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「学園はどう?」

「少しずつだけど慣れてきたわ。面白い授業も幾つかあるし、綺麗で広々としたカフェも気にいってる」

あれからみんなでハルトのお手入れを終え、庭でのティータイムとなった。
向かい合ったティーテーブルで、琥珀色の紅茶が目の前で注がれていくのを見つめる。


「経済や貿易について学ぶ授業ばかり選択しているみたいだね」



ハッとしてランデルに視線を移す。

やばい、さっそくそんな事も知られているなんて。まあ広い学園だとしても、学年も同じだしね…。



「他に興味のある授業がなかっただけよ」


「カイリン教授が、君の事をとても勉強熱心で優秀な生徒だと誉めていたよ」


「…勉強は嫌いじゃないの。学ぶ事は楽しいし」

それは本当だ。レオノールになる前の人生ではまともに勉強出来る環境もなかったし、お金もなかった。

そりゃ高校位は通わせてもらっていたけど、あの最低な父親との暮らしだ。メンタルがボロボロで勉強どころじゃなかった。

だからこうしてやりたい事を自由に学べるのは、本当に幸せなのだと思う。心底有難いと思っている。


「そう…あと、本当に婚約者なのかと聞かれたよ。まるでどこぞの跡継ぎかのように、熱心に勉強していて感心していると言っていたかな」

カイリン先生…あなたの授業は楽しくて、とっても為になるけど今はとっても憎いです!!

「ほっ…ほほ。カイリン教授があまりにも熱心に授業をして下さるから、こちらもそれに応えようと熱が入ってしまうのよね」

「ふぅん」

「そっ、そうだランデル!!これ食べてみない?」

会話の内容を今すぐ変えたい。
私はテーブルの上の瓶を差し出す。

「?苺ジャム?」

「ええ、ベリテの屋敷の庭で育てた苺のジャムよ」

「これ、レオノールが作ったの?」

「ふふっ、そう言いたい所だけどこのジャムはシェフに作ってもらったの。でもこの苺は私が育てたんだから」

ぷるぷるの真っ赤なジャムが、美味しそうに瓶の中で収まっている。

大切に大切に育てた艶やかな苺は、今年も沢山実ってくれた。見た目も愛らしくて、実をつけた時はきゅんきゅんトキメいてしまった。

「へぇ…僕はそういう…土に触れる事?をした事がないな。楽しい?」


「まあ、王族が土いじりなんてそうそうしないわよね。でも何かを育てるのって凄く楽しいわよ。小さくて可愛い芽が出た時は、ずっと見ていられるわ」


「…それじゃあ僕も何か育ててみようかな」

「本当??」

「うん、レオノールの目が生き生きしてるから。その時は一緒に色々と教えてくれる?」

「もちろんよ!さあ、スコーンにつけて食べてみて。甘酸っぱくて美味しいわよ」

皿の上にシェフご自慢のサックリと焼き上がったスコーンをのせる。

うん、美味しそう。

はいどうぞとランデルに皿を渡そうとしたけど、受け取らないランデル。

「?」

「今日はあーんしてくれないの?」

「!!!」

なっ、なっ、なんですとぉっ????!!!そ、それは何ともご褒美…じゃなかった、いやいやそんな事出来る訳ないじゃん!!

薄く口を開くランデルが甘えたようにスコーンを急かしてくる。

くっ…超イケ可愛いっ!!!可愛いすぎるようっ!!!
もうこれ今世紀最大の神スチルじゃん!!!

ランデルの目の前だ。淑女らしく、身悶えたい感情を押し殺さないと。

「あーん」

「らっ、ランデル?あなた、もう子供じゃないでしょう?自分で食べて」


「いいでしょう?僕は君の婚約者なのだから」

「…っっ!!!」


またまた可愛く首をこてんと傾けるランデル。


ひぃっ!推しが久しぶりに本気で殺しにかかってきてる!

くっ…いいよ、やってやろうじゃんっ!こんなチャンスもう二度とないかもしれないしね!

割ったスコーンにクロテッドクリームとジャムをのせてフォークに突き刺す。
色々とマナーがなってないけどそこは許して欲しい。


「分かったわよ……はい、あーんっ…!!」

自分でも分かる。この苺ジャムばりに顔が真っ赤になっているのが分かる。

そしてフォークを握る手も、盛大にぷるぷると震えている。

「…っぷっ…ふふっ」


えっ?どしたのランデル…え?
ぽかんとした顔で、急に吹き出したランデルを眺める。やだ、可愛い…って、違うっ!!!


「…もう、ランデルッ! からかったのねっ!…あっ」

一旦スコーンを皿に戻そうとした瞬間、綺麗だけど男らしくなったランデルの手が私の手首を掴み…。

ぱくりとフォークに刺さったスコーンを口に入れるランデル。

「!!」

「本当だ。甘酸っぱくて美味しい」


と、してやったりと言ったように上目遣いでくすりと笑うランデル。



爽やかな蒼空の下。



あの頃とは違う、色気たっぷりのランデルに再び天に召されそうになった今日この頃…。





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