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第92話

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「ここは……部室じゃない?」「あんときの部屋のようやな」
 ぞろぞろと神ノ間に入ってくる壇条学院オカルト研究会メンバー達。
「おお、もののふ等よ、よくぞ戻った……無事で何よりじゃ!!」
 通常はフェーズ2となる五災だけで終わりとなる最終カミイクサ。
 精神力を試す過酷な隠しマヨイガダンジョンで『己』を乗り越えて生還した五人に駆け寄ったタメシヤノミコト様はその手を取り、その胆力と武心を祝福する。
「あっ、はい…… うん?」
「どうしたのじゃ、雲隠よ? 皆の者も心ここにあらずのようだが……何かあったのか?」
「いや、ただ単にどっと疲れたんすよ、御鐵院は何かあったか?」
「いや、私も無いが……お前たちはどうだ?」
「私も特に……?」「ウチも同じや」
 タメシヤノミコト様の姿を見て思い出しかけた何か、何かでしかない何かを思い出せない違和感に5人は必死で思い出そうとするが、疲労困憊の脳はまともに動かない。

「うむ、あの試練は身も心もすり減らす最難関……生きて戻っただけで御の字じゃ!
 若きもののふらよ、よくぞ我らの試練を乗り越えた!
 新たな冥加を与えられしそなたらに褒美を与えねばならぬ!! 眷族らよ、宴座を用意するのじゃ!!」
 部屋の隅に控えていたタメシヤノミコト様の眷族魔物・埴輪兵達は手早く10枚の座布団を敷き、古今東西山海の珍味を網羅した豪華な料理が盛りつけられた足つき膳を運んでくる。

「美味しいですね、先輩!!」「うん、本当に美味しい!」
 紅白の刺身を味わう美香と探。
「まさかお膳でビフテキが食えるとは……驚きだぜ!しかも最高に旨い」
「ぎょうさん食うんやで、須田丸君!!」
 和風の膳でありながら薫ばしいビーフステーキが出て来た事に驚く須田丸をにこやかに見守る英里子。
「はあ、出汁が染み渡る……」
 可愛らしい手毬麩が入った汁物を味わう茜。
「うむ、実に良い食べっぷりである……わらわも久方ぶりの宴で大満足ぞよ!
 さて、これはマヨイガの試練を達成した証となる『迷処玉(まよいがぎょく)』である。受け取るがよい」
 最終試練に挑むもののふに与えられる『武心玉』がマヨイガの儀を達成せし者の力に呼応し、一心同体になったことで完全化した『迷処玉』。
 ミニ埴輪が運んできた各々のマヨイガエレメントカラーを放つ玉を受けとった5人は中でうねっていた黒い文字のようなモノが読める状態である事に気づく。
「僕のは『武』だな」
「私のは『愛』です、先輩」
「ウチのは矢に口の下に日の『智』や」
「俺のは『剛』だな」
「私のは……『弓』か」
「うむ、どれも立派ではないか! 実に素晴らしい!! これはわらわよりそなた等に与えられし尊き詔である。これよりそなたらはその文字を入れた名に改めるがよいぞ」
「私は美香だから……愛美香(えみか)ですかね。まだ未成年だから名前を変えるのって両親の同意が必要でしたっけ?」
「僕は武探(ぶたん)になるのかな……どっかの国名みたいだなぁ」
「俺の場合、剛田丸(ごうだまる)とかかなあ……? でも神様にいただいた文字だとは言え亡き親父にもらった名前を変えちまうのはなあ……今の親父はとにかくとしてお袋はいい顔しないだろうなぁ」
「タメシヤノミコトさん、お気持ちはうれしいんやけど……ウチら未成年やから改名って勝手にできひんのや。ウチは智英里子(ちえりこ)やから『チェリーちゃん』なんてファンシーなもんおとんもおかんも許してくれへんで?」
「そうであろうな……わらわも人間界事情はチノミヤから聞いておる。
 わらわも一応言っては見たが無理に名を改めろとは言わんし、この泰平の世で武神の加護が無用の長物なのは重々承知。どの道そなたらが入っておらねばこのマヨイガ世界はもう既に消えておったのじゃ、気にするでない」
「消える? どういう事ですか?」
「そのままであるぞ、ミズノモノ。わらわや五武神と共に生きてきた現世に住まう雲隠の血筋も御鐵院の血筋もほぼ全て絶え、残っているわずかな者共もわらわ達の冥加に頼ることなく一人で生きておる。
 それが無くともわらわ達のような戦神はもうこの世界に必要が無いのは明白であったのじゃ。それをわざわざ残しておく理由がどこにあるかのう?」
「……」
 明るい口調ながらも急にヘビーな話になり、5人は黙り込む。
「おっと湿っぼくなってしまったな……そこで今回はそなたら5人の願いを1つずつ叶えてやろうと思っておる。望むままに申すが良い。」
「そんな事が出来るんですか!?」
「うむ、世界征服とか不老不死のような無茶な物はさておき常識の範囲内であれば八百万の神々に頼めばある程度は可能である。なんなりと申すがよい」

