはずだが……何故あんな場所に風ノ間に至る鳥居が突如出現したのだ?」
「まさかいつものダンジョンの構成エラーってやつか!?」
「今はどうでもええわ! とにかく止まるかあの中に飛び込むか決めんとアカン!」
「もう加速ついてアタシも止められねぇよ! どのみち不時着だあ!」
 眷族式神も予期せぬ事態にパニックになる中、もののふ5人のステータス画面が勝手に開く。

『ゴブガミ先生のマヨイガ探索tip vol.11
 人を待たせる悪い子の諸君! 以前話したかもしれないけどマヨイガ五武神は自身が司る宮のオブジェクトをマ○ンクラ○卜の如く自由に動かして配置出来るんだ!
 それはカミイクサの入場門となる鳥居も同じ……グッドラック!!』
「姉さま、減速を! 私は耐衝撃防壁維持に努めます」
『エレメントプラス・トルネード!!』
 どう転んでも鳥居を通って風ノ間に不時着する事が確定した高速飛翔体。防壁を維持しつつ姿勢制御する式神ライと風袋の口と角度を調整して落ちない程度に減速する式神フウをサポートするべく茜は渦巻く風の壁で二重防壁補強する。
「ナイスですわ、カゼノモノ様!」
 ライは茜のおかげで安定制御姿勢になった黒雲の船首を鳥居に向ける。

「こんな真夜中に美少女5人&野郎2人とはずいぶんな大所帯で…… トイレは裏だぜ、急ぎな」
「……真夜中ちゃうわ、アホンダラア。殺す気か、コラア!!」
「ゴブガミ先生、それ何のネタですか……」
「昔姉ちゃんとやったジョイステーション2のグームで間違いないわ、懐かしすぎんだろ……あんたいくつよ?」
 鳥居に滑り込み、カミイクサの場となる巨大平原浮島に無事に不時着した式神2人とオカルト研究会メンバー。地面に寝ころんで積み上げた少年漫画雑誌を読みつつ7人を待っていた白狩衣に烏帽子、白仮面の若い男に英里子は噛みつく。
「ははっ、それもそうだね……ボクも善良な教師として君達を補導したくはないからそういう事にしておこう!」
 五武神カゼノミヤは四次元振袖に漫画雑誌を押し込むようにしまうと、立ち上がる。
「おほん……壇条学院オカルト研究会、マヨイガ探索隊の諸君! よくぞここまでたどり着いた! 我が名はカゼノミヤ、風乃宮を司る武神である!」
 専用武器と思われる『風』の紋所入りの大扇をばっと広げ、ノリノリで口上を述べる五武神カゼノミヤに5人は武器を構える。
「君達の実力はここまでの戦いで十三分にわかった……その熱意と胆力、力への意思に敬意で応じるべくボク……いや私も数百年ぶりに真の姿でお相手いたそうぞ! 変・身!」
 目にも止まらぬ神速九字切りからの某レジェンド昭和特撮ヒーローを思わせる決めポーズ。ゴブガミを中心に渦巻き、荒れ狂う竜巻で揺れ動く大地に5人は顔を覆う。
『キェェェェェェェェェェェェェッ!!』
 突如鳴り響く空を切り裂くような鋭い音に目を向けた5人は信じがたいモノに言葉を失う。

【第72話に続く】
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