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第三章 フドゥー伯爵家
第五十七話 魔物暴走
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翌朝。
今日は一日中探索ができるため、深層近くまで潜れるように効率重視の作戦を実行する予定だ。
一〇階層の転移門の登録も昨夜に済ませたから、野営地帯から出発するだけだ。
ちなみに、五層ごとの階段近くに野営をするための場所がある。
水場や簡易竃にトイレがある。
魔物が侵入できない結界も張られている。
ただ、安全地帯と言わない理由は、人間による被害もあるからだ。
ダンジョン内は無法地帯だから、平気で裏切ってくる人間も少なくない上、女性が襲われることなど日常茶飯事である。
「ジェイドくん、質問があります」
「何だ」
「次の階層はオークとのことですが、オークは美味しいのですか?」
「あぁー豚肉だ。もちろん、強い方が美味い」
「では、十四階層までは高速移動で行きます。今回は一応ロープを渡しておきます」
「やった!」
壁走りが相当怖かったらしく、ディーノが喜んでいた。
まぁ冒険者が活動している日中の方が、壁走りの頻度が多いだろうからね。無理もない。
「じゃあ行くよーー」
「はーい」
「「「「「おうっ」」」」」
顧問弁護士たちは返事をする余裕がないらしく、目を瞑って祈っていた。
「……シスターはジークハルトさんにしがみついて、ジークハルトさんはラルフに掴まっていればいいと思いますよ」
「――よろしく頼む」
「お願いします」
「は、はい」
それは名案だと気付いた顧問弁護士たちは、すぐにラルフに掴まっていた。
「では、出発します」
ゴブリン道よりも広いため、昨日よりも速度を出して進んでいる。
時折飛び出してくるオークもいるが、動きが遅いため攻撃が届く前に通り過ぎてしまう。
「あれに転生したのか……」
「そうですねー……」
オークを見ると不憫な女性のことを思い出してしまう。
知らない人だけど同じく召喚された被害者だからか、全く気にならないということはない。だからといって何もできないけど。
「十三階層から職持ちが出てくるみたいですー」
本来なら冒険者ギルドで情報を買うらしいけど、時間を取られたり妨害されたりが面倒だったから真っ直ぐにダンジョンに来た。
そのせいで行き当たりばったりになっているわけだが、階層に下りてしまえばグリムの探知魔法で判別し、転生賢者の知識データから検索できる。
「弓持ちと魔法職以外は無視かな」
「ですねー。当たりませんしー」
オークの矢は数撃ちゃ当たる戦法だから、グリムの緑系統魔法で逸らすだけで、変わらず通り過ぎることだができる。
魔法職は呪文を唱えている間に逃げるか、放たれた魔法を【魔導眼】の吸収で無効化すればいい。
「メイベルー」
「なにー?」
「誘引薬の準備をしておいてー」
「りょうかーい」
オーク作戦の肝であるアイテムを私兵団と一緒に準備しておいてもらい、十四階層に到着したらすぐに使えるようにしておく予定だ。
わざわざダンジョンに泊まり、早起きして冒険者が活動する前から爆走した理由こそ、オーク爆取り作戦をじっこうするためである。
「到着」
十四階層の後半近くにある広場。
周囲には冒険者の反応はなく、横槍が入る心配もない。
さらに、T字路の交差点であるのも良い。
壁際に回収班を待機させて置けるからね。
「では、作戦を伝える。討伐は変わらず、僕とモフモフ組で担当する。だけど、ドロップする量と速度は今までよりも格段に多く速くなるだろうから、収納は後回しにして荷車で回収することを勧める」
「はい」
「はい、ゲイルくん」
「例のモノも全て載せて仕分けも後ということですか?」
「そのとおり。ジークハルトさんたちだけで荷車を運用するのは非効率的だからね。今日は効率重視で行きますよ」
レアドロップ品をくすねたら、昨日の冒険者みたいになると思われているからこそ、全員参加型の回収ができるのだ。
ある意味信頼している。
「了解です」