「じゃあ私は……雲隠先輩のお嫁さんになれるように確約してください!!」
「うむ、それは可能じゃ」美香の可愛らしい願いにタメシヤノミコト様は微笑む。
「私は……ミテツイングループの繁栄なんてのは願うまでも無いな。
 そうだな、どんな形であれ嫁ぎ先となるオウル家で幸せになれるように出来るかな」
「……うむ、それはわらわ一人では無理じゃが八百万の神々に協力を頼もう」
 主の傍に控えていたチノミヤノミコトは手早くメモを取る。
「俺は今のクソ親父から離れて一人で自立したいぜ!!」
「ウチはアーティストとして成功したいで!!」
「うむ、それならば可能である……さて最後となったが雲隠の末裔よ。そなたは何を望む?」
「……なんでもいいんですよね?」
 最初から考え込んでいた探はタメシヤノミコト様に再確認する。
「うむ、先ほど申したように例外はあるが金銀財宝、子宝、権力……どんな願いでも八百万の神々に可能な範囲で叶えてしんぜようぞ」
「じゃあ……このマヨイガ世界をそのまま残してもらうと言うのは可能ですか?」
 探の予期せぬ言葉に神々は息を吞む。

「うむ、それは出来ぬことはないが……本当にそれでよいのか?」
「ああ、ただし永久にとは言わない……僕や皆が生きている間は少なくとも残しておいて欲しい。そして僕のような事故が起こらないように保全管理を徹底し、必要があれば僕達オカルト研究会マヨイガ探索隊メンバーも手助けする」
「……」
「皆、僕のわがままにどうか付き合ってもらえないだろうか……この通りだ」
 皆の了承も無しに勝手に話を進めてしまった探は改めて頭を下げる。
「そんなのもちろんOKですよ、先輩!!」
「アニキの頼みとありゃぁ断れねぇな……姉ちゃんもそうだろ?」
「せやね、ウチもこんな楽しい場所にもう二度と来れんなるのは寂しいし嫌や……問題無いで雲隠リーダー」
「雲隠、私も御鐡院の名の下に生涯協力することを約束しよう」
「ありがとう、みんな。タメシヤノミコト様……どうか私と皆の願いを聞き入れてもらえますでしょうか?」
 壇条学院オカルト研究会、マヨイガ探索隊の5人は丁寧に頭を下げる。

「そうか、そうか……そこまで申すのであれば。その願い、是非とも聞き届けようぞ」
 本当はそうしたかったのじゃ……最後の最後で粋な計らいに救われたタメシヤノミコト様の口からその言葉が出る代わりに感涙が頬を伝う。
「皆の者……オカルト研究会に祝杯を!!」
「もののふに乾杯!!」「乾杯!!」
 五武神とタメシヤノミコト様の祝杯が若きもののふ達を称える。

【最終話・EPILOGUEに続く】
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