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第二章 シボラ商会

第三十九話 騎兵隊

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 門の外で班分けをした後、それぞれ別の方法で町に入る。
 バラム班は買い物をするし陽動も兼ねた役割だから、普通に入市税を払って旅人として町に入る。

 モフモフ班とフルカス班は姿を消して侵入する。
 と言っても、男爵領とは違って魔物の脅威が少ない子爵領は、景観を優先して簡単な柵しか設置していない。

 『どの宿からも雄大な自然を御覧になれます』という謳い文句で集客し、辺境伯領から南方伯爵領へと続く街道の休憩地として財をなした。
 税金の払いも良かったこともあるが、経済を潤滑にさせた功績により子爵位を賜る。

 ――が、子爵位を賜ってすぐに男爵家ができるきっかけの事件が起きた。

 辺境伯領へ行く商人が激減し、それに比例して税収も激減することに……。
 しかも、子爵位になったことで税金が増額していたことの影響して、ニコライ商会が男爵家に来る前の男爵家のような状態だったらしい。

 しかし、現在は国内有数の観光地になっている。
 さらにいえば、領都を含む湖一帯は少し前まで『バカラ子爵領』と呼ばれていた。

 そう。ママンの実家だ。

 国の領土が何故隣の子爵領に併合されることになったのか、不思議でたまらない。
 ゆえに、今回の救出任務で丸裸にしたい。

「ちょっと急ごうか! フォーメーション騎兵!」

「「騎兵?」」

 ツーカーの仲であるメイベルもさすがに分かるまい。

「ちょっと失礼して」

「――ちょっと! か、カルム!?」

 ユミルを背負ったままメイベルをお姫様抱っこする。
 神父様には棒状の魔霊樹にブランコのような椅子が固定されたものを用意し、座るように促した。

「……なぁ。この浮いた棒はどうするんだ?」

「騎兵なんだから、騎獣が引きます。声を出さず力を抜きつつ、しっかり掴まっていてください!」

「わ、わたしは!?」

「ユミルの可愛い顔を見ていればいいよ!」

「グァ♪」

 グリムの能力の一つに【不可視】というものがある。祝福の儀式を受けるまで大活躍していた能力だ。
 グリムに接触しているものにまで効果範囲を拡大させられるらしく、物を使って間接的に接触させることで、神父様にも効果を拡大させることにした。

 ただ、急ごしらえだから座面が不安定なのだ。
 頑張ってしがみついて欲しい。

「ふむ。では、私たちも真似しよう。ゲイルは私が、カーティルはラルフを頼みます」

「はっ」

 フルカス班のフォーメーション騎兵は、普通のおんぶだった。

「うーん……絵面が……。まぁいいか!」

 ゲイルとラルフが人形のように表情を消して動きを止めているが、内心では嵐が吹き荒れていることだろう。

「じゃあ行くよー!」

「グァ♪」

「――うっ!」

 精一杯声を出さないようにしていた神父様だったが、どうやら最初の手荒い離陸だけは声が漏れてしまったようだ。
 まぁ仕方ないよね。【観念動】使ってないから吹っ飛んだ感覚になっているはず。

 全部終わったらシスターに癒してもらいたまえ!

 ◇

 屋根の上を姿を消して移動したおかげで、あっという間に領主邸に到着した。

「場違いなほどデカいな……」

 宮殿といっても過言がないレベルの領主邸に呆れつつ、同時に捜索に時間がかかりそうだと気が滅入る。

『こういうときこそ【如意眼】ですよー。透視で建物の構造を把握しー、念写で残留思念を読み取りー、過去視で出来事を把握するー! 名探偵カルムの誕生ですー!』

『なるほど!』

 ふむふむ。やっぱり地下はあるよね。
 一番近い入口は……領主の自室か。

 三階にある領主の自室の窓に近づき、神父様の体を掴んで【魔導眼】を発動する。
 室内に侵入した後は、警報器を鳴らさないように隠し扉を開ける。

 【死天眼】の封印で警報装置を隔離した状態で、死蔵している解錠を使用してピッキングした。
 専用鍵で開けなければ警報がなるが、開けてしまえば警報は解除される術式だから、一度開ければ大丈夫だ。

 でなければ、内側から開ける度に警報が鳴ることになるからね。

 まずは三階分の階段を降り、地下室への入口へと向かう。
 工場か何かは不明だが、広めの空間の隅に地下室への入口があるらしい。
 当然、扉の近くには兵士の詰め所があるけど。

 どうするかな? と考えている間に、【虚空蔵】の並列思考を使って現在いる場所が何に使用しているかを、【如意眼】で調べてみた。

 結果、ここは奴隷工場であること判明する。

 蛙の皮を欲しがった理由も、加工しやすそうということと、仕入れ単価が安く済みそうだと判断したからだ。
 蛙の肉も奴隷の食事に使えるという、まさに奴隷商からしたら夢の素材である。

 領主は裏カジノを経営しており、気に入った女性を見つけると本人または家族に借金を負わせて、借金奴隷という合法奴隷で登録させる。
 その後、領主邸の高額の仕事を斡旋させて契約を結び、様々なことを強要する。

 満足したあとは、領主が経営する高級宿の女性スタッフとしてNGなしで仕事をさせるのだ。
 裏カジノも奴隷商も領主も全てがグル。
 そしてここは首輪工場であり、地下室は大人のアミューズメント施設だ。

「……胸糞悪っ!」

 思わず口から出た言葉に兵士が反応する。

「ん? 何か声が聞こえなかったか?」

「誰が来るんだよ?」

「例のシスターを救出に来たのかもしれんだろ?」

 君、大正解!