ジェイドがラルフに荷車の牽引を頼み、肉などの大型ドロップ品は大人が荷車に詰み、シスターと子ども組は麻袋に小物を入れて行くように指示を出していた。
ラルフは最初は軽くて楽だろうけど、肉が増えて行けば行くほどキツくなるだろう。頑張れ。
「準備はいい? いくよー?」
「「「「「おうっ」」」」」
「「はーい」」
「頑張る」
私兵団はいつも通りで、女性陣は仲良く返事をし、神父様は真面目な顔で気合を入れていた。
全員の返事を確認した後、各通路の奥に一つずつと、広場の入口に一つずつ誘引薬を投げ込んだ。
同時に匂いが十四階層中に広がるようにグリムが風を送る。
「そ、それーー!」
神父様は私兵団が誘引薬を準備している意味が分からなかったらしく、俺が誘引薬を投げたことに驚いていた。
「ユミルは右ね」
「グァ」
「グリムは左ね」
「ホォー」
「僕は真ん中」
手には双剣使いのリビングアーマーが持っていた小剣を両手に持ち、右手を上段に掲げ、左手は左肩の前に立てて構える。
正式な構えではなく、『これから戦いに挑みます』という礼節の構えらしい。
双剣を神々に捧げるという意味があるらしく、それぞれそこから外側に円を描いてから腰だめに構える。
面倒くさい礼節だが、知名度も人気も世界最高峰の武術だ。
その名も――【ラーフォン流双剣術】。
親子ともども神官じゃないのに熱心な双天教信者で、武術担当の太陽神様の眷属『ラーフ』の名前を借りて名付けられたそうだ。
今回オークが集まるまで時間が必要だったから、暇つぶしにやってみたところ、神父様たち教会関係者以外で唯一反応した者がいた。
「ラーフォン流双剣術……」
「さすが、ジェイドくん。これも知ってるんだ」
「カルム、ボクでも知ってるよ。門下生が多い割に入門が難しいって」
「え? そうなの? 早く言えば教えてあげたのにー」
「「「はぁーー!?」」」
神父様も同じように驚いているが、元々天禀だった【剣術】のおかげで、武術書を読んで型を一通り行い、技を極められれば皆伝になるらしい。
技を極める相手は精神世界のフルカスだ。
都度的確なアドバイスをしてくれるため、他の皆伝持ちよりは実戦向きだと思うけどね。
槍術も同じようにフルカスと戦ったから、フルカスもアラド流神槍術を習得して教えられているわけだし。
「まぁこれからオーク相手に使うから、回収しながら見学しなよ。見学料は無料だからさー」
強化魔法で小剣の耐久力を上げ、努力結晶の阿修羅を意識する。
右目は【洞察眼】に、左目は【死天眼】にし、【白毫眼】の精度も上げておく。
「準備完了」
準備を終えた頃にようやく、十四階層の床が振動するほどのオークが広場に向かって行進してきた。
「き、来た……。スタンピードだ……」
ビビりまくりの神父様を尻目に討伐を開始する。
実際のところ、スタンピードを起こすという方法はかなり黒寄りのグレーゾーンだろうけど、事故って言えば無問題。
――ラーフォン流双剣術《満天》
防御寄りの月剣も使い、止まることのない連撃を放つ攻撃だが、虚実を混ぜることによって単調な攻撃にならないようにしている。
一撃目に利き手の陽剣の横薙ぎから入ったら、体を戻すことなく回転させて反対の月剣ですくい上げるように攻撃する。
今度は月剣の振り下ろしを囮にして、有利な立ち位置になるように移動する。
といったように、ラーフォン流双剣術の肝は舞っているように見える歩法だ。
双剣の使い方に目が行きがちだが、動きこそが人々を魅了し、敵対者に絶望を見せる。
まぁ俺はインチキしているけどね。
【洞察眼】で動き出しを察し、【死天眼】で動きを止める。
隙だらけのオークの首を切り裂き、胸に剣を突き入れて一撃で討伐していく。本当の五歳児なら小剣一本を頑張って持てるくらいなのに、両手に持って縦横無尽に駆け回る異常さ……。
うん。ママンにバレたらヤバそうだ。
でも、ママンにも技能結晶をプレゼントしたいんだよね。
【虚空蔵】の並列思考と、高速思考による行動予測を使っているため、考え事していても問題なく討伐できている。
