婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ

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偽りの理想

四十五話 揺らぐ

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「……なるほどな」

 リカルドから受け取った密約の証拠を改めて見直しながら、私は考えを巡らせていた。

「この書状を公にすれば、フェリクス王子の立場は確実に揺らぐ。でも……」

「でも?」

 私の隣でリカルドが興味深そうに問いかける。

「まだ確実じゃないわ。フェリクス王子は王族よ。これくらいのスキャンダルなら、力でねじ伏せる可能性が高い」

「まぁ、確かにな。これだけで完全に潰せるとは思わない」

「だからこそ、もうひと押しが必要なのよ」

 私は指で書状の端を弾きながら、ゆっくりと言った。

「フェリクス王子がどんな手を使ってでも隠したいような、もっと決定的な何かがあるはず。それを引きずり出せば、彼を擁護する勢力も黙るしかなくなる」

「……なるほどな。じゃあ、もう少し掘ってみるか」

「お願いするわ」

 リカルドはニヤリと笑い、軽く肩をすくめた。

「お前の頼みなら、やってやるさ」

***

 一方、その頃――王宮の一室。

「……どういうことだ、アレクシス」

 フェリクス王子の低い声が響いた。

「俺の情報が外に漏れ始めている。これはどういうことだ?」

「それは……」

 アレクシス王太子は表情を曇らせ、言葉を濁す。

「お前のところの貴族たちの誰かが、裏切ったんじゃないのか?」

「……そんなはずはない」

「“そんなはずはない”じゃない」

 フェリクス王子は苛立たしげにテーブルを叩いた。

「このままだと、俺の立場が危うくなる。お前も無関係じゃないだろう?」

「……分かっている」

 アレクシス王太子は苦い表情で言った。

(まさか、ここまで計画が狂うとは……)

 彼は心の中で舌打ちした。

 フェリクス王子が失脚すれば、自分の権力基盤にも影響が及ぶ。二人はそれぞれの立場で利益を共有していたからこそ、強気に動けていた。

 だが――。

(誰かが仕掛けている……?)

 アレクシス王太子は思い当たる名前を考える。

 そして、一人の少女の顔が浮かんだ。

(……セシリア・バートレイか)

 王子としての誇りを傷つけられたフェリクス。王太子としての権威を無視されたアレクシス。

 彼らのプライドを打ち砕いた女の名が、ふたりの脳裏に焼き付いていた。

「フェリクス、お前の動きを探られているのなら、俺の方からも調べよう」

「……頼む」

 フェリクス王子は険しい表情で頷いた。

 しかし、この時彼らはまだ知らなかった。

 ――セシリアの策略は、すでに次の段階へ進んでいることを。
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