「あぁ……。いつになったらお手つき解禁になるんだ?」

「神官騎士の誅伐が成功した後に、まずは神官騎士に譲渡される。そのあとはあちらさんの気分次第だろ」

「そういえば良家のお嬢様なんだっけ?」

「らしいな。まぁ出世の道具だよ」

 ふむ……誅伐?

「でも一瞬で興味がなくなるかもな」

「だなぁ。純潔は汚さないと約束したけど、何もしないとは約束してなかったからな」

「くくくっ! 本当にうちの領主様の非道っぷりと言ったら……!」

 最初は奴隷にして連れて行こうと思ったけど、彼らには別のことをしてもらおう。

「メイベル、隠形で姿を隠していて」

「うん」

 メイベルを降ろして、ユミルと二人で詰め所にいる三人の兵士のところに行く。

「君たちを蛙大臣に任命する」

「「「――はっ!」」」

 姿を現して注目を集めると同時に、【邪眼】の隷属を使用する。
 絶対的な実力差がないとかかりにくいらしいが、抵抗されることなく深くかけることができた。

「湖にいる蛙を養殖しなさい」

「「「はっ!」」」

「次に、地下室の鍵を渡しなさい」

「「「はっ!」」」

「うむ。ご苦労。戻るまで誰も通さないように」

「「「はっ!」」」

「行くよー!」

「グァ!」

「う、うん」

「な、何が……?」

 ユミルだけがテンション高く返事をし、メイベルと神父様は兵士の豹変具合に驚愕していた。

 なお、グリムから返事がない理由は、グリムには余裕がないからだ。
 ブランコを扉にぶつけないように気をつけながら、低空飛行で移動しているからである。

 神父様も足が地面に着かないように真っ直ぐ前方に伸ばすという、微妙な協力をしていた。
 個人的には足を畳めば? と思わなくもない。

「言っちゃ悪いけど……臭い」

「グァ……」

「ユミルちゃん、大丈夫?」

「グァ……」

 地下室は何があるか分からないから、メイベルには降りて走ってもらっている。
 フォーメーション騎兵では慣れないせいで大人しかったが、今はユミルを気遣う普段のメイベルに戻っていた。

「――見つけた」

 鉄扉のようなものはなく、鉄格子という中が丸見えの広い牢に入れられているようだ。
 衣服が裂け、肉体に血が滲んでいる。
 さらに、膿んでいたり欠損を負っていたり。
 顔など辛うじて原型が分かる程度まで痛めつけられていた。

「……酷い」

「ア、アリア……! アリア!」

「あっ!」

 大声出しちゃったかぁ……。
 まぁ仕方ないか。

「――し…………し……きょう……」

「い、今っ! 今すぐ助けるからなっ!」

「……だ……だ……め……」

「はい、退いてーー!」

「――おいっ! 何するっ!」

「彼女は呪いの発動媒体になっているんです」

「じゃあ……俺が浄化する!」

「うーん……無理かな」

「何でだ! これでも司教だぞ!」

「うん。だから、教会の浄化魔法って共通している部分があるでしょ? その部分に反応して発動するから、教会関係者に対する罠なんだよねー!」

「――じゃあどうしろって!」

 神父様はどうやら視野が狭くなっているようだ。
 大切な人を傷つけられたら同じようになるのも分かる。
 俺も大切な人を傷つけられることがあるだろうから、そのときに冷静になれるように神父様の姿を教訓として覚えておこう。

「シスターの救出は僕の商会が請け負った初めての仕事です。僕が助けます。荷物からシスターの服を取りだして待っていてください」

「だがっ!」

「グァ!」

 ユミルが背中から降りたと思ったら、神父を蹴り飛ばして無理矢理座らせた。

「イッタァァァ!」

「ユミルちゃん!」

「グァ!」

「邪魔だと言っていますよ」

 ディーノを蹴り飛ばしたときよりも手加減ができるようになっていたユミルに感動。
 俺は技能結晶に頼ったのに……。

「さて」

 【魔導眼】の解除を発動して消し飛ばすのは簡単だが、せっかくだから威力を確かめるのも悪くない。

 まぁ結果は確認できないだろうけど。

 【魔導眼】の反射を発動して、術式を術者に跳ね返す。追加で解除を発動して残滓を残さず消し去る。

 呪いを解除したから、次は当然治療だ。

 鍵を一つずつ合わせていったが、一つも合わない。
 どうやら領主が自分で保管しているらしい。

「……ムカつくわー」

「カルム……?」

 鉄格子の一つを掴んで思いっきり横に押し広げると、まるで粘土のようにぐにゃりと形を変えて入口ができた。

「うむ。扉が開いた!」

「「……」」

「僕が治療するまで回復魔法は使用しないでね」

「……あぁ」

 【魔導眼】からエリクサーを一本出して、無理矢理シスターに飲ませていく。
 同時に生活魔法で清浄してあげる。

「――け……欠損がっ!」

「カルム、交代っ!」

 ユミルとメイベルが服を剥いて、神父様が取りだした服を着せていく。

「神父様、背負子を用意してください」

「そ、そうだった!」

 馬車までは毛布で包んだシスターを、神父様が背負子で運び出す予定だ。
 そのため行きは体力を温存してもらっていた。
 帰りはグリムを肩に乗せて【不可視】を使用する。

「し……司教……」

「ど、どうした!?」

「し……かん……騎士が……男爵領……へ……」

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