時折、メイベルたちに標的が移り変わりそうになる度、ゴブリンから得た【挑発】を使ってヘイトを集めた。
「僕の方はだいたい片づいたけど?」
チラッとグリムを見ると、グリムは遠距離攻撃型以外はまともに相手をしないという楽をしていた。
広場の入口に魔力の網を張り、ギリギリまで埋め尽くされるのを待ってから気○斬みたいな魔法攻撃で首をはねていた。
網と同朋のせいで身動きが取れないオークは、避けることもできずにドロップ品に変わっていく。
しかも、グリムは俺とは違って親切だった。
後続のオークを一時的に網で止めておき、回収班が回収しやすいようにしていた。
俺のところはおっかなびっくりで拾っていただろうから、少し申し訳なく感じる。
「ユミルはー?」
――ね……寝てる……。
うたた寝をしているユミルの前の入口には、氷でできた剣山のような壁があり、オークが突き刺さってドロップ品に変わったかと思えば、次のオークが突き刺さっていくという無限ループが繰り広げられている。
ユミルは、後でまとめて拾えばいいじゃんと思っているのだろう。
剣山の下部に山ほどのドロップ品が落ちていた。
「ユミル、下の部分だけ穴を空けられる?」
「グァ」
下部の一部だけ穴が開いて、壁が落下しないようにしてくれた。
そこから貴重なものを優先して集め、遠くにあるものは俺が念動でたぐり寄せていくことで、討伐と同時に回収も終わる。
「疲れたーーー!」
一番の年長者である神父様が辛そうにしているが、まだ仕分けと吸収作業が残っている。
当たり前だが、【異空袋】は商会メンバーしか持っていない。
だから、肉系は彼らの時間停止の方に入れてもらう。容量を超えるなら俺も預かるけどね。
「吸収を先にやった方が楽だと思うよ。【強靭】だって」
「肉体労働向きだな」
ジェイドはもっとパシられそうだと思っているのか、表情が暗い。
「どうしたのかな?」
「……剣術は教えてくれるのか?」
「いいよ。一応教官コンビにも教えておくからさ、頑張ってくれたまえ」
「あぁ。感謝する」
「いいの、いいの」
十四階層のオークを一掃し、十五階層のボス部屋へと向かうのだった。
今日は一日中探索ができるため、深層近くまで潜れるように効率重視の作戦を実行する予定だ。
一〇階層の転移門の登録も昨夜に済ませたから、野営地帯から出発するだけだ。
ちなみに、五層ごとの階段近くに野営をするための場所がある。
水場や簡易竃にトイレがある。
魔物が侵入できない結界も張られている。
ただ、安全地帯と言わない理由は、人間による被害もあるからだ。
ダンジョン内は無法地帯だから、平気で裏切ってくる人間も少なくない上、女性が襲われることなど日常茶飯事である。
「ジェイドくん、質問があります」
「何だ」
「次の階層はオークとのことですが、オークは美味しいのですか?」
「あぁー豚肉だ。もちろん、強い方が美味い」
「では、十四階層までは高速移動で行きます。今回は一応ロープを渡しておきます」
「やった!」
壁走りが相当怖かったらしく、ディーノが喜んでいた。
まぁ冒険者が活動している日中の方が、壁走りの頻度が多いだろうからね。無理もない。
「じゃあ行くよーー」
「はーい」
「「「「「おうっ」」」」」
顧問弁護士たちは返事をする余裕がないらしく、目を瞑って祈っていた。
「……シスターはジークハルトさんにしがみついて、ジークハルトさんはラルフに掴まっていればいいと思いますよ」
「――よろしく頼む」
「お願いします」
「は、はい」
それは名案だと気付いた顧問弁護士たちは、すぐにラルフに掴まっていた。
「では、出発します」
ゴブリン道よりも広いため、昨日よりも速度を出して進んでいる。
時折飛び出してくるオークもいるが、動きが遅いため攻撃が届く前に通り過ぎてしまう。
「あれに転生したのか……」
「そうですねー……」
オークを見ると不憫な女性のことを思い出してしまう。
知らない人だけど同じく召喚された被害者だからか、全く気にならないということはない。だからといって何もできないけど。
「十三階層から職持ちが出てくるみたいですー」
本来なら冒険者ギルドで情報を買うらしいけど、時間を取られたり妨害されたりが面倒だったから真っ直ぐにダンジョンに来た。
そのせいで行き当たりばったりになっているわけだが、階層に下りてしまえばグリムの探知魔法で判別し、転生賢者の知識データから検索できる。
「弓持ちと魔法職以外は無視かな」
「ですねー。当たりませんしー」
オークの矢は数撃ちゃ当たる戦法だから、グリムの緑系統魔法で逸らすだけで、変わらず通り過ぎることだができる。
魔法職は呪文を唱えている間に逃げるか、放たれた魔法を【魔導眼】の吸収で無効化すればいい。
「メイベルー」
「なにー?」
「誘引薬の準備をしておいてー」
「りょうかーい」
オーク作戦の肝であるアイテムを私兵団と一緒に準備しておいてもらい、十四階層に到着したらすぐに使えるようにしておく予定だ。
わざわざダンジョンに泊まり、早起きして冒険者が活動する前から爆走した理由こそ、オーク爆取り作戦をじっこうするためである。
「到着」
十四階層の後半近くにある広場。
周囲には冒険者の反応はなく、横槍が入る心配もない。
さらに、T字路の交差点であるのも良い。
壁際に回収班を待機させて置けるからね。
「では、作戦を伝える。討伐は変わらず、僕とモフモフ組で担当する。だけど、ドロップする量と速度は今までよりも格段に多く速くなるだろうから、収納は後回しにして荷車で回収することを勧める」
「はい」
「はい、ゲイルくん」
「例のモノも全て載せて仕分けも後ということですか?」
「そのとおり。ジークハルトさんたちだけで荷車を運用するのは非効率的だからね。今日は効率重視で行きますよ」
レアドロップ品をくすねたら、昨日の冒険者みたいになると思われているからこそ、全員参加型の回収ができるのだ。
ある意味信頼している。
「了解です」
ジェイドがラルフに荷車の牽引を頼み、肉などの大型ドロップ品は大人が荷車に詰み、シスターと子ども組は麻袋に小物を入れて行くように指示を出していた。
ラルフは最初は軽くて楽だろうけど、肉が増えて行けば行くほどキツくなるだろう。頑張れ。
「準備はいい? いくよー?」
「「「「「おうっ」」」」」
「「はーい」」
「頑張る」
私兵団はいつも通りで、女性陣は仲良く返事をし、神父様は真面目な顔で気合を入れていた。
全員の返事を確認した後、各通路の奥に一つずつと、広場の入口に一つずつ誘引薬を投げ込んだ。
同時に匂いが十四階層中に広がるようにグリムが風を送る。
「そ、それーー!」
神父様は私兵団が誘引薬を準備している意味が分からなかったらしく、俺が誘引薬を投げたことに驚いていた。
「ユミルは右ね」
「グァ」
「グリムは左ね」
「ホォー」
「僕は真ん中」
手には双剣使いのリビングアーマーが持っていた小剣を両手に持ち、右手を上段に掲げ、左手は左肩の前に立てて構える。
正式な構えではなく、『これから戦いに挑みます』という礼節の構えらしい。
双剣を神々に捧げるという意味があるらしく、それぞれそこから外側に円を描いてから腰だめに構える。
面倒くさい礼節だが、知名度も人気も世界最高峰の武術だ。
その名も――【ラーフォン流双剣術】。
親子ともども神官じゃないのに熱心な双天教信者で、武術担当の太陽神様の眷属『ラーフ』の名前を借りて名付けられたそうだ。
今回オークが集まるまで時間が必要だったから、暇つぶしにやってみたところ、神父様たち教会関係者以外で唯一反応した者がいた。
「ラーフォン流双剣術……」
「さすが、ジェイドくん。これも知ってるんだ」
「カルム、ボクでも知ってるよ。門下生が多い割に入門が難しいって」
「え? そうなの? 早く言えば教えてあげたのにー」
「「「はぁーー!?」」」
神父様も同じように驚いているが、元々天禀だった【剣術】のおかげで、武術書を読んで型を一通り行い、技を極められれば皆伝になるらしい。
技を極める相手は精神世界のフルカスだ。
都度的確なアドバイスをしてくれるため、他の皆伝持ちよりは実戦向きだと思うけどね。
槍術も同じようにフルカスと戦ったから、フルカスもアラド流神槍術を習得して教えられているわけだし。
「まぁこれからオーク相手に使うから、回収しながら見学しなよ。見学料は無料だからさー」
強化魔法で小剣の耐久力を上げ、努力結晶の阿修羅を意識する。
右目は【洞察眼】に、左目は【死天眼】にし、【白毫眼】の精度も上げておく。
「準備完了」
準備を終えた頃にようやく、十四階層の床が振動するほどのオークが広場に向かって行進してきた。
「き、来た……。スタンピードだ……」
ビビりまくりの神父様を尻目に討伐を開始する。
実際のところ、スタンピードを起こすという方法はかなり黒寄りのグレーゾーンだろうけど、事故って言えば無問題。
――ラーフォン流双剣術《満天》
防御寄りの月剣も使い、止まることのない連撃を放つ攻撃だが、虚実を混ぜることによって単調な攻撃にならないようにしている。
一撃目に利き手の陽剣の横薙ぎから入ったら、体を戻すことなく回転させて反対の月剣ですくい上げるように攻撃する。
今度は月剣の振り下ろしを囮にして、有利な立ち位置になるように移動する。
といったように、ラーフォン流双剣術の肝は舞っているように見える歩法だ。
双剣の使い方に目が行きがちだが、動きこそが人々を魅了し、敵対者に絶望を見せる。
まぁ俺はインチキしているけどね。
【洞察眼】で動き出しを察し、【死天眼】で動きを止める。
隙だらけのオークの首を切り裂き、胸に剣を突き入れて一撃で討伐していく。本当の五歳児なら小剣一本を頑張って持てるくらいなのに、両手に持って縦横無尽に駆け回る異常さ……。
うん。ママンにバレたらヤバそうだ。
でも、ママンにも技能結晶をプレゼントしたいんだよね。
【虚空蔵】の並列思考と、高速思考による行動予測を使っているため、考え事していても問題なく討伐できている。
時折、メイベルたちに標的が移り変わりそうになる度、ゴブリンから得た【挑発】を使ってヘイトを集めた。
「僕の方はだいたい片づいたけど?」
チラッとグリムを見ると、グリムは遠距離攻撃型以外はまともに相手をしないという楽をしていた。
広場の入口に魔力の網を張り、ギリギリまで埋め尽くされるのを待ってから気○斬みたいな魔法攻撃で首をはねていた。
網と同朋のせいで身動きが取れないオークは、避けることもできずにドロップ品に変わっていく。
しかも、グリムは俺とは違って親切だった。
後続のオークを一時的に網で止めておき、回収班が回収しやすいようにしていた。
俺のところはおっかなびっくりで拾っていただろうから、少し申し訳なく感じる。
「ユミルはー?」
――ね……寝てる……。
うたた寝をしているユミルの前の入口には、氷でできた剣山のような壁があり、オークが突き刺さってドロップ品に変わったかと思えば、次のオークが突き刺さっていくという無限ループが繰り広げられている。
ユミルは、後でまとめて拾えばいいじゃんと思っているのだろう。
剣山の下部に山ほどのドロップ品が落ちていた。
「ユミル、下の部分だけ穴を空けられる?」
「グァ」
下部の一部だけ穴が開いて、壁が落下しないようにしてくれた。
そこから貴重なものを優先して集め、遠くにあるものは俺が念動でたぐり寄せていくことで、討伐と同時に回収も終わる。
「疲れたーーー!」
一番の年長者である神父様が辛そうにしているが、まだ仕分けと吸収作業が残っている。
当たり前だが、【異空袋】は商会メンバーしか持っていない。
だから、肉系は彼らの時間停止の方に入れてもらう。容量を超えるなら俺も預かるけどね。
「吸収を先にやった方が楽だと思うよ。【強靭】だって」
「肉体労働向きだな」
ジェイドはもっとパシられそうだと思っているのか、表情が暗い。
「どうしたのかな?」
「……剣術は教えてくれるのか?」
「いいよ。一応教官コンビにも教えておくからさ、頑張ってくれたまえ」
「あぁ。感謝する」
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十四階層のオークを一掃し、十五階層のボス部屋へと向かうのだった。
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